映画評「セッション」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2014年アメリカ映画 監督デイミアン・チャゼル
ネタバレあり

デイミアン・チャゼルなる新鋭による音楽映画の秀作。

偉大なジャズ・ドラマーを目指してシェーファー音楽院に入学した若者マイルズ・テラーが、正確無比なテンポを求める鬼教授J・K・シモンズに徹底的にしごかれるが、バスの不具合により遅刻をした結果の暴力沙汰の為に退学処分になる。
 暫くして、ジャズ・クラブで再会したシモンズは誰かの密告により自分も学校を辞めさせられたと言う一方で、コンサートへの参加を依頼する。
 が、それはテラー君を密告者と決めつけるシモンズ氏の復讐で、突然練習をしたことのない新しい楽曲を演らされる。一度めげて退場しかけた若者は、父親の前で踵を返し突然ドラムを激しく叩き始め、シモンズを無視してバンドをリードし始める。やがてその力量を認めざるを得なくなったシモンズと音楽家としての尊敬の念を交換し合う。

最後の10分間の後思わず拍手を送った。互いの格闘家のような対決をエネルギッシュに縦横無尽に捉えたカメラワークにである。カット割りに興奮するのは何年ぶりだろう。クロースアップ、ミディアムショット、ロングショット、俯瞰、平行、仰角を巧みに使って、時にカットを細かく切り時にカメラを早く振り、演奏のエネルギーと主人公の熱さに見事に応えている。

内容は、音楽に対する心意気の寓意を表現したものである。だから、ジャズ・ファンほど誤解をする。この映画は早叩きやドラム・ソロがジャズであるなどと言おうとしてるわけではない。音楽の放つエネルギーを早叩きや長いソロで象徴させているのである。表現上のレトリックである。
 そういうことに関しては音楽に限らず、専門的知識がある人ほど間違えやすい。ジャズを誤解しては困るという意味においてその心配は解るが、仮にジャズの好きな人が増えなくても我々の関与することではないし、これだけ熱いものを見せられればジャズに興味を持つ人は結構いると思われ、決してマイナスにはなるまい。

当初彼は密告していないと僕は思ったが、しかしそうであればあのシーン若しくはシークエンスは必要ない。シモンズが「君が密告した」と思うのは逆恨みではないのだろう。
 また、シモンズの性格の悪さは恐らく本物で、学校時代は彼の実力をのばそうと思って汚い策を使った可能性が高いが、コンサートでの意地悪は本気だったに違いない。しかし、不遜な態度を取ってまで音楽に対する熱い思いを告げる彼とその叩き出すリズムにシモンズをして完全に脱帽させたということであろう。

この幕切れには、ボクシング映画のボクサー以上に、「眼下の敵」における互いの敵に最大の尊敬の念を捧げる艦長二人を思い出させるものがある。

ジャンルはドラマにするけれど、青春映画でも良いね。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年03月06日 15:30
ロックにしろジャズにしろ演じている俳優がシロウトでも、いかにそれらしく見せて観客を引き込むかでありますね。
これは成功している映画でありますね。
オカピー
2016年03月06日 19:34
ねこのひげさん、こんにちは。

>いかにそれらしく見せて
これが肝要!
マイルズ・テラー君の演奏姿、迫力ありましたね。

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