映画評「チャッピー」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年アメリカ=メキシコ合作映画 監督ニール・ブロムカンプ
ネタバレあり

第9地区」で一躍有名になったニール・ブロムカンプの作品としては同作に大分及ばないと世評では言われているが、当時僕は既にSFにおけるモキュメンタリーに飽きていたし、アパルトヘイトの風刺も今更の感があり、余り面白く感じられなかったから、哲学SFたる本作のほうが寧ろ楽しめる。人間そのもの、形而上学に関心のある人には「第9地区」より本作をお勧めしたい。

近未来とも言えない今年2016年のヨハネスブルク、ある軍事企業の若手開発者デヴ・パテルが開発した人工知能(AI)搭載の警察ロボットが活躍して治安が保たれている。企業の中にそれを面白く思っていないもう一人の開発者ヒュー・ジャックマンがいる。彼は人間の動作に同期して動く大型戦闘ロボットを推し進めている。
 ここに、ニンジャ(芸名役名ともに同じ)、ホセ・パブロ・カンティージョ、女性ヨ=ランディ・ヴィッサーの三人組ギャングがいて、一番知的なヨ=ランディの発案で警官ロボットを止める為に製作者パテルを誘拐することにする。
 折しも誘拐されたパテルは廃棄ロボットの活用で学習型ロボットを開発中で、ロボットがリモコン操作で止められないことを知った三人組は、この新ロボットを味方につけようとする。
 起動したばかりのロボット愛称チャッピー(シャールト・コプリー)は赤子と同じで、ヨ=ランディの母性本能を目覚めさせる。男たちは荒っぽく彼を教育する一方、創造主であるパテルは「犯罪はいけない」と心底に定着させる。犯罪者たちはバッテリーの影響で寿命が5日しかないチャッピーに、嘘を言って車泥棒に担ぎ出し、眠らせると称して殺傷能力のある忍者道具を使わせる。
 ジャックマンは警察ロボットのプログラムにウィルスを忍ばせて活動を停止させ、独立で動く唯一のチャッピーの犯罪行為が報告された為、社長シガーニー・ウィーヴァーも遂に彼の大型ロボットを認可する。
 加速度的に進化するチャッピーは創造主が移動できないと告げていた“意識”のデータ化に成功、やがて創造主が重体になると自分より先にこれを適用する。機械に生まれ変わった創造主パテルはチャッピーの意識も別のマシンに移す。生前USBメモリーに残しておいたヨ=ランディも蘇る。

科学的には勿論SF的にも理屈に合わないところがあり、相当乱暴なお話であるが、バッテリー交換などで生き延びることができないチャッピーに作者は人間を投影しているわけである。人間を探求するには、科学的に正しくても、チャッピーがバッテリーや部品を変えることで生き延びてはまずいのである。

この作品では三つの意識は永久に生きることが理論的に可能になると示しつつ、意識はコピーできるのか、コピーされた意識は依然人間(魂)と言えるのかどうか、という命題を作者は観客に投げつける。彼らにとって此岸と彼岸は存在しないのか。性善説(人間は環境次第)と性悪説(人間は教育次第)は基本的に同じ考えであること。観客は作者の命題提示に対して何かを考えれば良い。

学習型AIを搭載した少年型アンドロイドが、学習すればするほど(人間と違って忘れることがない為)人間から乖離するのに、愚か極まりない人間になろうとする悲劇を通して悲しき人間を描き上げた哲学SF「A・I」(2001年)の繊細な作りには大分及ばないながら、AIをモチーフにした作品の中では示唆に富む部類と思う。

「A・I」は人間を間接的に描いて深遠極まりない秀作であったが、そこを理解しない人が甚だ多く、過小評価された。観客の思う通りにAIが行動しないことにこそ意味があった。何故ならAIのアンチテーゼが人間だから。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年01月24日 13:13
『A・I』は何度観てもすごいですがね~
この映画は首を傾げるところが多いですね。
後4、5年でコンピューターが人間を超えるそうですが、鉄腕アトムはまだ完成しないようで・・・
オカピー
2016年01月24日 21:21
ねこのひげさん、こんにちは。

>『A・I』
は映画評を書いていますが、きちんとしたものはかいていないんですよね。
ちゃんとしたものは、「ピノキオ」と「汚れなき悪戯」を交えて書かないとダメなので、なかなかできまへん。

>人間を超える
いやはや何とも(笑)

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