映画評「天才スピヴェット」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2013年フランス=カナダ合作映画 監督ジャン=ピエール・ジュネ
ネタバレあり

ジャン=ピエール・ジュネは初期の頃は過剰なイマジネーションが歪んだ画面と相まって親しめなかったが、「アメリ」(2001年)以降ぐっと僕の感性と波長が合ってきた。何よりお話が面白くなった。それはライフ・ラーセンという人の書いた小説を原作にした本作でも変わらない。秀作。

モンタナの牧草地帯。10歳のT・S・スピヴェット君(カイル・キャトレット)は、誰にも成し遂げられなかった永久機関の発明を為し、ワシントンDCにあるスミソニアン博物館の女性次長(ジュディー・デーヴィス)からベアード賞を受賞したので表彰式に出席してほしいと頼まれる。勿論少年が発明者と知らずに。
 理由を付けて一度は(発明した大人=父親のふりをして)固辞した少年は考え直して、日に三度通る貨物列車にホーボーよろしく無賃乗車して首都ワシントンへ向かう。

この無銭横断旅行が全体の半分位を占め、少年と直に或いは間接的に人々と触れる模様が実に面白く、時に滋味満杯に描写され、大いに楽しませてくれる。特に、放浪のおじさんに松の葉とスズメにまつわる昔話を聞かされるところが味わい深い。少年は科学的なミスを訂正しながら、きちんとその昔話の「護ってくれるものの必要性」という教訓を理解している。単なる科学の天才だけではなかったのだ。

そんな繊細な彼であるから、彼が旅の間に、そしてその為に旅を決意した二卵性双生児の弟、父のお気に入りの弟レイトン(ジェイコブ・デーヴィーズ)の不慮の死を終始思わずにはいられない。そのお話は、博物館での挨拶でも語られる。しかし、彼を苦悩させる繊細な罪悪感ですら自らの欲しか眼中にない大人たちは利用しようとする。
 反面、インタビュー番組を放映中のTV局に現れた虫の研究家で多分彼に天才を与えた母親(ヘレナ・ボナム=カーター)は勿論、生まれながらのカウボーイたる父親(カラム・キース・レニー)もそんな大人たちを殴り倒すくらい息子が大好き。何かと息の合わない姉さん(ニーアム・ウィルスン)だって弟がTVに出れば大喜びだ。言うまでもなく、家族が彼にとってスズメ(彼の名前のSはスパロー即ちスズメのこと)を寒さから護る松の葉のような存在であったのだと解り、めでたしめでたし。

この幕切れは後味が良く感涙を催させる。しかし、敢えて文句を言わせてもらうならば、序盤の全く噛み合わないような家族描写から推して予想される内容でありすぎて少々物足りない。ここに膝を打つような捻りがあったら永久機関版もとい永久保存版でしたなあ(と言うのは洒落であって、永久保存版決定であります)。

少年の目には何故結ばれたか解らない両親も、実はひょんなところで行動の相似性があったり、少年が貨物車から見出す少女は永久機関のようにずっと回転していたり、細かいところに気を配ったショットが満載。

ショットと言えば、少年の脳内映像が吹き出しのように現れるのがジュネらしい工夫。恐らくこれを活かす為に3Dで撮ったらしい。

主人公の年齢、そのナレーションによる進行、犬が出て来ることからラッセ・ハルストレムの秀作「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」(1986年)を思い出させる。かの少年は喪失感、こちらの少年は罪悪感(と疎外感)に苦しめられる。主人公を演じたカイル・キャトレット君が可愛らしい。

子供っぽさもいっぱいの天才でしたね。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年12月21日 02:37
年末になると、毎年のことながら永久機関のように延々と仕事が続いてくたびれます。(苦笑)
永久機関はありえないんだけどね~ファンタジーかな?
しかし映画はよい映画に仕上がっておりますな~
オカピー
2015年12月21日 18:33
ねこのひげさん、こんにちは。

ご苦労様です。
当方、金になる仕事が舞い込んで来ません。諦めました。

>永久機関
それを覆したから大発明なのですが、別の意味で有限であると言っていましたね。

子供が出れば良い映画になる、などという戯言は言わないものの、面白かったです。

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