映画評「ジミー、野を駆ける伝説」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2014年イギリス=アイルランド=フランス映画 監督ケン・ローチ
ネタバレあり

再びケン・ローチ監督作品、本人が最後の作品かもしれないと言っている最新作である。

1922年の独立戦争(実質的な内戦)前から直後まで兄弟の葛藤を軸にアイルランドの悲劇を描いた秀作「麦の穂をゆらす風」の後日談のようなお話で、戦争の10年後1932年のアイルランドをテーマとしている。

移住先のアメリカから22年に一旦帰国して内戦の際に活動、追放処分を受けて10年ぶりに帰って来た元活動家ジミー・グラルトン(バリー・ウォード)は、若者たちに請われ、10年前に文化芸術活動の象徴であった集会所を再建する。集会所は踊りを中心とした文化的活動に開けた施設として自由を求める若者を中心に活況を呈す。が、カトリック教会のシェリダン神父(ジム・ノートン)が人々の精神を破壊するのでまかりならんと、政治的保守勢力とタッグを組んで、圧力を加えていく。委員として神父を迎える懐柔策は頑固な神父により拒まれ、やがてジミーは再びアメリカへ追放され、1945年59年の生涯を閉じる。

この作品が描いているのは、政治的思惑のない単なる自由な気風が、因循な保守層に“思想”を理由に圧迫される不条理である。
 ローチとしては、イスラム教圏を特に念頭において、文化的不自由に苛まれる人々が現在も多くいることを訴える為に、80年前のアイルランドの社会を再現したのであろう。

グラルトンは共産主義者で、実際にはもっと政治的な人物であったのかもしれないが、本作では文化・芸術を楽しむ自由を妨害する保守に純粋に対抗する人としてぐっと純化されている。

こうしたムードは現在の日本でも無縁ではない。埼玉県の市役所が発行する広報か何かに短歌を載せないといった事例がニュースになった。詠まれた短歌は客観的に政治運動の光景を捉えたものであり、必ずしも作者の政治思想を反映したものではない(実際には分らないが、その歌からその運動の目的が正しいと断定的に読み取れない以上余り関係ない)。これを「意見の分かれる事案に関するものだから公平性に鑑みて排除する」というのはいかにも窮屈である。終戦後数年前までこんなことはなかった。政治的と言って排除するその行為自体が極めて政治的であるという矛盾を抱えるものであり、僕は残念に思う。
 戦後日本の場合は、戦前のアイルランドと違い、権力が直接文化活動を抑圧することは少ないが、日本人の悪い癖で空気を読みすぎる。かの市役所の場合は「政権を怒らせたらまずい」という勝手な判断だろう。

閑話休題。
 ローチは映画作家であるから、表現の自由がこうした宗教的・体制的理由で抑圧されるのは我慢ならなかったのに違いない。本当に最後の作品となるならば、本作の意図は益々それに特化されることになる。テーマ性故に「麦の穂をゆらす風」に比べれば迫力に欠けるが、ローチの思いを汲んで★一つがとこ余分に進呈致しました。

科学者の調査によると、保守層の大半が清潔志向なのだそうだ。これは理解できる。外部から侵入する菌にやられてはいけないと、【種の保存】の本能が働くのだろう。実際には種は突然変異して進化する。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年11月22日 08:26
種の保存・・・実際、異種と交わらなければ、その種は衰退の一途を辿るんだけどね。
血の繋がりがない出来るだけ遠い血と交わろうとするのはより強く優秀な種を作ろうとする本能が働くのでしょう。
ハーフに美男美女が多いのはそのあたりが理由だと思うんだな。
オカピー
2015年11月22日 18:54
ねこのひげさん、こんにちは。

僕は文化に関してはかなり保守ですが、民族の純度なんてどうでも良いなあ。
元来日本人はハイブリッドらしいですし。
そもそも沖縄の人は日本人ですが、民族的には別民族でしょうよ。

>ハーフ
各々のハードな部分が消されて良い面が目立つのかもしれない、などとも僕は考えています。逆になったら悲惨ですけど。

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