映画評「奇跡の丘」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1964年イタリア映画 監督ピエル・パオロ・パゾリーニ
ネタバレあり

アウグスティヌスの大著「神の国」とキリスト教会との関係を避けて語れないガリレオ・ガリレイの「天文対話」を読んだばかりだからというわけでもないが、久しぶりにピエル・パオロ・パゾリーニによるこのイエス伝を見たくなった。先年旧約と新約聖書を通読した後の朧げな記憶によれば、本作は「マタイによる福音書」をかなり忠実に映画化している。「処女懐胎」「最後の晩餐」「ゴルゴダの丘」「復活」等々から成る有名な挿話群についてあらためて述べるまでもないと思う。

さて、後年の印象は大分違うが、パゾリーニは基本的にリアリズムの人である。本作もネオ・リアリズムの映画のようにセミ・ドキュメンタリーに徹してロケを敢行、演技者にはアマチュアを採用、大袈裟に言えば、タイム・マシンに乗って当時の人々を撮って来たかのようだ。

しかるに、お話が福音書に忠実と言っても、無神論者で共産主義者であるパゾリーニとしては、イエス(エンリケ・イラソキ)を現在に通ずる革命家として描く目的があったようだから、バチカンが本作にお墨付きを与えたのは本当は間違っていると言いたくなる。
 尤も、キリストのやったことはあの時代のユダヤ教の支配する土地においては文字通り“革命”であったはずなので、バチカンとしては気にしなかったといったところだろうか。

人々の捉え方についてはアップが多いが、イエスに関しては審問以降救世主としてではなく人間として捉えようとした部分でロングが多く使われ、工夫が見られる。序盤マリア(マルゲリータ・カルーソー)のアップに始まるショットの繋ぎなどカット割りに面白い箇所が多く、映画作家を志す者に勉強になるところが多い。音楽も多種に渡り興味深いものが連続するので、キリスト教に関心のない人も見る価値があるかと思う。

物語の中では、自分の人生を神の書いた筋道に従っていると信じている筈のイエスが「何故神は我を見捨てたもうか」と疑問を呈するところだけが良く解らない。

キリスト(救世主)がユダヤ人ではなく異民族のものになるという聖書中の予言が見事に的中しているのが、今考えると非常に面白い。

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この記事へのコメント

vivajiji
2015年10月28日 13:14
>ユダヤ人ではなく異民族のものに・・・
イスラエルに住むユダヤ人のほとんどは今でも
新約聖書は認めていませんし読んでもいないとか。
ですから当然イエスも認めていないわけですが、
彼らが拒否したおかげでこんな島国の1庶民の私
みたいな者のところへも福音が届けられました。^^

>「何故神は我を見捨てたもうか」
イエスの生涯については共観福音書(マタイ・マルコ・
ルカ・ヨハネの4書)全てから見るとよくわかります。
特に神学上でよく問題にされるこの断末魔の叫びも
異邦人のために書かれたルカ(医者・教養人)の福音書に
よれば、この後「父よ、私の霊を御手に委ねます」
(23章46節)とあります。聖書は特に
文脈を見誤るとあらぬ方向へ行きがち。(笑)

>無神論者で共産主義者であるパゾリーニ・・・
宗教色の無いリアリズムがかえってよかったのかも。
しかし、独特のあのどんより感が胸やけ気味。^^;


オカピー
2015年10月28日 20:30
vivajijiさん、こんにちは。

逆説的に捉えれば、ユダヤ人がキリスト教を我が物としなかったから、現在のような世界的宗教になったのかもしれませんねえ。
もし逆であれば、ナチスによる大虐殺もなかったでしょう。
歴史の面白さです。

>ルカ
その説も少し記憶がありますぞ^^
しかし、聖書がどこぞに埋もれてしまった。
申し訳ございません<(_ _)>
見つけなくっちゃ。

>リアリズム
ご指摘のように、宗教的には無色な印象でしたね。
それがバチカンに好感を持たれたのでしょう。

>あのどんより感
それがピークに達した感のある「アポロンの地獄」も再鑑賞したいと思う今日この頃。
かなりもたれますが^^
ねこのひげ
2015年11月01日 09:40
パゾリーニ、20代のころによく観たものですが・・・
おっさんになっても見直してみる価値はありますね。
オカピー
2015年11月01日 17:52
ねこのひげさん、こんにちは。

パゾリーニは60年代後半が充実、70年代に入って「デカメロン」に始まる一連の艶笑文学の映画化を始めてから少々おかしくなって、最後は「ソドムの市」・・・映画館で観たけどおぞましかったです。
そして、悲惨な死。残念だったなあ。

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