映画評「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2014年フランス=アメリカ=ベルギー=ドイツ=スイス合作映画 監督オリヴィエ・ダアン
ネタバレあり

1956年モナコ公国のレーニエ公に嫁いだ世紀の美人女優グレース・ケリーの結婚数年後を描く伝記ドラマだから、古い映画ファンなら注目せざるを得ない。

1961年、彼女をミューズとしていたアルフレッド・ヒッチコック監督(ロジャー・アシュトン=グリフィス)が新作「マーニー」のヒロイン役に起用したいと宮殿を訪れ、多忙なレーニエ公(ティム・ロス)との仲が些かぎくしゃくしていたグレース(ニコール・キッドマン)は食指を動かされる。
 この二人の関係を更に悪化させる事件が起きる。アルジェリアとの戦争で財政が厳しいフランスのドゴール大統領がタックス・ヘイヴンであるモナコに対して在モナコのフランス企業や市民に税金を掛けて税収を回すよう要請、言うことを聞かないなら進軍も回避しないと脅迫してきたのである。
 時局故に国民感情を考えて映画への復帰を伏せておきたいグレースの意向にも拘わらず宮廷から情報が洩れ、案の定フランスとの外交に頭を悩ますレーニエから映画出演まかりならぬと言われてしまう。
 思案に暮れるグレースは親しい聖職者(フランク・ランジェラ)のアドヴァイスを受けて、女優業をきっぱり諦め、「外交には口を出すな」というレーニエ公の考えに反し、女性としての力を活かすソフトな外交策に乗り出す。

女優が銀幕で演ずるのを止める代わりに外交という舞台で演技を続けるという部分に映画的工夫があるものの、伝記映画の定石を積み重ねているだけで、基本的には凡作である。
 「実話を基にしたフィクションである」というテロップがある場合、概して「実話を基にしている」のみの場合より実話性が高いのではないかと天邪鬼にも思っているが、本作に関しては本当にフィクションの部分が結構多いような雰囲気。フランスが税金に関しモナコを脅迫したのは事実であろうが、さすがに進軍をちらつかせるところまでは行かなかったのではないか? 

いずれにせよ、凡作の域を出ないのであるが、僕はヒッチコックとグレース・ケリーがご贔屓なので、その面からはなかなか楽しめた。ヒッチ御大が「マーニー」(1964年)の主演女優としてグレース・ケリーを希望(に固執)していたのは映画「ザ・ガール ヒッチコックに囚われた女」などに見られるように映画マニアにはつとに有名なお話で、それを踏襲した開巻が嬉しい。但し、実際にはヒッチコックがモナコに行ったことはないし、共演男優について「007役を演じたスコットランドの男優」と言うのも1961年の話としては些か計算が合わない。

しかし、本作が軽いとは言えサスペンスやスリラーの要素を持っているのはヒッチコックのミューズであったグレースの伝記映画であるからであろうし、また、脚本家は「レベッカ」(1940年)を意識しているような気がする。庶民のレベッカが貴族に嫁いで孤独をかこつお話は本作の構図と相似し、強権的なマッジ(パーカー・ポージー)という女官(秘書)の扱いもそれっぽい。ほんの僅かながら彼女の背景に花火が映るのは、ヒッチ=グレースの強力タッグ第3弾「泥棒成金」(1955年)を知っている人間にはニヤッとさせるものがある。

ニコール・キッドマンは奮闘しているが、残念ながら本物のグレースのグレース(優美)には届かない。彼女が車を飛ばす場面は、後年実際に自動車事故死をしているのを知っているだけに嫌な感じを受ける。

これが本当の「思い出のマーニー」 by Hitchcock。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年10月18日 18:19
レーニエ公がグレースに結婚を申し込んだのは、恋愛感情からではなく、財政難であったモナコを立て直すため、グレースの名声を利用しようとしたという話がありますね。
グレースも、冷たかった父親に振り向いてもらうために、結婚を承諾したという話があります。
レーニエ公と結婚しても、父親は結婚式にも来なかったそうです。
なぜ、父親がグレースに冷たかったかは不明ですがね。
さらには、ヒチコックは美人女優を映画に使うたびに交際を迫っていたとか。
もちろん、全員から拒絶されてますがね。グレースも拒否したとか。
どちらにしろ、グレースは美人ではありますが不幸な人生だったわけです。
オカピー
2015年10月18日 19:29
ねこのひげさん、こんにちは。

この映画の中でもそれらしいフシはあり、本作の中のグレースも「姉妹の中で一番不器用で嫌われていた」と言う台詞があったような気がしますね。あれっ、違うところで読んだ内容かな? いずれにしても、ヘルプを求めて電話した時に母親と意思疎通が全くできず、彼女がしょげる場面はありましたね。

ヒッチ先生が特に好きだったのはイングリッド・バーグマン、グレース・ケリー、彼女のピンチ・ヒッターのティッピ・ヘドレンでしょうねえ。
金髪には目がなかった。奥さんのアルマ・レヴィルは金髪ではなかったですが、「めまい」のヒロインのように彼女を金髪にするほど偏執狂ではなかったみたいです。

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