映画評「思い出のマーニー」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年日本映画 監督・米林宏昌
ネタバレあり

米林宏昌の監督第二作は、英国児童文学者ジョーン・G・ロビンスンの小説の映画化。前作「借りぐらしのアリエッティ」と違い、今回宮崎駿は絡んでいない。しかし、個人的感想では創作力のありすぎる(古い素材の換骨奪胎が抜群に上手い)宮崎御大は海外の原作ものと相性が悪いと思っているので、寧ろ良い方に出た可能性はある。

養父母に育てられている札幌の中学一年生の杏奈(声:高月彩良)は、喘息を発症した為医師の勧めにより、養母・頼子(声:松嶋菜々子)の姉セツ(声:根岸季衣)の海辺に近い家で療養することになる。
 生い立ちや少し青い目をしている外見が他の人々と違うことから自己嫌悪に陥っていてスケッチを趣味とする彼女は、近くの湿地帯にある瀟洒な洋館の廃屋に目を奪われる。翌日窓辺に金髪少女の姿を発見するが、夢の中の出来事なのかもしれない。他日満潮になると海水に覆われる洋館に行こうとボートをこぎ出し、操作不能になった時金髪少女即ちマーニー(声:有村架純)に助けられ、交流が始まる。

児童文学の香りが濃厚であると同時に、西洋文学愛好者に受ける要素が多分にある。都会から田舎へ出て行く様子がドイツのロマン主義文学に、実存しないと思われるマーニーとの交流が英国ゴシック文学にそれぞれ通ずるのである。18世紀末から19世紀の文学が好物である僕にはなかなかおいしい作品なのであった。

さて、洋館を描いているマーニーの幼馴染と称する老婦人・久子(声:黒木瞳)によると、洋館が改築され始めているらしい。確かに洋館には既に新しい家族がいて、杏奈はマーニーの日記を発見した同世代の少女・彩香(声:杉咲花)と交流も始め、そこへ頼子が現れたことから判明するマーニーと自分との関係に驚くことになる。

(しかるに観客には)杏奈が僅かに青い目をしていることなど、それまでの布石の数々と全体の構成から判断してマーニーが杏奈の関係者であることは自明であり、祖母であると判っても少しも意外ではない。幼女時代に祖母に擦り込まれた杏奈の潜在意識が、かつて写真を見て知っていた(住んでいたかは不明)洋館を実際に観た時にマーニーの霊と感応し合ったということであろう。

強引に解釈すれば、マーニーは孫が自己嫌悪に陥っているのを見かねて彼女の前に同世代の少女の姿で現れ、自分と交流することで(社会という)輪の外にいると自覚する杏奈を自己嫌悪から解放させるのである。マーニーの生涯を語る久子、洋館の新住人・彩香との交流もマーニーが引き起こしたもので、人と触れ合うことで彼女は成長する。

そういう意味ではヒロインと同世代の子供たちに観るのをお勧めしたいが、人との交流が引き起こす化学反応を観る楽しみは、前出のドイツ・ロマン主義と似た印象があり大人の鑑賞に堪える。

ドイツ・ロマン派の生みの親と言って良いゲーテも「親和力」という化学用語を使った名作を書いておる。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年10月18日 04:50
一種のミステリーロマンになっているのがいいですね。
青い目の謎とか、マーニーと李奈との関係が言葉ではなく、映像でわかっていくのがいいですね。
オカピー
2015年10月18日 18:22
ねこのひげさん、こんにちは。

面白くするのにはミステリー要素を入れるのは近年の創造作品には必須ですね。
だから、入り組んだ回想形式が多くなるのでしょう。

杏奈という名前にも少しヒントがありましたね。

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