映画評「ザ・ヘラクレス」

☆★(3点/10点満点中)
2014年アメリカ映画 監督レニー・ハーリン
ネタバレあり

トロイ」(2004年)の原作「イリアス」に対する改作ぶりにも首を傾げたが、本作のギリシャ神話からの換骨奪胎ぶりには呆れるしかない。僕は「原作などリスペクトしなくて良い」が持論。但し、人口に膾炙していないものに限ってである。確かに地元欧州と違ってアメリカの人口には全く膾炙していないので、こういうデタラメな換骨奪胎もあるのだろうが、それにしてもひどい。こんなものを見せられては欧州人は困惑する。敵と味方の関係もまるで違うではないか。変え方に品がない。

本来のギリシャ神話と一致するのは、アンピトリオン(スコット・アトキンズ)の妻アルクメネ(ロクサーヌ・マッキー)が大神ゼウスとの子ヘラクレス(ケラン・ルッツ)を産んだという親子関係くらいである。神話ではアンピトリオンは王でさえないし、女神ヘラは夫のゼウスが勝手に設けたヘラクレスを憎み、彼を受け入れるのは死んで天上に来てからである。この作品で最終的に妻となるヘベ(ガイヤ・ワイス)はクレタの姫ではなく、ヘラの娘である女神であり、ヘラの許しにより天上でヘラクレスと結ばれるのである。
 対して、本作のお話は、乱暴にまとめると以下の如し。

ヘラクレスは、父王アンピトリオンが兄王子イピクレス(リーアム・ギャリガン)とヘベを政略結婚させ王国を継承させて強化していこうという算段の中で恋人ヘベを奪われる哀れな若者で、不当に追いやられた戦場からやっとの思いで舞い戻るうちに半神であることを庶民に知られて人心を把握し、父王と兄に反旗を翻す。

神話では山をも壊す半神らしさが随所に示されるわけであるが、本作ではせいぜい繋がれた鎖を石ごともぎ取り、変なビームを使って敵兵士をやっつけるところくらいで、スケールが小さく、「300<スリーハンドレッド>」もどきの戦士の物語に推移するだけ、随分矮小化されている。まあ「余り神様すぎてもつまらないだろう」という考えが解らないではない反面、これだけ矮小化されても半神たるヘラクレスに生身の人間アンピトリオンが戦って敵うわけがなく、デタラメに過ぎるだろう。ギリシャのお話に円形闘技場などローマ的な要素が入りすぎているのも気に入らない。

しかし、僕が一番腹が立ったのは演出である。
 アクションの大半は途中でスローモーションにしてまたリアル・スピードに戻す繰り返しで、跳躍や落下のアクションは100%それである。誤魔化しと尺稼ぎも甚だしい。どうせ無名の新人監督だろうと思ってエンディングのクレジットを観ていたら、監督レニー・ハーリンと来た。こんな稚拙な見せ方を披露するとはこの人も終わりと思うが、余りの無気力ぶりを見るにつけ、演技指導だけして後は適当にやらせたのかもしれないと想像してみたくなる。
 監督は芸術面の責任者であるから、それでも文句を一手に引き受けなければならないのだが。

固有名詞に“ザ”を付ける邦題もどうかな。「ザ・漱石」なんて本があるので、「ヘラクレス大鑑」といった意味合いか? 実際は「ヘラクレス大嘘」だわさ。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年09月20日 19:17
アメリカ人は他国に関心がない人間がほとんどですからね。
だからハリウッド映画に出てくる日本人は酷い物になるんですけどね。
ヘラクレスなんて言われても何者かわかんないんでしょうね。
しかし、映画人は勉強してから制作してほしい物です。
オカピー
2015年09月20日 20:52
ねこのひげさん、こんにちは。

フランスの古典悲劇などはギリシャ神話を基に改竄している作品が多いわけですが、勿論意味のある変え方をしていますよ。

まあターゲットがしかるべき連中ということなんでしょうがねえ。

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