映画評「ファーナス/訣別の朝」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2013年アメリカ=イギリス合作映画 監督スコット・クーパー
ネタバレあり

アメリカの製鉄の町、溶鉱炉で働く真面目な男クリスチャン・ベイルが、イラク戦争から帰ってから鬱屈して仕事もせずに賭けに溺れている弟ケイシー・アフレックがストリートファイティングの八百長試合に関与したことから、運命の変転を迎えることになる。
 まず、ベイルは胴元の一人ウィレム・デフォーに弟の借金を半分返すが、その直後に自動車事故を起こして刑務所行きとなる。彼の出所後大いに反省して地道に働くことを考え始めた弟はこれを最後にと決めたストリートファイティングで上手く八百長勝負を演ずるが、デフォーの言動が気に入らない大胴元ウッディ-・ハレルスンに彼と共に殺されてしまう。
 それを知ったベイルは復讐を誓ってハレルスンに向っていくのである。

何か昔の作品に似ているなあと考えて観ていた。観終わった後じっくり考えたら、35年ほど前に映画ファンを興奮の渦に巻き込んだ「ディア・ハンター」であると思い至る。戦争後遺症と猟という組み合わせ。画面に登場人物の心情を沈潜させようという傾向も似ている。

さて、服役中に恋人ゾーイ・サルダナを奪った刑事フォレスト・ウィッテカーの眼前で殺人を犯した主人公に明日はない。情状酌量されても終身刑だろう。結果が解りながら刑事の声を無視させたのは弟を思う気持ちである。

感情には理性をも打算をも超えるものがある。戦争で家族を失った人間や自身ひどい目に遭った人は大抵反戦を唱える。すると安保法制を通したい一部国民は彼等をあたかも国を滅ぼす国賊のように言う。しかし、仮に安保法案が100%正しく100%必要なものであっても、彼らは戦争に結びつく可能性のあるものは怖くて賛同できず、平和を訴える。これが人間の感情というものである。イラクに支援に出た自衛隊員は、一人も殺さず殺されずに帰還したのに、自殺する率が一般国民の10倍という。これに戦闘行為が加わったらもっと増えるのではないか。
 安保法案が通るのは間違いないので、これが数年後どうなり、人口減に加えこの法案により自衛隊に入隊する人数が減ることはあっても増えることはないのが確実な状況下で本当に徴兵制が起こらないかどうか、アメリカで実際に起きている経済的徴兵制(貧しさから入隊していく仕組み)が本格化しないかどうか(既に奨学金の面倒を見るという手法で日本でも実施されている由)、見守っていきたいと思う。

閑話休題。

監督は「クレイジー・ハート」で新人とは思えないしっかりした展開ぶりに感心させられたスコット・クーパーで、今回はクロス・カッティングを三回使って積み重ねる部分で芸術的野心を見せている。
 最初は猟をする兄と賭け試合をする弟の描写、典型的なクロス・カッティングである。次は自宅で鍛えるハレルスンと彼を追い詰めようとするSWATの様子。これが同じ場所で行われているという連続性があればカット・バックであるが、ハレルスンが全く別の場所にいることが判明するので実はクロス・カッティング。用語の区別はともかく、観客を肩すかしさせる為の、クロス・カッティングの面白い使用例(全く同じ趣向の例はあるが、題名が思い出せない)と言うべし。
 ただ、繋ぎの呼吸は意外に良くない。殆どの監督に編集権のないアメリカ映画では一概に監督のせいとは言い切れないが、不思議なもので編集に携われなくても呼吸の良い監督の作品は大概呼吸が良いものだ。

「ディア・ハンター」は“テアトル東京”最後の日にどでかいスクリーンで観た。長蛇の列で入るにも苦労したっけなあ。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年08月23日 17:08
テアトル東京・・・・最終日に行かれましたか。ねこのひげは初日でありました。
オカピー
2015年08月23日 20:48
ねこのひげさん、こんにちは。

>テアトル東京
夕方に行って入れたのは夜中で、「ディア・ハンター」「天国の門」と続けて観て、終わったのは午前5時くらいだったですかねえ。
始発に乗って下宿に帰りました。

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