映画評「トゥモロー・ワールド」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2006年アメリカ=イギリス合作映画 監督アルフォンソ・キュアロン
ネタバレあり

暫く前から消極的鑑賞態度を決め込んでいるせいで、本作はWOWOWに登場しなかったらしく、今回が初鑑賞となる。これだけ話題になった洋画がWOWOWに出ないのは珍しく、比較的最近本邦劇場公開された洋画でNHK-BSにお世話(初鑑賞)になるのは記憶している限り初めてではないだろうか。

2027年英国、18年前に人類が新しい生命を生み出せなくなり各国が治安悪化で壊滅状態になった為不法移民が増加、政府は厳しい対応を取っている。そうした中で反政府グループFISHのリーダー的存在ジュリアン・ムーアが、元の夫でエネルギー省官僚のクライヴ・オーウェンを拉致して、彼女があるNPOまで届けようとしている不法移民の女性クレア・ホープ=アシティに通行証を当局から発行させるように強請する。ところが、ジュリアンが殺され、その犯行を仲間が指示していたことを知ったオーウェンはクレアを連れて、昔からの知り合いである隠棲老人マイケル・ケインの住居に逃げ込む。オーウェンは収容所に匿って貰う情報を老人から得て実行し、実は妊娠していた彼女の出産を手伝う。かくして奇跡の子供を加え三人は反政府グループと官憲の戦闘が繰り広げられる中NPOの舟を目指すことになる。

原作はミステリー作家P・D・ジェームズによるSF小説であるが、実は結構が結構(笑)ミステリーっぽい。ミステリーに大事な起承転結がきっちりと為されているのである。
 反政府組織のジュリアンが何故一人の移民女性をNPOまで届けようとするのかという謎から始まり、ジュリアンの死でお話が進み、女性の出産発覚で転回し、大団円を迎えるという次第。

監督アルフォンソ・キュアロンを含めた作者たちが念頭に置いていたのは、現在における少子化社会の閉塞感であろう。それを極端にすると人間の不妊という発想となり、人類の死滅となる。その一環として冷徹なまでの死が描かれる。その為にジュリアンの死、ケインの死、そして三人の逃走劇に対して圧倒的な長回しが駆使されたのだと思われる。その長回し自体の迫力だけを以って本作を評価するのは片手落ちであって、その長回しがいかに生と死の意味を効果的に表現しているか考察する必要があるだろう。カットの積み重ねでは死が(オーウェンの主観を離れる為)無機質化されかねないのである。

しかし、腹蔵なく告白すると、激しい銃撃の中逃走する場面に至って初めて長回しに意識が向かったのであり、考えてみるとジュリアンの死もケインの死も長回しだったような気がしてきたのが実際。僕と全く同じ経緯を辿っている人のコメントがAllcinemaにあり、苦笑させられた。

僕は相当興味深く観たが、案外退屈を訴える鑑賞者が日本に多いのにびっくり。この作品に関しては欧米ファンの高い評価の方が納得できる。

オールド・ロック・ファンが聞いて喜ぶロック・クラシック数曲がBGM若しくは自然音として流れる。ディープ・パープル初期の珍しい「ハッシュ」、ローリング・ストーンズ版ではないが「ルビー・チューズデイ」、キング・クリムゾン「クリムゾン・キングの宮殿」、ビートルズ・オリジナルではないが「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」、ジョン・レノンの「ブリング・オン・ザ・ルーシー」である。「ブリング・オン・ザ・ルーシー」はシングル・バージョンではなく、最終テイクに近いアンソロジー・バージョンだった。

2012年を過ぎて終末論映画ブームは一応終わったかな。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年07月12日 07:03
日本も将来的には、人口が6000万人程度になるそうですけどね。
日本の国土だけで養っていける人数がそんなものなのかな?
八百万の神々の配剤か自然の摂理か・・・・・な?

オカピー
2015年07月12日 17:53
ねこのひげさん、こんにちは。

>6000万人
100年くらいで半減するとは僕も聞いたことがあります。
この国土にはちょっと多すぎますね。
しかし、東京の人口はそのままで地方は三分の一くらいになってしまいそうで、田舎で暮らしている僕としてはそれもまた寂しいです。生きていないからどうでも良いけど(笑)

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