映画評「トランセンデンス」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2014年アメリカ=イギリス=中国合作映画 監督ウォリー・フィスター
ネタバレあり

メジャー映画はSF映画に席巻されている感があるが、同じSFでも哲学SFは歓迎したくなる。元来SFには哲学的要素を内包しているはずなのに、昨今観られるチャンバラSFはその点を無視しすぎている。余りに高級なのも困りますがね。

近未来、人工知能(AI)研究の第一人者ジョニー・デップが講演の帰りに反テクノロジー・テロリストに襲撃されて負傷する。
 銃撃は急所を外れて致命傷に至らなかったものの、核物質が仕込んであった為に体が冒されて余命一か月と宣告される。彼を愛する同業者の妻レベッカ・ホールは、別のテロで死んだ科学者が残した実験を元に、その分野に精通している友人ポール・ベタニーに協力してもらって、デップの脳情報を全てコンピューターにアップロードする。彼の死後コンピューターは見事に起動する。
 喜んだレベッカは廃墟同然の町に研究所を設立、デップの知能を持つAIは自ら進化を遂げ、世界征服を企んでいるかのような様子を見せ始めた為、AIをデップその人であると信じてきた彼女は動揺、やがてこれを滅ぼすことにした政府に同調して自らにウィルスを投与させ、彼女の脳データのアップデートを希望するAIに感染させようとする。

SF的に色々難点がありそうだが、一番脆弱と思われるのが生物学上のウィルスとコンピューター・ウィルスを同一視していることで、これはちとおかしいだろう。AIはそのナノ技術を生かして肉体を持つ人間としてデップを再生(AIがデップの人格を持つなら蘇生)し、その“人間”デップは彼女と一緒にあの世に旅立つわけであるが。

この映画のテーマは、AIが感情を持つことができるかというSF的命題を具体的なストーリーとして示すことで、人間の神への挑戦が許されるかどうかを哲学的に問う、ということである。これは序盤にテロリストとデップの質疑応答の形で早くも示されているが、AIが感情を持っているかどうかは人間の誰にも判断できないわけで、映画は最後までこれ一本をサスペンス要素として見せる形で進行していく。

哲学に興味がなくチャンパラだけ観ていれば良いという方は退屈するだろうが、アンドレイ・タルコフスキー監督「惑星ソラリス」(1972年)系列のお話がお好きな人は一応観ておいて良いと思う。但し、かの映画のように内省的な場面が続くわけではなく、監督ウォリー・フィスターが耽美系撮影監督の前身を生かし、映像美たっぷりの娯楽作品に仕立て上げている。良くも悪くも、あそこまで“哲学”していない。

デップのAIは怪我人を直し盲目の男に視力を与え、自らは蘇生する。つまり、キリストの生涯をなぞって展開しているわけで、これが人間の神への挑戦を問う映画であるとした所以である。
 映画は一応人類の神への挑戦に否定的な見解を示すが、デップAIのやろうとしたことを悪とは見なさない。デップが妻を思って取る最後の行動はAIが感情を持ったと、断定しないまでも、思わせる。そうであれば人間は神になったのである。しかし、人類を支配する本当の神(摂理)は、人間が神であり続けることは許さない。デップAIは地球を蘇生することもできたが、神は地球の未来を人類のもっと原始的な知恵に委ねるのである。

スティーヴン・スピルバーグ監督「A・I」が、“人工知能を人間に近づければ近づけるほど実際の人間から遠くなる”という逆説を通して人間を描いた哲学SFである、と理解できた人はどのくらいいるのだろうか。あの映画に対する低評価が未だ僕には残念でならない。かつて書いた短評では全くこの映画の真価を伝えることができていないことも遺憾。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年06月01日 06:11
タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』を所有しておる身としては大いに期待したのでありますが、どうもこの人工知能を否定するというのは気に入らんです。
キリスト教徒は機械が感情を持つのが気に入らないようですが、これは黒人差別と変わらないと思いますな。
クジラ・イルカ漁反対と同じく人種差別だと思うんでありますな。
最近作でも同じように人工知能が否定される作品が2本公開されますが、またか!であります。
ロボットが人間と同じように生きている世界を描けないもんですかね。
オカピー
2015年06月01日 11:25
ねこのひげさん、こんにちは。

>キリスト教徒
全くややこしい人たちで、ブッシュ元大統領は、個人的にはともかく、地動説も進化論も否定している原理主義的宗派に属しているわけで、それでいて宇宙にスペースシャトルを飛ばしていたりするのですから、何と言って良いのやら。

よく解りませんが、人工知能を否定する態度の根底には、キリスト教徒ならではの恐怖があるのでしょうね。

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