映画評「ウォルト・ディズニーの約束」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2013年アメリカ映画 監督ジョン・リー・ハンコック
ネタバレあり

ディズニーが「メリー・ポピンズ」(1964年)を生むのに実はこんな苦労がありましたという誕生秘話の形を借り、それを通して原作者パメラ・L・トラヴァーズの自作に秘めた思いを浮かび上がらせていく実話ものである。

1961年ディズニー社に呼ばれて英国からロサンゼルスへ渡ったパメラ(エマ・トンプスン)は、社長のウォルト・ディズニー(トム・ハンクス)とのアニメにしないという約束の下、脚本家や音楽担当のシャーマン兄弟と進行を打ち合わせるが、偏屈おばさんぶりを大いに発揮してダメ出しばかり、彼等をうんざりさせる。それでも色々と調整して順調に進んでいたのに一ヶ所だけアニメを使うのが気に入らずに憤然と帰国してしまった彼女をウォルトが自ら説得しに出かけ、漸く契約書にサインを貰うことができる。

というのが表向きのアウトラインで、彼らの葛藤を通して、実名をヘレン・ゴスという彼女が児童文学「メリー・ポピンズ」に夭逝した銀行員の父親トラヴァース・ゴス(コリン・ファレル)に寄せる敬愛とその実像への隠せない失望とそこから生まれるトラウマを投影したことが明らかになるまでが、裏にして本流(メイン)の物語である。

彼女がサインをしたのはウォルトの要約すれば「未来志向で行きましょう」といった説得の効果であり、ここに本作のメッセージがあるわけであるが、少し気になったのは彼女の父親への自責の念の正体である。
 序盤に梨にトラウマのあることを示され、終盤に臨終の父親に頼まれた梨を間に合わせることができなかったことが明らかになる。従ってトラウマは解るが、自責の念となるとよく解らない。自分を責める理由が見当たらない。これがはっきりしないと完成した映画を観て銀行家の打ちひしがれた姿に涙する彼女の心情がピンと来にくい(彼女は「映画の出来がひどいので悔し泣き」といったことを言うが、強がりにしか見えない)。
 逆に彼女が説明するヒロインであるメリー・ポピンズが現れる理由からその心情が推測できる。彼女の自責の念はきっと父親に失望したそのことであろう。その謝罪の為に彼女は物語中の銀行家バンクス氏を救わせる為にメリーを一家の前に登場させたにちがいないのである。

もう一点。彼女の本名はヘレンであり、パメラではない。少女時代彼女はギンティと呼ばれている。名前が一致しないので物語が解りにくくなって面があるのは否めない。
 ともかく、序盤父親が彼女を前にして色々な名前を口に出す。10歳くらいの少年少女にありがちなように、想像力豊かな彼女は色々な名前を持っていたのであろう。その中にパメラもある。一番のお気に入りがギンティだったのだな。後年ペンネームでは(恐らくトラウマがある)ギンティではなくパメラを使い、姓として父親の名前を用いる。この辺、複雑な心理を伺わせて興味深い。

以上述べたようにちょっとした難点はあるが、説教臭くならない程度にメッセージを示した辺りは品が良く、後味も良い。近年ディズニー実写映画の佳作と言うべし。

最後にトラヴァーズご本人の声が聴けるのが嬉しい。これに一番じーんとした僕は変わり者かな?

この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年05月17日 14:42
こういう裏話があったのか!でありますね。
最近のデイズニーはうまいですね。
オカピー
2015年05月17日 20:31
ねこのひげさん、こんにちは。

映画サイトを訪問しますと、「メリー・ポピンズ」に原作があったことを知らない方が多いのに驚きました。
読んではいないものの、児童文学に疎い僕でも知っていたのに。

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