映画評「渇き。」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2014年日本映画 監督・中島哲也
ネタバレあり

深町秋生のベストセラー・ミステリーを中島哲也が映画化したバイオレンス・サスペンス。

元刑事で今はしがない警備員の役所広司が、別居中の妻・黒沢あすかから呼び出されて失踪した娘・小松菜奈の行方を探すように頼まれる。中学時代の同級生・橋本愛や教師・中谷美紀などに脅しを交えて詰問するうちに娘が同級生や関係者を麻薬や売春などで破滅させていった事実を知る。

というのが、現在進行形部分のお話。ここで浮き彫りにされるのは、憎悪と表裏一体の関係である愛である。彼が妻や娘(過去において)に暴力を振るうのは愛の裏返しである。彼の調査で判って来る娘の異常な行動も愛の裏返しの部分が多い。愛はいつも柔和な表情をしているわけではないのである。

最終的に主人公は女教師が娘を殺害したことを知り、雪の下のどこかに埋まっている娘の死体を拝もうと必死に雪を掘り起し、「俺の手で娘を殺す」と叫ぶ。その前の「(父娘共に狂っているのも道理)同じ血が流れている」という台詞と合わせれば、これが彼なりの愛の表現であることが解るのではないかと思う。

しかし、本作を語るにはこれだけでは不十分、犯罪映画としての部分に触れないと片手落ちになるので、主人公が調査するうちに判明してくる事実から起承転結風にまとめてみる。
 娘が中学生にして麻薬と売春仲介業という不良行為を始めたのは父親への反発と想像するしかないが、その後は明快で、この商売をするうちに恋人の同級生が自殺する。元締めのヤクザの親分が原因である。娘は復讐しようと大物が映っている写真をばらまく。最終目標はヤクザと出先機関である不良グループの分裂を起こして双方を瓦解させることである。これに警察が絡んでいるからややこしい。ヤクザの犬として殺し(開巻直後のコンビニ殺人事件など)を請け負ってきた悪徳刑事オダギリジョーもその過剰な行動から邪魔者扱いされて結局は後輩の妻夫木聡に殺され、この麻薬と少女(少年)売春とが絡み合う事件は闇に葬られてしまう。

クエンティン・タランティーノを模倣したB級映画的表現や過剰な暴力描写ばかりが注目されているが、余分な要素を取り除いてみるとハードボイルド・ミステリー的に案外古典的な構成で、もう少しそちらの角度から評価する人がいてしかるべし。他方、タランティーノを気取ってみたものの、少女に翻弄され殺されてしまう同級生・清水尋也のモノローグを交えたことで純文学的香りが濃厚に出てしまって徹底できず、とりとめなくなった印象があるのは惜しい。

世間はダークだねえ。家庭問題も学校の問題もなく過ごしてきた僕などは全く幸福(しあわせ)者だねえ。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年05月17日 14:30
最近は過剰なのが多いですね。
そこまで血が出ないだろう・・・・?と思うようなことが多いです。
かえってリアリティがなくなって良いのかな?
オカピー
2015年05月17日 20:20
ねこのひげさん、こんにちは。

CGで何でも描けるようになったので、人体破壊度や血の量が増したのでしょうね。
観客のリアリティの尺度は凄くいい加減と思います(笑)
声優の喋り方は少しも生活感がないのに、生活感の出せる俳優や芸人よりずっと高く評価されるのはせその典型みたいなもの。

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