映画評「鑑定士と顔のない依頼人」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2013年イタリア映画 監督ジュゼッペ・トルナトーレ
ネタバレあり

ジュゼッペ・トルナトーレは「ニューシネマ・パラダイス」(1989年)以来ご贔屓の監督で、比較的寡作であるが、期待を裏切ることがまずない。

60代の美術鑑定士にて有名な競売士であるジェフリー・ラッシュは、一流画家になりそこなったドナルド・サザーランドと組んで、適度な価格で狙った絵画を落とさせる。いずれも女性の肖像画なのは、彼が潔癖症で女性に近づけないことの代替えみたいなものである。
 或る日そんな彼の許に女性の声で電話がかかって来て、広い家に残された美術・調度品を処分したいと言う。彼は古い屋敷に足を踏み入れるが、彼女が広場恐怖症で外出は勿論フェイス・トゥ・フェイスで会話をすることもままならないので壁越しに契約を進める。
 じりじりさせられるうちに女性としての彼女への関心を高めて行ったラッシュ氏は、屋敷で発見した部品を使って珍しい機械人形の再現を依頼している青年ジム・スタージェスに進め方を相談、家を出た振りをして彼女が閉じ籠っている部屋から出て来るのを待つ。いざ出てきた彼女即ちシルヴィア・フークスを見て益々夢中になり、スタージェス君に協力してもらって遂に本懐を果たす。

という物語は謎めいて抜群の興趣を呼ぶ。「ニューシネマ・パラダイス」以降全ての作品で僕を感心させてきた画面も、構図、落ち着いた風情等、相変わらず見事である。

しかし、お話にはこの後“言わぬが花”の展開が待っていて、本物と贋作、人間と肖像画、人間と機械人形といった真贋の対照の数々が一々幕切れへの感想に関わって来て、ただ面白いだけとも言い切れぬ余韻を残す。

一応ミステリーに分類できる作品と思うので詳細な分析は省かざるを得ないが、“話術のトルナトーレ”と長いこと僕が勝手に言っている所以がこの映画にもある。大人の映画ファン必見の逸品娯楽作、と言うべし。

こういう“うまい”作品がベスト10に絡んでこない映画批評界よ! 50年代ヒッチコックの傑作群がいずれも「キネマ旬報」のベスト10には入っていない。その点専業批評家で占められた「スクリーン」のほうが選出に味わいがある(厳密には“あった”、1980年くらいまで)。

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この記事へのコメント

vivajiji
2015年04月10日 17:22
これは面白かったです!
商売の駆け引きには長けた男でも
色恋のそれには滅法お弱かった。^^;
ミステリー的要素が否が応でも
盛り上がった後はあの急転直下、
その展開の手際の良さたるや、まさに
職人芸のトルナトーレ節、子憎いほど
お上手で観応え充分でございましたね。
オカピー
2015年04月10日 20:43
vivajijiさん、こんにちは。

面白かったあ。
元来ご贔屓ですけど、上手い、上手すぎますよね^^

>駆け引き
鑑定は一流、しかし、人間を見る目はなかった、というお話でもありますよね。

最後の一連の場面編成は、両義的な解釈を可能にしていて、これをきちんと把握する為に何回か観たほうが良いのかも。
ねこのひげ
2015年04月12日 06:14
おすぎとピーコさんもとんとテレビで観られなくなりましたからね。
映画評論界は寒風吹き刺す真冬の状態のようでありますね。
お二人は、講演会でお忙しいらしいですけどね。
オカピー
2015年04月12日 17:24
ねこのひげさん、こんにちは。

どちらがどちらかよく解りませんが、片方は公式には大分前に映画批評からは遠ざかっていましたよね。
片方は映画会社の宣伝の片棒を担がされすぎ、顰蹙を買ったせいか、最近はそういった映画CMもなくなったようで、ここ1~2年全く声を聞きません。

出はじめの頃、お二人が「エイリアン」を絶賛していたのをよく憶えています。

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