映画評「大統領の執事の涙」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2013年アメリカ映画 監督リー・ダニエルズ
ネタバレあり

「それでも夜は明け」たが、奴隷制度の廃止を以って差別がなくなるほど人間はやわくはありませんでした、というお話で、1926年の綿畑からお話が始まる。
 この時10歳にもなっていないであろう主人公の黒人セシルは眼前で白人に父親を射殺されてしまう。哀れに思った女主人ヴァネッサ・レッドグレーヴに下働きに使って貰ったのが運命の変転の第一歩、ボーイを仕事にするうちに何とホワイトハウスの執事に登用されることになる(成人後のセシルを演ずるのはフォレスト・ウィテカー)。1957年アイゼンハワー大統領(ロビン・ウィリアムズ)の時で、以降ジョン・F・ケネディー(ジェームズ・マースデン)、ジョンソン(リーブ・シュライバー)、ニクソン(ジョン・キューザック)、フォード、カーター、ロナルド・レーガン(アラン・リックマン)と主を変えたホワイトハウスの執事(の一人)として働き続けて引退、20年後の2008年に遂に黒人大統領オバマの誕生を目にすることになる。

黒人の視点で俯瞰したアメリカ現代史の趣きで、必然的に60年代に激しくなった公民権運動を中心としたお話になっている。
 「実話にインスパイアされた」と開巻直後に紹介されるが、7人の大統領に仕えた黒人執事がいたことは事実と思って間違いない。しかし、その次男がベトナム戦争で戦死するエピソードはともかく、長男(デーヴィッド・オイェロウォ)が黒人差別への反発が高じてブラック・パンサーになり父親と終始反目し合うのは、恐らく創作であろう。

人間として無色透明を演じる執事を務める黒人は、リベラルな黒人たちから見れば、無抵抗に過ぎるわけだが、実はそうでもない。執事を長く務めた褒美は大統領からの信頼であり、最終的に白人執事と同じだけの昇給・昇進として結実するのである。
 長男は父親の無言の抵抗に気付かず、父親は息子の有言の実行を無謀な行為として理解しない。映画的にはこの齟齬が凡そ四半世紀も続いた末の和解がなかなか感動的である。オバマが大統領に決まった時に主人公が見せる涙も理解できて当方もじーんとさせられた。
 黒人大統領誕生は奴隷制度廃止以降150年に渡る黒人差別問題にとって大きな進歩であった。人間は畢竟弱くて愚かであるから、黒人差別に限らずあらゆる差別がなくなる日が訪れるか甚だ疑問であるが、3歩進んで2歩下がる状態で人間が少しずつ進歩してきたのは疑いようがない。

現在世界的に続いているらしい誘拐拉致問題と関連付けて米国奴隷制度下における黒人奴隷への虐待を描いた「それでも夜は明ける」より大衆的に即ち娯楽的に作られているので、インテリ層や芸術性志向の方には受けないかもしれないが、一見の価値あり。ただ、公民権運動や20世紀における黒人差別をめぐる作品をかなり観てきた人には、それらの作品の寄せ集め的な印象を持たれるはずである。

日本でも、2チャンネル的罵詈雑言が街頭で聞かれる時代になってきた。くわばらくわばら。KKKみたいに人殺し集団にならないでほしいよ。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年03月29日 08:54
たまにこういういい映画が出てくるのでハリウッドは侮れないのでありますね。
無言の抵抗・・・・ガンジーに通じるものがありますね。
いまだに黒人差別は根深く、交通違反で警官に暴力を振るわれたテレビのインタビューで黒人が言っておりましたが「せめてヒスパニックや東洋人と同じくらいに扱って欲しい」
肌の色の違いが差別を生み出すようで辛い所であります。

日本のアホガキ共はどうしようもないですね。
彼らが信奉している矢沢永吉が在日ということを知らないんですかね?
笑止であります。
オカピー
2015年03月29日 14:42
ねこのひげさん、こんにちは。

>差別
ユダヤ人に対するナチスや永住外国人に対する日本人もそうだと思いますが、自分の優越を語っているようでいて、実は(色々なタイプの)恐怖の顕れなんでしょうね。

>在日
その一方で、日本人でも気に入らない言動があると、皆在日にされてしまうようです。その図式が解りすぎているのでカウンターは無視しますから、結局は仲間内でのじゃれ合いに終わってしまう惨めさ。

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