映画評「かぐや姫の物語」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2013年日本映画 監督・高畑勲
ネタバレあり

日本の大古典「竹取物語」に取材したスタジオジブリのアニメで、2014年度のアカデミー長編アニメ部門でノミネートされた。欧米人は異国情緒を過大に評価する傾向にあるので有力かと思ったが、残念ながら落選だった。監督はスタジオジブリのもう一人の雄・高畑勲。

それにしても、本作を見て僕がどうしても想起せざるを得なかった、加藤道夫の戯曲「なよたけ」に関連付ける人が少ない(チェックした範囲ではゼロ)のはどうしたわけか。
 「なよたけ」は「竹取物語」が生まれた事情を想像して書かれた作品で、なよたけは子供を率い鳥獣を愛する娘の名前である。本作終盤でかぐや姫(声:朝倉あき)が幼馴染の捨丸(声:高良健吾)から旅に出ようと言われる場面と似たシチュエーションも出て来る。
 というように、脚本を書いた高畑氏と坂口理子が「なよたけ」から着想を得た可能性があると僕が思うのも無理がないはず。仮に偶然の一致若しくはオリジナルからの発想であったとしても、このお話に触れた教養ある諸氏諸嬢から加藤道夫の名前が全く出て来ないのは少々不思議な感じさえ受けるのである。

さて本論。
 余りにもお馴染みの物語は述べずもがな。本作に特徴的な描写は「なよたけ」を思わせる幼少時代と捨丸との思慕の交換である。そして、「竹取物語」では“悲しみの消去”として間接的に扱われている“記憶”が哲学的意義を与えられて通奏低音的に配置されている。以下の如し。
 汚らしいものの象徴である地球に憧れる罰として地球へ送り込まれたかぐや姫は知らないはずの歌を口ずさむ。「もし待ってくれているのなら(地球に)帰って来たい」という趣旨の内容で、ある意味記憶の歌でもある。そして汚濁にまみれた世界(地球)とオサラバしたいと思った為に、清らかなものの象徴である月の世界と連絡が取れ、記憶の底に押し込まれていた地球降誕の理由を思い出す。その思いにより月の支配者らしいお釈迦様に罪を許されてかぐや姫は帰ることになるのであるが、羽衣を着ると地球での記憶は完全に消えることになっている。しかし、記憶の消えたはずのかぐや姫は振り返り地球を見る。

エンドロールで流れる主題歌によれば、「生命(いのち)が憶えている」のである。我とはなしにこの歌詞に感動を誘われたが、どうも仏教の死生観と関連するものがありそうだ。所謂輪廻転生。「いのちが憶えている」というのはきっとそういうことであり、その為のお釈迦様なのであろう。

絵は完全なる線画ではなく、「鳥獣戯画」を思わせるものがあって新鮮。ヒロインが鳥獣を愛することからの発想であろうか。

かぐや姫の養父の声は地井武男。2012年6月僕の父とほぼ同じころに亡くなっているいるはずなので、2013年製作扱いとなっている本作のクレジットを見て驚いた。本作の場合は声が先に録音されたとの由。作品完成を見ずに亡くなったのですねえ。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年03月22日 08:37
日本人のほとんどが死刑を容認しているのも輪廻転生思想があるからかもしれませんね。
あの世に行って浄化されて生まれ変わって、次は間違えない人生を歩んで欲しいという思いがあるのかもしれません。
”目には目を”というのとは違う気がします。

このアニメは十何年もかけてコツコツと描いたそうであります。
アメリカ人にはわかりにくい哲学的内容であったのかもね。
オカピー
2015年03月22日 15:44
ねこのひげさん、こんにちは。

多神教のところに輪廻転生思想が多いのかもしれません。
古代ギリシャでもプラトンは輪廻を考えていたようですし。

企画は結構前と僕も聞きました

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