映画評「猿の惑星」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1968年アメリカ映画 監督フランクリン・J・シャフナー
ネタバレあり

BS朝日で放映されるのを知って無性に見たくなり、昔DVDに録っておいた完全版があるのに気付いたので、お先に失礼した(この記事は放映後)。

1968年はアメリカン・ニュー・シネマ元年と言われている。どうもその動きはSF映画のメジャー化とも連動していたようで、(宇宙)SF映画元年とも言えそうである。何しろ哲学SF映画「2001年宇宙の旅」とぐっと大衆的なこの「猿の惑星」の二名作が作られたのだから。
 それでもニュー・シネマの反メジャー的映画への動きのほうがずっと大きく、SFはそのムーヴメントが収まった後1977年に「スター・ウォーズ」が登場するまでメジャー・ジャンルとして定着しなかったのが実際(だから、たまに見るSF映画は貴重で、出来栄えにかかわらず楽しみだった)。CGの台頭でSF映画が氾濫する現在とは隔世の感がある。

自動操行に任せて眠りについた宇宙飛行士4人を乗せた宇宙船がどこか地球に似た惑星に不時着する。紅一点を除いて目覚めた3人の飛行士は2000年後であることを知り、彼らの服を盗む罪のない原人のような人々を追ううちにゴリラによる人間狩りに遭遇、最年長の飛行士チャールトン・ヘストンも捕えられてしまう。
 猿が人より上位の知能を持つ惑星であり、チンパンジーの生物学者キム・ハンターと考古学者ロディー・マクドウォールが彼の知能に気付き、“猿の惑星”トップ(モーリス・エヴァンズ)は聖典に基づく教えにもとると彼らを異端扱いする。かくして色々な騒動の末にあの有名すぎるショッキングな幕切れになる。

高校時代にTVで観た時の驚きたるや言語に尽くしがたいものがある。人々がまだ素朴であり、情報も今のように氾濫していなかった時代につき、主人公同様に地球によく似た別の惑星と思い込んでいたから、この幕切れには驚きの余り総毛立った
 見せ方が実に上手かった。馬の後ろに下等人類のリンダ・ハリスンを乗せたヘストンが右上から左下に向って(俯瞰撮影なので)移動していると、左手上部に何やらとがったものがカットインしてくる。僕はカメラが正面から捉える前に気付いた、「あっ、自由の女神だっ!」てなもんである。不幸にも、今の若い人はサスペンスが含まれるジャンルにはどんでん返しが付き物であると構えて観る癖が付いている。だからこの作品のように実に巧みに見せてもさほど驚かないかもしれない。いずれにしても、当時言葉にならないショックを受けた僕にとってこの作品の“どんでん返し”がそれ以来40年に渡りベストである。

当時でも大人の観客の中には「なぜ猿たちが英語を解するのだ」と疑問に思った人もいるだろうし、この疑問は実はこの幕切れへの大いなるヒント、近道になっていた。僕ら少なくとも僕はありがちな“映画の嘘”と思っていたので却って遠回りしたわけである。疑問を覚えた人は多分早めに真相に気付き、僕らのように驚きはしなかったに違いない。そこまで頭が良くなくて良かったなあ(笑)。

オランウータンが指揮する一連の異端騒動は人類史のパロディーである。しかし、シリーズの第三作以降は同時代の社会風俗を強調しすぎてぐっとつまらなくなる。類人猿の行動がブラック・パワーを筆頭とする60年代~70年代初めの社会風俗・風潮のアレゴリーであることなど十代の僕にも見え見えで甚だ興醒めした。SF・冒険映画としての純度がぐっと下がったのである。

フランクリン・J・シャフナーは本作と「パットン大戦車軍団」「パピヨン」が代表作。概して大味な感じがしないでもないが、骨太で馬力を感じさせる監督だった。

高校生の時文化祭で映画題名でパロディーをやってみた。「猿のは臭(くせ)い」など考えたが没だった(笑)。そう言えば、映画愛好仲間のS君はリンダ・ハリスンがお気に入りと言っていたっけ。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年09月15日 18:22
これは、SF映画の名作の一つですね。
リメイクというか、なぜ地球が猿の惑星となったのか?という映画が公開されるので、それにあわせたのでしょう。
しかし、たぶん、この作品より上とはならないでしょうね。
オカピー
2014年09月15日 21:38
ねこのひげさん、こんにちは。

そうでなくてもネタ不足の上に、CGでかつて作られた作品を再現してみたいという要求がリメイクやそのヴァリエーションを多くしているんでしょうね。
昔の作品は全てがシンプル、だから純度が高い。僕は映画の評価の上で結構この“純度”をというのを大事にしているんです。
だから、時系列をいじくったり色々な角度から同じ現象を見せるといった凝った作品を世評ほど評価しないことも多いですね。

「猿の惑星」に関しては、どんなに上手く華美に映像化しても、この単純な驚きを超すことはできないですよ。観る人の感性も変わってしまった。
2014年09月17日 23:24
 おひさしぶりです。

ぼくも最近、おさるサーガを全部見直しましたよ(笑)

21世紀になってもまだリメイクしているのにはさすがに興ざめですね。どうせだったら、おさるのリンカーンではなくて、おさるの自由の女神像をラストに持ってきた方が爆笑できたのになあと思いつつ、当時は映画館を後にしました。

 >何やらとがった

そうですよね。ぼくは小学三年生のころに初めて見たので、あのシーンは衝撃的でしたし、続サルのミュータントの怖い顔にも驚かされました。

 夜中に続サルの記事を挙げますので、TBさせていただきます。ではまた!
オカピー
2014年09月18日 20:05
用心棒さん、お久しぶりです。

この第一作は別格として「続・猿の惑星」は二回観ましたが、三作目以降はもう観なくても良いかなあ、と思っております。第一作は先が見えてきた人生があるうちもう一度くらいは観たいですね。あの戦慄は何度見ても条件反射的に蘇る。
確かに表現は進歩しましたが、リメイク(シリーズのヴァリエーション)も今更の感が強かったなあ。僕は表現の限界の中で最大の努力をし、工夫を凝らすSFX時代の作品の方が断然好きです。
蟷螂の斧
2016年07月22日 21:29
こんばんは。いつもレスをありがとうございます。
僕は今週も低賃金でこき使われてクタクタです・・・

>あの有名すぎるショッキングな幕切れになる。

中1の時、テレビで日本語版を見ました。
あのラストには絶句しました・・・

>僕はカメラが正面から捉える前に気付いた

鋭いですね。僕なんぞは単細胞ですから、気付きませんでした

それにしても、あれから随分年月が過ぎて発売されたDVDのパッケージに自由の女神が・・・・やめて下さいよ典型的なネタバレじゃないですか
オカピー
2016年07月23日 18:41
蟷螂の斧さん、こんにちは。
今週もご苦労様です。低賃金にめげずに頑張ってください。

僕は、現在、家の畑の草むしりで汗だくの毎日です。
 野菜は何も植えず、栗や柿やらちょっとした果物類があるだけの畑ですが、結構広いので大変です。しかも、隣の竹林の竹が進出してきたので、一円にもなりませんが、連日野良仕事。早期にリタイアした故の運動不足を解消するつもりでやっていると、腹も立ちません。

>DVDのパッゲージ
いくら古いと言っても、何も知らない人には初めてなわけだから、そりゃ、ひどい。
映画道徳観に問題ありますね。

翻って、時々ネタバレのブログに失礼なことを書きこむ輩がいて、ネタバレして書くのを原則としている僕はヒヤヒヤしておりますよ。僕はネタバレせずに映画評をかけるほど賢くないので。
 大体、映画評は観てから読むべきものであるからネタバレするのは決して失礼ではないのですが、間違って読んでしまうこともあるので、ミステリーの種明かしとどんでん返しの正体だけは示さないことにしております。
 また、シネマガイドとして参考にするという人も当然いらっしゃるわけで、そういう人の為に僕は一番先頭に採点を示しているのです。
筆者が信用しているなら、その採点だけで観るべきかどうか判断できるので、見ない映画は読むというのが僕のスタンスでしたね。他の人もこのスタイルを取り入れてほしい。
蟷螂の斧
2016年07月24日 21:15
>家の畑の草むしりで汗だくの毎日です。

お疲れ様です。広い土地で管理も大変でしょう。

>早期にリタイアした故の運動不足を解消するつもりでやっていると、腹も立ちません。

人間相手の方が疲れますよね・・・

>時々ネタバレのブログに失礼なことを書きこむ輩

そう言う人の人間性を疑います。
ブログは、それぞれ管理人さんの個性やスタンスがある訳ですから。

>シリーズの第三作以降は同時代の社会風俗を強調しすぎてぐっとつまらなくなる。

物語の設定は第3作が1973年、第4作は1991年、第5作は2003年。
今や近未来ではなく、近過去になってしまいました
双葉十三郎先生は、第5作に関して「第1話に環として繋げた価値はある」と著作に書いていました。
オカピー
2016年07月25日 17:22
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>人間相手の方が
その通りですね。人間が一番難しい。

>そう言う人の人間性
ネタバレをしているだけで、「人間として失格」などと言う当人の方が人間として問題ありですよね。

>双葉十三郎先生
ややっ、ご存知でしたか! 僕の師匠ですよ(心の中の)^^
厳密に言うと、第3作は捨てがたいのですが、社会批評的なところがこの辺りから芽生えてきたのが気に入らない、と言っても三十何年か前に観た記憶で言っているだけですけど。
確かに先生、出来としては良くないとしつつ、そんなことを仰っていますね。

>近過去になってしまいました
近未来SFのきついところですね。
「2001年宇宙の旅」も15年も前に過ぎ、2001年は宇宙どころかテロの年になってしまいましたし。
蟷螂の斧
2016年07月28日 18:57
>ややっ、ご存知でしたか! 僕の師匠ですよ(心の中の)^^

何となく、そんな気がしました
「ぼくの採点表」辞書代わりによく読みます。でも、1990年代編は手に入らないままです

>近未来SFのきついところですね。

「ブレードランナー」もそのうちに同じ運命を辿る事でしょう

>2001年は宇宙どころかテロの年になってしまいましたし。

そして、2011年3月・・・・
オカピー
2016年07月29日 09:17
蟷螂の斧さん、こんにちは。

それはそれは。
ビートルズだけでなく、双葉師匠を巡っても同好の士でしたか\^^/
今にして思えば、ブログ名も「オカピーの採点表」とか、そんな感じにすれば良かったなあ。昔、ボケというあだ名(実は自分でつけて、広まった)があったので、「ボケの採点表」という手も(笑)

>「ぼくの採点表」・・・1990年代編
これは有難くもキネマ旬報社が倒産したトパーズプレスに代わって発行してくれたものですね。
人物表記がキネ旬風に修正されているのが愛嬌です。
Amazonの中古市場にも出ていませんか? 

>2011年3月
僕にとっても、死ぬまで忘れられない非常に苦い記憶の残る年でした。
蟷螂の斧
2016年08月01日 20:59
こんばんは。

>ビートルズだけでなく、双葉師匠を巡っても同好の士でしたか

そうなんです
双葉師匠が天寿を全うした時は涙ぐみました

>「ボケの採点表」という手も(笑)

いいかも知れませんでも、「オカピーの採点表」の方がもっと良いかも?

>僕にとっても、死ぬまで忘れられない非常に苦い記憶の残る年でした。

どれだけ科学が進歩しても天災には勝てません。

>ロディー・マクドウォール

彼がまだ13歳だった頃の作品。「わが谷は緑なりき」ジョン・フォード監督作品。
好演です。
オカピー
2016年08月02日 08:48
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>双葉師匠を天寿を全う
若い頃、夢に★と☆が出てきましてねえ・・・
追悼のコラムを書いていますので、まだお読みでなければどうぞ。

>苦い記憶の年
地震の後遺症による計画停電で、だいぶ弱っていた母親を病院に連れていくことができず、4月10日に亡くなってしまったのです。
実際は自分のミスなのですが、東京電力のせいにしています。原発が使えず大変だったと言う人もいますが、僕は逆に原発に頼っていたからこんなことになったのだと思いましたね。

>「わが谷は緑なりき」
大好きな作品。
ジョン・フォードの中でもトップ・クラスの秀作ですよねえ。
蟷螂の斧
2016年08月04日 18:49
>地震の後遺症による計画停電で、だいぶ弱っていた母親を病院に連れていくことができず、4月10日に亡くなってしまったのです。

そうだったんですか・・・オカピーさんも辛かった事でしょう。

>実際は自分のミスなのですが、東京電力のせいにしています。

東電のせいです独占企業。いい加減にして欲しいです

>「わが谷は緑なりき」
>ジョン・フォードの中でもトップ・クラスの秀作ですよねえ。

まさに秀作です

>追悼のコラムを書いていますので、まだお読みでなければどうぞ。

今から拝見します。

もうクタクタで過労死しそうな蟷螂の斧でした・・・
オカピー
2016年08月04日 22:34
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>独占企業
5年も経ちますが、自分にも東電にも腹が立ちましてね。

>追悼のコラム
あえてアドレスを書きませんでしたが、下記の記事です。

http://okapi.at.webry.info/201001/article_16.html

>過労死
暑いですし、是非ご自愛ください。
タロス
2018年02月25日 17:01
どうして猿の惑星の猿のモデルが日本軍に勘違いされたのですか?
下記ウィキ引用より
第二次世界大戦当時、原作者のブールが仏領インドシナにて有色人種の現地人を使役していたところ、同じ有色人種である日本人の軍の捕虜となり、1年半の収容所生活を送ったという「立場の逆転」した苦い経験を基に描かれたとされる。しかし、実際にはブールを捕虜にしたのはヴィシー政権下のフランス軍であり、日本軍を猿に見立てて小説を書いたという説について、ブール本人が言及したことは一切無いため、この説には証拠となるものが無く、あくまで噂の範囲内である。
オカピー
2018年02月25日 21:11
タロスさん、こんにちは。

背景には興味なく、映画そのものから解ること以外は「どうでも良い」というのが僕の立場です。

余り関心はありませんが、その噂とやらは、ナショナリストによる都市伝説の類でしょう。

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