映画評「仮面/ペルソナ」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1966年スウェーデン映画 監督イングマル・ベルイマン
ネタバレあり

イングマル・ベルイマンが好きと公言しながら、重要な作品は殆どブログに載せていず、お恥ずかしい。何と言っても書きにくい作品が多いからねえ。デジタル・ビデオ(D-VHS)が先日の水害(人災)により壊れていないか実験を兼ねて、久しぶりにいかにも書きにくいこの作品を観ることにした。

東京時代に映画館で二回見た秀作で、衛星放送でも一回は見ていると思う。今記述しているということは一応製品の方は壊れていなかったということになるが、作品の方は、あれやこれや悩み事が多く思ったほど集中できなかったので、適当にお茶を濁すことにしようかなあ(笑)。

お話の構図は非常にシンプル。
 リヴ・ウルマン扮する映画女優が内に抱えた悩みの為に突然言葉を発することができなくなり入院、看護婦のビビ・アンデショーンが海のそばにある医師の別荘で世話をすることになる。
 しかし、看護婦は語り掛ける治療方法が高じ、信頼できる何かを感じた患者に自分の抱える悩みを素直に告白するといった、どちらが患者か看護婦か解らない状態に陥る。その信頼関係は女優の医師への手紙に看護婦の告白について書かれていたことから崩れるが、それでも二人の互いへの感応状態は深化し続け、やがて幻想の中で夫グンナー・ビョルンストランドが現れるなどした時互いの官能を共有するようになる。看護婦の堕胎への罪悪感、女優の子供を愛せない苦悩が交錯した後、やがて二人は元の世界へ戻っていく。

三十何年か前に観た頃は、少年の目から母親(女優)が消える最終盤の強い印象から女優が良い妻と母親を演ずる仮面性に関する内容のみ熟考したものだが、今回は、望まない子供に絡む対照的結果(片や堕胎、片や出産したが子供を愛せない)を頂点とするドッペルゲンガー的現象を描く部分も無視できないと感じる。無視できないどころかこちらが多分に主題に見える。二人が一人であり、一人が二人であるということだ。

いずれにしても、ベルイマン映画を代表する二人の女優が並ぶショットの筆舌しがたい官能美(感応美?)を筆頭とする素晴らしい構図の固定ショットだけでなく、スマートな移動撮影もあるベルイマンと撮影監督スヴェン・ニクヴィストの強力タッグによるモノクロ画面の魅力は筆舌に尽くしがたい。
 画面を見ているうち、1960年代後半~70年代初めのATG映画にはベルイマンに影響を受けた作品が多そうであると(今回は特に)思われてきた。

ベルイマンの諸作には☆☆☆☆☆を付けた作品、若しくは付けたい作品が多い。本作にもその資格があると思うものの、解り切ったとはとても言えないので、★一つ分遠慮しておきましょう。

「仮面」はサブタイトルとみなして「は行」扱いと致します。内容は解らずとも、映画ファンにはこの美しい画面を一度は観てほしいですね。

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この記事へのコメント

vivajiji
2014年07月04日 17:25
神がかり的官能美とでも申しましょうか
あの美しい映像はほんとうに素晴らしいですよね。
精一杯背伸びをしてまでも観るべきベルイマン映画
の1本でしょうか。
これぞ「大人のための、大人の映画」!
オカピー
2014年07月04日 21:33
vivajijiさん、こんにちは。

「神」を扱ってきたせいでしょうか、ベルイマンの映画は神がかって美しい。
本作のあの二人が重なる場面の官能美・・・映画館で初めて観た時腰を抜かしてしまいましたよ。
背伸びして解ったような気になり、特に(彼なら解るだろうと)高校時代からの映画友達に「凄いぞ」と推薦しましたが、その彼は結局観たのかなあ。今は銀行のお偉いさんになり、こちらと違って将来安泰の身ですが。

>これぞ「大人のための、大人の映画」!
もうこんな映画、出て来んでしょう。
難解だけどお話はシンプル、そこに映画としての美しさがあると思いますね。
ねこのひげ
2014年07月06日 05:40
理屈や説明はいらんですな~
ただ、その映像の美しさ、貴族的退廃、官能美を楽しめばよろしい。
オカピー
2014年07月06日 21:17
ねこのひげさん、こんにちは。

そうですね、何だかそうした理屈を超えた境地にある作品のような気がします。
きちんと理解できればそれに越したことはないのでしょうが、それはベルイマンご本人しかできないでしょう^^
2015年11月01日 23:06
オカピーさん、こんばんは。
芸術の秋ですねえ(北海道は初雪が降りましたが)。
というわけで、「仮面/ペルソナ」を観ましたよ。素敵な作品でした。わたしは、大学時代の倫理学概論の講義を思い出しました。人間というのは社会と隔絶すると、やはり、おかしくなっていくものなのでしょうね。実に単純過ぎる感想ですけれど。
つらくても社会の中で仮面を被って生きていくことが、ある意味、健康的なのかもしれません。孤立して生きると、たとえ美しくても、どんどん退化して単細胞のアメーバみたいになっていくんじゃないでしょうか?生物は種の分化などの現象から進化をたどるわけですから、やはり複雑な社会で柔軟に生きていく強さを持つことが人間として必然であるのでしょう。無神論のベイルマンらしいなあ、などと勝手に解釈していたところです(笑)。
わたしは、ビビ・アンデルソンがとても好きなのですが、この作品でもたいへん可愛くて、そして綺麗でした。つくづく、いまだに「エアポート80」の使われ方が惜しい!と割りきれませんよ。
リブ・ウルマンも妖艶でしたね。内面から醸しだされる超エロティズム・・・大人の女性にしか持てない成熟した魅力でしたね。
では、また。
オカピー
2015年11月02日 21:24
トムさん、こんばんは。

>仮面を被って生きていくことが、ある意味、健康的
そうでしょうね。
僕のような凡クラでも解ることは、大体社会で他人と交わる上において、どんな人も多少の仮面を被るということ。仮面を被らずに生きたらおかしくなりますよ、きっと。
それをぐっと本格的に仕事にまでしてしまうのが俳優で、ジュールス・ダッシンの「女の叫び」なども本作のヴァリエーションと言える作品でした。初公開以来全く見ていない幻の名作ですが、この手のアイデアは結構多い。
しかし、本作ほどそのテーマを純化できた作品はないような気がします。二人のキャラクターが混じり合ってしまうのも、人間の持つ仮面性故なのでしょうね。

>ビビ・アンデルソンがとても好き
僕も好きなので嬉しいですね^^
最近はアンデションとか言っていますが、とても綺麗だと思います。

>「エアポート80」
ベルイマン以外は彼女の使い方が解っていない、などと僕は言ってしまいます(笑)
イングリッド・チューリンにしても他の監督作では物足りませんよね。

>リブ・ウルマン
イメージから言うと、本作におけるビビとリブの役割が逆なのですが、それも面白かったです。

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