映画評「フラッシュダンス」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1983年アメリカ映画 監督エイドリアン・ライン
ネタバレあり

もう30年も前になりますか。東京時代、評判が良く、期待して映画館に向かったのが昨日のよう。期待に違(たが)わず、ウキウキした気持ちで映画館を後にしたのを憶えている。

ピッツバーグ、空きビルの広間で大型犬と過ごしている18歳の美人ジェニファー・ビールスは昼は溶接工として、夜はナイトスポットの踊り子として働く。夢はバレエ・ダンサーで、二つの仕事をするのはバレエ学校の学費を稼ぐ為である。工場主マイケル・ヌーリーは目の前のフロアで激しく踊る娘が自分の工場で働いていると知って接近、恋に落ち、事情を知って前妻との関係で知り合いのいるバレエ学校に根回しをする。勝気な彼女としては面白くないお節介だが、何かと励ましてくれた元バレリーナの老女リリア・スカラが死んだのを受け、彼女の為にもとオーディション会場に向かう。

リアルタイムで観た方(かた)には概ね好評だが、若い人にはどうも不評なようである。
 好評派の中にも、ポップ・ダンサーのヒロインがバレエ学校の審査員をワクワクさせることはないのではないか、という疑問を呈する方がいらした。正確には解らないが、1980年代のお話であるならば、モダン・バレエ部門があっても不思議ではない。彼女のレベルならモダン・バレエで通用する。

その他、不評派の中には「たかがダンス映画ではないか」という人もいる。これは映画ファンの意見としては論外で、一部の映画評論家にもいらっしゃるが、視覚的魅力を考慮せず内容だけで映画を追う方は誠に寂しい映画鑑賞人生を送っているとご同情申し上げたくなる。
 型通りのサクセス・ストーリーではないかという人もいる。これは真っ当である。しかし、型通りのものを新鮮に見せるのも脚本家や監督の腕の見せどころである。今なら鮮烈には映らないであろうブレイクダンスにも彼女の踊りにも1983年に大スクリーンで観た時僕ら、少なくとも僕はぶっ飛んだのだ。女性監督と暫く思い込んでいたエイドリアン・ラインのショットの感覚や繋ぎの呼吸が素晴らしくてダンスの場面はゴキゲンになる。この作品に限らず、内容は古びても、良い呼吸は不滅であり、決して古びない。1980年代、内容以上に映画の作り方自体に型通りのものが極めて多くワクワクさせられることの少ない現在とは対照的な、アメリカ映画がまだ面白い時代でもあった。

街角でブレイクダンスを観ていた彼女がオーディションで披露するのも嬉しくなる。確かにサクセス・ストーリーとして型を大きく超えるものではないが、ヒロインの人物像点出は案外面白いし、非常に感じの良い社長や元バレリーナや親友との絡ませ方も節度があり、決して鼻白まさせない。

サントラ(1983年だからCDは登場したばかり、アナログ・レコードがまだ主流だった)こそ買わなかったものの、曲は全て憶えている。主題歌「ホワット・ア・フィーリング」は「フェーム」の主演兼歌唱で注目していたアイリーン・キャラによるもので、80年代ポップスを代表する名曲の一つに数えたい。彼女は歌手としてブレイクすると思ったが、その後は鳴かず飛ばず。芸能界は厳しいですなあ。
 ジェニファー・ビールスはこの後主演映画が何本か日本でも公開された後、決定打に恵まれず人気ランキングでは圏外に去っていった。しかし、現在まで出演作は途切れていない。TV出演が多いようである。

1983年。特許を保有するフィリップスから送られてきた分厚い英文のCD特許契約書を訳したのは新人の僕だった。

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この記事へのコメント

ドラゴン
2014年07月09日 18:55
こんばんは。

僕は、この作品好きです。
何度も観ました。
サントラも買いましたし笑

70、80年代に生きていたら、映画館に通うのがどんなに楽しかったことでしょうねぇ。
今は、名画座が次々と閉館のニュースばかりで寂しい気持ちになります。
オカピー
2014年07月09日 21:32
ドラゴンさん、こんばんは。

こういうコメントを戴くと、嬉しくなりますねえ。
サントラは勿論CDですよね(笑)

今、ドラゴンさんの世代では日本映画しか見ない人も多いのではないでしょうか。たまに洋画を観ても3D映画の大作を吹き替えという人が多いでしょう。
噂で聞くでありましょうか、僕らの時代は邦画を観る若者は圧倒的に少なかった。30年で時代は変わりました。
かく言う僕も高校に入ってから邦画もボチボチ観始めた口で、それもお決まりの黒沢、小津、溝口ぐらいでしたよ。

まさにその70年代から80年代僕が過ごした東京時代、23区を中心に東京じゅうの名画座を駆けずり回りました。貧乏学生故、ロードショーはたまにでしたが、名画座で素晴らしいカップリングを発見すると行く前からワクワクさせられたものです。
一番言ったのは池袋文芸坐。早稲田松竹はこの間まで残っていましたが、今はどうですか?

日本における現在の観客動員数は1970~80年代より多いでしょう。しかし、残念ながら映画の質は落ちていますね。アメリカ映画も邦画もため息が出るくらいダメです。
2014年07月09日 22:40
エイドリアン・ライン監督は人間模様を描くのもうまいですよね。この映画で思い出すのは、主人公の友人でフィギュアスケートやっている女子のお父さんや、同僚のダンサーで昔は夢を抱いて可能性に挑戦したことのある女性の姿。正統派の作家だと思います。
2014年07月09日 22:45
新宿名画座ミラノとか高田馬場パール座とかもありましたよね。

僕もこの映画は何回か観た口で、テープにダビングした全ての楽曲がどれも興味深いものばかりで、よく聴いてました。
恋愛模様と共に、青春群像もあり楽しめましたが、昨今の邦画で育った人には主人公の生い立ちとかの背景が不明なので不満を持つんじゃないでしょうかね。
ドラゴン
2014年07月09日 23:33
オカピーさん、こんばんは。
お返事ありがとうございます。

そうですねぇ、確かに今は、邦画に流れやすい傾向はあると思います。現代の映画は、テレビ・広告と密接に関係していますからね。だから、映画を全く観ないわけではないけれど、本当に好きで映画館通いしている人は少ないように感じます。


池袋文芸座は大学が近く、オールナイトに行ったりしました。早稲田松竹も中高時代に馴染み深い土地にあり、よく通ってますよ!去年だったか『夜の大捜査線』と 『フレンチ・コネクション』の二本立てをやってくれ嬉しかったです。
この2館はまだまだ頑張っていますが、老朽化や再開発、シネコンの増加やデジタル上映への移行などの煽りを受けて、現存する都内の名画座は数えるほどです。浅草、銀座シネパトスなどは閉館しましたし、これから新宿ミラノや三軒茶屋、新橋の名画座が閉館予定。素敵なラインナップの名画座で映画を観るのが幸せな自分みたいな若い映画ファンにとっても、本当に寂しいことです。
親も若い頃、名画座に相当お世話になったみたいで「昔は良かった」としみじみ語る時があります笑


僕も一応現代っ子なので(笑)、新しいものや若者向けの文化に影響を受けていますが、リアルタイムでないとはいえ昔の素晴らしい映画に触れると逆に新鮮ですし、その質の高さには驚かされます。
今の技術は進歩して確かにすごいです。ただ、僕が心の底から感動し堪能させてもらった映画は、自分が生まれる前のものがほとんどなのが現状だから困ったものなんですよね。
オカピー
2014年07月10日 19:35
nesskoさん、こんにちは。

>人間模様
あのお父さんや、しみじみと語る中年の同僚女性の様子など良い味わいがありました。端役まで結構気を使っていましたね。
同時代の監督で言えば、ジョン・G・アヴィルドセンに近いタッチかな。「ロッキー」ばかり言われていますが、余り知られていない「ふたりでスローダンスを」はなかなか良い映画でした。もう一度観たい作品です。
オカピー
2014年07月10日 19:45
十瑠さん、こんにちは。

あれっ、東京にいらしたことがありましたっけ?
前に聞いたかもしれませんが、ひとのことはすぐ忘れてしまいますもので^^;

新宿で僕がよく利用したのはテアトル新宿(後にロードショー館になった?)かな。高田馬場パール座は勿論行きました。早稲田の方が好みの組み合わせが多かったですが。
下宿のあった大塚名画座、飯田橋佳作座、八重洲スター座、五反田シネマ、等々、それぞれ思い出があります。

>背景が不明
ふーむ。
最近のファンは基本的に説明過剰のTVドラマで育った方が多いから、人生の断面を切り取るように見せる少し前の作品は苦手ですか(苦笑)
オカピー
2014年07月10日 20:04
ドラゴンさん、こんにちは。

現在の邦画は、仰る通りTV局絡みの作品ばかりですし、実際TVの映画版も少なくないですが、いずれにしても説明過剰でとにかく長いですね。昔なら100分で描けた恋愛映画が130分もかかったりする。100分なら観る気になっても30分長いと見る気も失せますよ。老人は残された時間がないのですから(笑)

>大学が近く
ということは立教ですかねぇ?
僕は山手線で隔てられた大塚に住んでいましたので、文芸坐は歩いていきました。良い組合せも多く、安かった。

三軒茶屋は少し遠かったけど、何度か行きましたねえ。下高井戸にもあったような気がするな。三鷹オスカー。サタジット・レイの「大地のうた」「大河のうた」「大樹のうた」の三本を続けてみました。疲れましたけど、感動しましたねえ。
五反田のアンジェイ・ワイダ三本立ては全部で8時間を超え、朝8時に家を出て寄り道せずにそのまま家に帰っても夕方6時くらいでした。文芸坐オールナイトの4本立てより長かったですよ^^;

>「昔はよかった」
ノスタルジーだけではないんですよ。
ドラゴンさんはその辺りが解っているようで嬉しいですね。
ねこのひげ
2014年07月13日 06:25
若手バレリーナの登竜門でありますローザンヌ国際バレエコンクールでもコンテンポラリー賞というのがありましたが、これはモダンバレエ的な表現をしていた人が多かったようです。
でありますから、『フラッシュダンス』で、ブレイクダンスのようなことをしてもかまわないと思われますね。
ダンス表現の美しさは、クラシックだけのものではありませんですぜ。
と言いつつもクラシックバレエの美しさにも魅了されますがね。
オカピー
2014年07月13日 19:22
ねこのひげさん、こんにちは。

日本人は、モダン・バレエへの観念が余りないのかもしれませんね。

>クラシックバレエ
昔ボリショイ・バレエを横浜で観ましたが、よく解らなかったなあ(笑)

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    Excerpt: (1983/エイドリアン・ライン監督/ジェニファー・ビールス、マイケル・ヌーリー、リリア・スカラ、サニー・ジョンソン、カイル・T・ヘフナー、リー・ヴィング) Weblog: テアトル十瑠 racked: 2014-07-09 22:23