映画評「グランド・マスター」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2013年中国映画 監督ウォン・カーウァイ
ネタバレあり

ウォン・カーウァイは苦手ではあるが、見なければならない監督である。しかし、開巻早々先年二部作でたっぷり紹介された詠春拳の祖イップ・マン(葉問)のお話と知って、相当がっかりさせられた。だが、その失望は良い方に外れた。
 所謂“カンフー映画”として作っていないことが確認されただけでなく、いつもほど一人合点になっていないからである。厳密には一人合点のところもあるが、余り形而上的になっていないのが良い。

中国南部の佛山、裕福な家庭に育ち清朝高官の娘を妻に娶って順風満帆だった葉問(トニー・レオン)が、1930年代後半日本の侵攻に伴って貧困に喘ぐ一方で、中国南北で拳法の覇権が争われる中で北部トップの座に君臨し引退を決意した宮宝森により、拳法統一を託す後継者に指名される。宮の娘・若梅(チャン・ツィイー)は面白からず葉問に戦いを挑んで勝利し、弟子の一線天(チャン・チェン)は師匠を倒す。
 結局、このいざこざは日中戦争のゴタゴタで収拾することなく、戦後香港に渡った葉問や一線天は弟子を集めて夫々の流派を確立し、若梅は医者となる。

葉問の伝記部分に関しては「イップ・マン」二部作と大して変わらないが、そこに若梅との間に恋愛感情がそこはかとなく生まれる印象を抱かせているのがカーウァイらしい。

本作は先述したようにカンフー映画ではあるまい。アクションが一般のカンフー映画より少ないだけでなく、撮影の仕方が本来のアクション映画の在り方と逆を行っている。カーウァイは自身の美学を満足させるべく、耽美的にアクションを捉えている。つまりアクションの大半をスローモーション(フィルムならハイスピード撮影)で見せ、しかも、全体を殆ど捉えず手や足をアップで撮る。1940年代のキャロル・リードのように物の形が印象に残るように対象に迫る。彼の興味はその部分的な動きにあって、格闘者がどういう風に戦っているかという点には殆どない。カンフー映画としてはどうかという意見に対しては、だから、その問い自体が間違っていると言わざるを得ないのである。

アクション場面以外でも寄りが多く、その唯美的な画面は大いに満足させられる。物語を絡めると少し☆★は抑えざるを得ないが、総合的に「花様年華」(2000年)以来の充実ぶりと言うべし。

因みに、若梅がアヘンを吸っている場面でセルジョ・レオーネの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(1984年)の“デボラーのテーマ”がかかる。場面の扱いとこの曲を使ったことを考え併せると、かの大作を意識して本作を作った部分があるように思う。邦画「それから」の主題曲も使われているようだ。

漱石の小説「それから」は大好きだっただけに、映画版には少し違和感を覚えた。久しぶりにもう一度観てみようかな。年齢も重ねただけに印象も違うと思う。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年06月24日 02:13
映画にしろ、小説にしろ、歳を取ってあらためてみると印象が違ってくるものがありますね。

パシフィック・リム・・・単行本でありました。(^^ゞ画像もついとりますが・・・
フィギュアも出ておりますが、あまり魅力的ではありませんです。
こういうものは、やはり日本人の方がうまいようです。
トム・クルーズの最新作『オール・ユー・ニード・イズ・キル』も日本のライトノベルズが原作だそうであります。
原案となっているから、そうとう変えたのかな?
筒井康隆さんが絶賛しているそうなので、こんど読んでみるつもりでおります。
オカピー
2014年06月24日 20:15
ねこのひげさん、こんにちは。

いや、大分違うことがありますね。
あんなに感動した小説が何ということがなかったり、大して面白くないと思ったのが楽しかったり・・・
「それから」は漱石の中でも好きだったので、松田優作がイメージでなかったり、スタイリッシュなカメラが少し違うのではないかと思ったりしましたが、後年森田芳光監督のタッチが正統派に思えてきたので、どうですか。

>パシフィック・リム
わざわざご確認有難うございます<(_ _)>
先日夫婦で片づけの手伝いに来た姉に古典ばかり読んでいることを批判されましたが、「古典ならつまらなくても我慢できる」が僕の信条(心情?)です。

>ライトノベル
ねこのひげさんは実に幅が広い。
僕は、筒井康隆氏でさえ、碌に読んでいませんからねえ^^;
中学の時に星新一氏はほぼ読破しましたが。僕が図書室にリクエストしたら早速全集みたいなものを買ってくれたのが嬉しかった。後で冷静に考えてみたら、恐らく僕以外にも何人かリクエストした生徒がいたのでしょうね。
2014年06月26日 23:11
>星新一
中学生の頃も読みましたが、私は大人になってから本格的にはまりました。
いまでも寝る前にショートショートをひとつ読むことが多いです。おはなしがおもしろいのと、文章がすっきりしているのが好きです。
「声の網」という連作ですか、インターネット普及後に読むとほんとうに怖いですよ。
>古典ばかり
オカピーさんの影響もあるのですが(笑)、最近は図書館で「ちくま哲学の森」シリーズを借りて読んだりしています。どうも長い小説が読めなくなっているのですが、これはアンソロジーなので少しずつ読めるのですね。古典への入門編みたいなかんじですか。いいですよね、古典。
オカピー
2014年06月27日 11:25
nesskoさん、こんにちは。

>「声の網」
中学二年の時、自分の買った文庫本で、休み時間に読んだ記憶があります。
仰るように、自分ではなく、社会が変わっても感想は変わってくるでしょうね。

>「ちくま哲学の森」
「文学の森」のほうは読んだことはありますが^^ゝ
今図書館のHPで調べてみたら、「哲学」と言いつつ、文学作品も結構(というか大半)含まれているんですね。

>長い小説
イエス・サー。
実際そうなんですが・・・やはり避けてきた小説には長いものが多く残されていまして・・・ゆっくりと時間を掛けて読むことにしますよ。
僕に残された時間がどれだけあるか解りませんけど、これを読まずに死ねるかという名作が結構あるんです。文学ではないですが、カントの「純粋理性批判」など長くて難解(と聞く)なので、読まずに来ました。僕の知力では、表面的に読むだけに終わると思うものの、それでも良いから年内に何とか^^

古典は、仮に自分の趣味に合わず面白くなくても「何故残ったのか」解るのが殆どですね。

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