映画評「ヒッチコック」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2012年アメリカ映画 監督サーシャ・ガヴァシ
ネタバレあり

7年ほど前アルフレッド・ヒッチコック監督「サイコ」(1960)についてものした時主演のアンソニー・パーキンズをアンソニー・ホプキンズと誤記して恥ずかしい思いをしたことがある。そのホプキンズが「サイコ」製作時のヒッチコックを演ずるというのも何だか面白い。

前々作「めまい」(1958)が評判悪く、続く「北北西に進路を取れ」(1959)は好評だったものの「そろそろ引退の潮時では?」などと言われて面白くない60歳のヒッチコック(ホプキンズ)はあっと驚くような新作を作ろうと、殺人鬼エド・ゲインをモデルにロバート・ブロックが小説にした「サイコ」に興味を抱くが、愛妻アルマ・レヴィル(ヘレン・ミレン)は別の脚本を他の作家(ダニー・ヒューストン)と共同で進めている為消極的。
 当時ヒッチコックを使う権利を持っていたパラマウント社が製作を拒絶したので自らの資産を抵当に製作に乗り出す。主演女優を前半で殺すというアイデアを出したのはアルマである。
 主演女優のジャネット・リー(スカーレット・ヨハンスン)はあっさり決まり、主役の変質者にはゲイの噂のある二枚目アンソニー・パーキンズ(ジェームズ・ダーシー)に決める。ジャネットの妹役のヴェラ・マイルズ(ジェシカ・ビール)とは因縁の仲で、契約の関係で使うだけ。

周囲が冷たい態度を取る中でもハードなのは映倫(ヘイズ・コード)で、ヌードは勿論ナイフが直接体にささるショットもご法度。トイレも映すななどと言う(ヘイズ・コードは言葉にもうるさかったが、「サイコ」には関係ない)。しかし、この制限があの歴史的なカット割りを生んだのである。
 日本においてポルノ映画出身に優れた監督が多いように、制限は映画に限らず芸術を良くすることが多い。僕の持論である。その意味で、言葉の制限がなくなり、VFXで何でも見せられるようになった現在は、製作者においては創意工夫を、鑑賞者においては想像力を失わしめるので、結果的に質を下げているのではないかと思う。「バチェロレッテ」で述べたことは大げさにしても、昨今のアメリカ映画のつまらなさを見るにつけ、ヘイズ・コードを復活させた方がハリウッドの為になるような気さえしてくる。この映倫をめぐる部分が映画史的に一番興味深い。

ヒッチ自身に関しては、他の脚本家との浮気をヒッチが疑う普遍的な部分を見せた後、「サイコ」の編集の見直しやBGM利用におけるアルマのリーダーシップから夫妻の愛情が浮かび上がるような形で、ティッピ・ヘドレンの伝記映画「ザ・ガール」に比べると、金髪美女への偏執、覗き趣味(「裏窓」(1954年)のパロディーでもある)など扱われてはいるものの、毒が薄目となっていく。

全体に緊張感のある展開の中にユーモアを交えた作りはヒッチ自身の作品を観るような面白味があり、特にカラスがヒッチコックの肩に降りて来る幕切れの洒落っ気は嬉しい。

似ているか似ていないかは作品の価値に直に関係するわけではないが、ホプキンズの喋り方を筆頭にそれぞれ工夫を凝らして見事ななりきりぶり。

本作を観るくらいの方なら次回作が「」であることはご存知でしょうね。

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この記事へのコメント

2014年04月25日 14:37
>言葉の制限がなくなり、VFXで何でも見せられるようになった現在は、製作者においては創意工夫を、鑑賞者においては想像力を失わしめる

これはほんとうにそう思いますね。いまさら言っても仕方がないのでしょうが、作る方も大変になっている面もありそうなんですよ、何でも見せるにはそのための予算がないとできませんからね。
台詞も説明過多になってるきらいがあって、でもあそこまでやらないと大勢に通じないのだとなると、それも仕方がないのか、と。
オカピー
2014年04月25日 20:14
nesskoさん、こんにちは。

サイレント映画を弁士なしで理解できる観客は凄いと思いますね。日本はありましたが、なかった国もあるはずです。アメリカではオーケストラはついたと聞きますが。

TV普及期にはTVドラマが観客の映像に対する理解度を増したこともあったようですが、その後映画に比べ懇切丁寧なTVドラマは観客を甘やかした為、説明が最小限になりがちな映画が理解できない人が増え、そこにTV局の映画への進出が重なった為自ずと映像・台詞共に説明が多くなっていると分析しています。
だから、最近の日本メジャー映画の必要を超えて長いことと言ったら(苦笑)
ねこのひげ
2014年04月27日 08:08
誰だっか・・・?(笑
フィルムを映画会社に盗られないように持って逃げ回って自分で編集して公開したという方もおりましたな~
家を担保にして映画を作ったという方も・・・
根性ありました。
オカピー
2014年04月27日 16:56
ねこのひげさん、こんにちは。

この映画を観ると、資金確保の為にヒッチも屋敷を担保にした感じがありますね。
トリュフォーとのインタビューでは製作費の十倍も配収を得たとほくほくのヒッチでした。

当時ハリウッドで編集権を持っていた監督は片手くらいだったようですね。
ヒッチコックとジョン・フォードは間違いなく持っていたでしょうが、ビリー・ワイルダーも持っていたかな。ウィリアム・ワイラーも?

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