映画評「ゼロ・ダーク・サーティ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2012年アメリカ映画 監督キャスリン・ビグロー
ネタバレあり

2011年5月に米海軍特殊部隊により遂行されたオサマ・ビン・ラディン暗殺までを再現した際物で、監督は「ハート・ロッカー」ですっかりお馴染みになったキャスリン・ビグロー。中近東ものが二作続いて、女性版オリヴァー・ストーンになってきた感もある。

お話の骨格は極めて単純で、ビン・ラディン追跡に専任された若いCIA女性分析官マヤ(ジェシカ・チャスティン)が、同僚ジェシカ(ジェニファー・イーリー)を車爆弾テロで殺されたことで俄然執念を燃やし、遂にビン・ラディンの連絡係の住居を突き止め、そこにビン・ラディンがいると推定、上官を動かして暗殺を遂行させるまで。

彼女は殺された男の死体を見てオサマであると断定するが、これは些か乱暴だろう。尤も、実際にはその後DNAを調べている筈だし、マヤが涙を流すシーンに繋げる展開上の布石に過ぎず、リアリティーの観点から文句をつけても余り意味がない。

いずれにしても、ビン・ラディンがいなくなっても似たような影響力のある人物は間違いなく出てくるので、アメリカのイスラム過激派との戦いはそう簡単に終わらない。その辺りは本作の関知することではなく、彼女の執念が結実していく過程をサスペンスフルに見せるのが眼目と思われる。その意味では相当うまく作られ、大衆映画的に見応えたっぷりと言うべし。

但し、映画的には些か散文的で、事実を元に作られた暗殺サスペンスの傑作「ジャッカルの日」(1973年)のような潤いに欠けている恨みが残る。

ヒロインが最後に流す涙について決定的な解釈は難しいが、ジェシカへの純然たる鎮魂の思いであろう。復讐を果たした喜びなどとは少し異なるような気がしている。少なくとも僕にはこの映画が本当に「アメリカ万歳」の映画なのかどうか断定しきれない。

人間とお金は本当に面倒くさい。

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