映画評「東京オリンピック」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1965年日本映画 監督・市川崑

2013年度最後の鑑賞作品。2020年のオリンピックが東京に決まったことを受け、かつ、2014年が1964年より50年ということを背景にした年末の放映なのであろう。1980年代に一度観ている。

しかし、保守的な政治家の妙な動きに利用されている感があったので、2020年は外れてほしいと思っていた。その一人猪瀬都知事はみっともなくも退任となった。彼には作家に戻って良い仕事をしてほしいと思う。
 もう一人は見かけ上の経済指標が良いため、明白なる強権政治にも拘わらず高い支持率を保っている。今の政治がそのまま進めば、中国と韓国が不参加、中国は投資し続けているアフリカ諸国を不参加に導くだろう。首相の靖国参拝に嫌悪感を示したアメリカが今より中国寄りになれば、モスクワ・オリンピック並の不参加の可能性すら孕んでいる。オリンピックを政治に利用するなと言うのは無理で、今回だって既に利用されている。そうなれば「ざまを見ろ」と言いたいものの、それでは選手の諸君が気の毒だし、実はオリンピック観戦が大好きな僕も気の毒である(笑)。2020年にはまだ生きている予定だからね。

さて、ご幼少につき“記憶にございません”なのであるが、市川崑が総監督となっているこの作品は、当時政治家に批判され「記録か芸術か」で問題になったらしい。
 高度経済成長真っ盛りの日本を指揮してきた一部政財界の要人にしてみれば、もっと日本の成長ぶりや国威を発揚するような作りを期待するのは無理ないとは言え、今ほどショー化されていなかったオリンピックを政財界の代理人ではない市川監督が芸術指向で作り映画的に見せようとしても、文句を言われる筋合いではあるまい。お金がどこから出たかにもよるが、一映画ファンの僕にはそんなことは知ったことではない。

独立したばかりのアフリカ諸国の紹介や選手のまじめな行進ぶりがまず印象に残る。確かに体操やボートに芸術的な表現はあるものの、今見ると「芸術か」と言われるほど凝った作りはされていない。
 ただ、競技の経過・結果より、有名・無名を問わず選手の表情に注目した普遍的方向性は後年観た時に強い印象を残す結果に繋がっている。今の若い観客がこの作品を見ても個々の選手についてご存知の方は少ないわけで、記録(競技の経過)や結果を仔細に紹介したところで何の感興も起こさないであろう。

現在ならもっと大きく扱われるにちがいないサッカーやバスケットボールがあっさりと紹介される(30秒未満か?)のに対し、バレーボールやマラソンなど一部の競技・種目はかなり長めに観られる。日本人が活躍した競技ということに加え、競技として日本で人気があったということでもあろう。背面跳びが開発される前の走り高跳びの模様が印象深い。このあたりの取捨選択に時代の流れを感じる。

観客の髪は黒く実に素朴。正に日本人だった。貴賓席では、皇太子(=今上天皇)も若く、美智子様はお綺麗でした。

といった次第で、高度経済成長期に作られたとは思えぬほど暗い印象をもたらしているのは確かながら、時代の差を感じる部分が多く、ある世代以上には今でも(今だからこそ)楽しめる内容であると思う。

経済も大事だけど、経済より人間そのものを大事にしないのは本末転倒。オリンピックの為に英語を勉強するか。馬鹿げている。日本語で“おもてなし”するのが一番だろう。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年01月08日 19:34
市川崑監督の反骨精神の現れのような映画でありました。
政治家からかなり不満の声が上がったと聞いたのを覚えております。
所詮、絵画を賄賂に利用したりするような連中でありますから、映画の芸術性なんて理解の範疇を越えていたのでありましょう。
中国というかいまの共産政権が7年後までに残っていますかどうか、いまでも爆弾テロ騒ぎが盛んに起こっておりますからね。
オカピー
2014年01月08日 20:20
ねこのひげさん、こんにちは。

>反骨精神
その通りですね。
戦争を挟んだ時代の映画監督には反骨の持ち主が結構多いです。

>中国
北朝鮮の方が先に消えるかな?
ウイグル、チベット、内モンゴル、台湾が一斉に蜂起すればさすがの巨大兵力をもってしても持たないと思っておるですが、そんなにうまい具合には行きますまいなあ。
いずれにしても、少しずつとは言え中国が自由主義的になり、我が国が言論封鎖の国になって、2030年代には立場がひっくり返ってしまうのではないかと危惧しますですよ。中国が共産党独裁でなくなるのは歓迎ですが、日本が暗黒国家になるのは嫌ですね。
2030年代を見る為にそれまで生きていますか(笑)

碌でもない北朝鮮や中国共産党独裁体制の為に戦争に巻き込まれるのはまっぴらごめんですよね。良い戦争なんてないと思っていますが。
モカ
2019年07月24日 13:54
来年の東京オリンピックまであと1年、と報道していますね。
私個人はオリンピックなんて面倒くさいことをよくやるなぁ、東日本大震災の時に、「オリンピックどころではございません」とエントリーを辞退するべきだったと今も思っております。

前回の東京五輪時は小学校高学年でしたし、学校のテレビでも見せてもらった記憶があります。記憶に残っているのは、女子バレーボール(東洋の魔女)マラソンのアベベ、女子体操のチャスラフスカ、重量揚げの三宅ぐらいでしょうか。
中学生になって、学校から映画を観に行きました。 他校の生徒も来ていたので、全国的に学校行事として見ているとしたら、映画としての採算は取れたんでしょうね。
「記録か芸術か」と騒がれていた事は知りませんでしたが、映画館で中学生はみんな盛り上がって観てましたよ。
私は冒頭の古い建物を鉄球状の物で壊している映像が印象的でした。ここから始まるか、と斬新な感じがしました。
後年、市川監督の「ぼんち」の冒頭、大阪の北浜あたりのビル街を上空から撮った映像を見てオリンピックの映画と似ている、と思いました。なるほど、どちらも市川、宮川ペアでした。

確かに猪瀬直樹さん、知事になって人相悪くなりましたね。
令和騒動の折、「天皇の影法師」を思い出して久しぶりにパラパラっと読みましたが、また地道にああいう本を書いてほしいですね。
そういえば、「木枯し紋次郎」も市川崑でしたね。どうりで斬新な訳です。
オカピー
2019年07月24日 21:20
モカさん、こんにちは。

>来年の東京オリンピック
僕は、半島出身者に対する差別が盛んに行われている時につき、こんな恥ずかしい人々のいる国には来てほしくないと思ったものですが、逆に、オリンピック開催がそうした差別への規制を勧めた面もあったかもしれないと、ヘイト・スピーチに対する法整備が少しずつ進んでいる現状を見て、思っております。

そして何と言ってもオリンピックを見るのは大好き。国別のメダル数には全く興味がありませんが、応援する個人が頑張るのを見てドキドキひやひやしながら観るのが楽しい。つまり、過程が楽しいのであって結果は二の次です。

>映画としての採算は取れたんでしょうね。
学校での動員を含めて、2350万人が観たそうで、その限りでは日本映画史上一番観られた映画です。「千と千尋の神隠し」が2000万人。

>宮川
ドキュメンタリーに宮川一夫を使うなんて贅沢でしたねえ。勿論他のカメラマンもいますが。

>猪瀬直樹
そうなんです。
福沢諭吉が政治家にならなかったのは、“民間で優秀だった人間も政治家になると馬鹿になる”(「学問のすすめ」だったか?)という信念かららしい。政治家などにならないほうが良いデス。

>「木枯し紋次郎」も市川崑
彼はこの時代殆ど映画を撮っておりません。「東京オリンピック」で干されたのかと思いましたがそうではなく、TVに可能性を感じそちらを注力していたようです。その一つが「木枯し紋次郎」。
 このTVの評判に気を良くしたのか、その直後73年に「股旅」という、先般亡くなったショーケースが主演した青春時代劇を作っていますね。
モカ
2019年07月25日 21:10
市川昆 「股旅」 CSで放映時に見出したんですが、なんかリズムが合わずしょっぱなで断念しました。もうちょっと我慢したらよかったんでしょうかね。
Prof.はまだ小さすぎて覚えておられないかもしれませんが、「源氏物語」も斬新でしたよ。 
伊丹一三が光源氏で女性陣はメイクのせいもあって子供には識別不能で、岸田今日子のみ識別できました。
伊丹十三ってピーター・オトゥールと共演したせいかは分かりませんが、表情、特に目つきが似てると思いますが、どうでしょう。

私もオリンピックを見るのは好きですよ。
ただ、今また東京でするのはどうなのかなぁ、と思うのです。
最近、毎年猛暑ですし。
でもここまで来たらもう無事成功することを祈るのみです。
浅野佑都
2019年07月26日 11:46
  山田洋二は、高度経済成長のステップ台になった東京五輪が日本をめちゃくちゃにした と言っています。
その真意は、一言でいえば、日本が、それ以前よりも管理社会となり、豊かさと引き換えに人々の生活が窮屈になったことでしょう・・。

ぼくが幼稚園のころ、東京の叔母の家に遊びに行くと、家の前の道路は鉄板で覆われ、地下では、四六時中工事の轟音が響いていました。東京全部がそうだったでしょう。

ぼくらは、そのころの日本人は活気があったと思いがちですが、山田洋二は、その少し前の、20~30年代の、小津作品に出てくるような人々の顔に健全な活力を見ている。

確かに東京五輪以後の日本は、欧米を手本にした新しいテクノロジーを武器に世界に雄飛し、国内では次々に新商品が開発され、人々は購買欲と「もう少し待てばもっと良いものが出るはず」という思いとの狭間で、欣喜雀躍(笑)してきたことは僕らが生き証人ですね!
だが、それと引き換えに失ったものもあるはずだと・・。

 僕が山田洋二の凄みを感じたのは、彼が」「フーテンの寅が人気なのは、日本人(の心)が病気だから」と語ったときです。

芸術としての落語と同じく、人が生きていくうえで、世の中の矛盾や人間の業を笑いの中に描く松竹大船調の喜劇は正道でした。
しかし、寅二郎は、やくざで、恋をしても、相手が本気になったりすれば逃げるような男で、帰りたくなったら柴又に帰る……同じ自由人でも西行や宗祇、芭蕉ら先人の覚悟の放浪とも言えない、甘えと馴れ合いの連続です。

日本人の欠点を丸めたような人間を見て笑うのは、日本人そのものが病気でゆがんでいるからなんでしょうね・・。

 僕は東京2020の開会式の芸術監督こそ、山田洋二にやって欲しかった!(彼は絶対、拒否したでしょうがね笑)
オカピー
2019年07月26日 19:13
モカさん、こんにちは。

>市川昆 「股旅」 

そうですねえ、ちと変な作品でしたからねえ。
 ところで、我がコメントで、ショーケンの筈がショーケースになっていましたね(笑)。パソコンの辞書から間違って選んでしまったのでした^^;


>「源氏物語」も斬新でしたよ。

そもそも我が家は大河とか殿様映画とか見ない家でしたから、全く記憶にないです^^


>伊丹十三ってピーター・オトゥールと共演したせいか・・・
>表情、特に目つきが似てると思いますが、どうでしょう。

「ロード・ジム」ですね。原作も先年読みまして、コンラッドの著作の中で珍しく楽しく読めました。
仰るように、同じようなムードがありますね。


>最近、毎年猛暑ですし。
>でもここまで来たらもう無事成功することを祈るのみです。

そうなんです。
一時サマータイムの導入案が浮上しましたが、実は体に良くないと言われ、欧米でも廃止の傾向があるため、いつの間にか消えましたね。
オリンピックはアメリカに牛耳られていますから、昔のように幾らか涼しい10月にできないんですよね。アメリカは、10月は大リーグのプレーオフとか色々あり、バッティングさせないんですよね。競技時間もアメリカ視聴者の為に決められる不条理。
オカピー
2019年07月26日 21:29
浅野佑都さん、こんにちは。

>豊かさと引き換えに人々の生活が窮屈になった

物事はどうしてもバーターの関係にありますよね。
 窮屈になったおかげで、街にゴミが少なくなり、人々は上品になった。しかし、それ以前の猥雑さが人間的と言えば人間的。上品で、かつ、窮屈でない社会が来ないものでしょうか(笑)。

“最近のお笑いは人の容姿を笑いの対象にする。昔はそんなことがなかった”という意見を何年か前の新聞で読みましたが、これは大嘘ですよ。狂言などに人の容姿を笑いのネタにする演目が幾つもあります。
 こういう意見を読みますと、先の東京オリンピック以降、日本人の古い記憶が入れ替えられたと思わされます。まして若い人をや。


>20~30年代の、小津作品に出てくるような人々の顔に
>健全な活力を見ている。

山田監督の「家族はつらいよ」シリーズが何気なく面白いのは、そうした時代と現代との違いを作品の中で焙り出し、問うているからでしょう。その意味ではもっと評価されて良いと思う作品群。

>購買欲と「もう少し待てばもっと良いものが出るはず」
>という思いとの狭間

録音・録画機材などで、その思いに翻弄されましたねえ。
 昭和40年頃に兄がバイトで貯めた金でテープレコーダーを買い、当時のTVにはライン出力がなかった為マイクでTVアニメの歌を録音しまくっていました。毎日のように聴きましたねえ。おかげで、それから数年間のアニメの歌は今でも歌えます。最近図書館に行って、その時代のアニメ・ソングを収めたCDをよく借りていますよ。


>山田洋二の凄みを感じたのは、彼が
>「フーテンの寅が人気なのは、日本人(の心)が病気だから」
>と語ったときです。

凄い言葉ですねえ。
 以前「男はつらいよ」は落語であると強調していた時代がありますが、僕のテキトーな意見も結構当たっていたのですなあ(笑)。
モカ
2019年07月26日 21:39
ショーケース! てっきり、私の知らない第二の呼び方だと思いましたよ。
ロード・ジム 伊丹十三はちょっとしか出てないのに、出演料でロータス・ヨーロッパを買って帰ったんですよね。そんなにすごい映画とも思えませんでしたがヒットしたんですね。
オカピー
2019年07月27日 18:50
モカさん、こんにちは。

>ショーケース! 
>てっきり、私の知らない第二の呼び方だと思いましたよ。

さすがにそんなことはないのでした(笑)。


>ロード・ジム 伊丹十三はちょっとしか出てない
>出演料でロータス・ヨーロッパを買って帰ったんですよね

何しろ、ギャラが日本とは比較にならない。差が少ない時でも日本の20倍、多い時は100倍と思って良いのではないでしょうか。
20年近く前「パール・ハーバー」という大作に主演したベン・アフレックが最低ギャラで出演したと話題になったのですが、それが20万ドル。当時の為替レートで凡そ2000万円。当時日本でこれだけの出演料を貰える役者は高倉健くらいだったでしょう。
何が最低ギャラだ!と僕は密かに毒づいたのでした(笑)。

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