映画評「もうひとりのシェイクスピア」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2011年イギリス=ドイツ合作映画 監督ローランド・エメリッヒ
ネタバレあり

ちょっとした文学通ならシェイクスピア別人説というのをご存知のはずで、哲学者フランシス・ベーコンを筆頭にオックスフォード伯エドワード・ド・ヴィア、等の諸説がある。大分以前にベーコンを中心としたグループがシェイクスピアの名で作品を発表していたのではないかという新説もTVで披露されたことがある。
 本作はそのうちオックスフォード伯説を取って文芸および歴史ファンには相当興味深く作られている。最近面白い映画が少ないので☆★を大奮発してしまおう。

16世紀末、エリザベス一世(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)の側近ウィリアム・セシルとその息子ロバート・セシル(エドワード・ホッグ)は演劇の政治への影響力を懸念し、後に有名になる新進劇作家ベン・ジョンソン(セバスチャン・アルメストロ)を逮捕する。
 他方、スチュワート家擁立を狙うセシル父子の失脚を狙うエドワード(リス・エヴァンズ)は姦計を図ってジョンソンを出獄させ、自分が幾つも書いた戯曲を彼の名で発表するように説得するが、彼が作風と違うと躊躇しているうちに成功した舞台で出演した役者の一人ウィリアム・シェイクスピア(レイフ・スポール)が作者を名乗ってしまう。

というのが基本となるお話で、権謀術数をめぐる歴史劇要素としてこれにヴァージン・クィーン、エリザベス1世には隠し子が何人もいたという説を加えて実に面白い。
 オックスフォード伯が「リチャード三世」の上演を合図にセシルをつぶす為に息子エセックス公とサウスハンプトン公(注:僕と同じ理解をしている人と、エセックスではなくサウスハンプトン公が彼の息子と理解されている人がいて、自信なし)を動かすという展開において、彼自身がエリザベス一世の子供で、彼女との間に生まれたのが息子というギリシャ悲劇「オイディプス王」を思わせる近親相姦の設定になっているのだから、泉下のシェイクスピアもぴっくりという具合。どちらかと言えば面白おかしく見せようという趣向なので、そこから心理的に掘り下げるなんて面倒くさいことをしていないのが嬉しい。

シェイクスピア別人説の一人で昔「フォースタス博士」を読んだことのある劇作家クリストファー・マーロウもちゃんと登場して史実通りに居酒屋で殺される。本作の中においては運命次第でオックスフォード伯が次の王になることもあったわけで、そうするとスチュワート家がチューダー家の後に据えられることもなかったなどと想像することもできて(歴史のダイナミズムの中では大勢に影響ないとは言え)面白い。

僕は先日の「シャーロック・ホームズの素敵な挑戦」(1976年)のように上手く本歌取りをした作品に弱く、☆★が甘くなるのをお許しあれ。

TVで観る限りでは16世紀末~17世紀初頭を再現した美術及びVFXも充実。ローランド・エメリッヒが監督というのは意外と言うか、なるほどと言うか、微妙なところでござる。

西にシェイクスピアの謎あり、東に東洲斎写楽の謎あり。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年02月02日 08:59
これはなかなか面白かったですね。
エリザベス一世とのかかわりも・・・・・
日本でもそうですが、貴族や武士などは物書きという下層な仕事をしてはならない事になってましたからね~
写楽が武士であったのではないかという説はこの辺りから出てますね。
誰の作品だったか忘れましたが、歌麿や北斎などが手分けして描いたのが写楽として売り出されたという説の小説もありました。
北斎が映画になったんだから、写楽も本格的な映画にしてほしいですね。
オカピー
2014年02月02日 21:09
ねこのひげさん、こんにちは。

文学博士(笑)としては大いに興味深く作られていました。
下手に神妙になりすぎずに上質な娯楽映画に仕上げられていましたね。

>写楽
篠田正浩が1995年にその名も「写楽」を作っていて、ちょっとした群像劇にもなっていてなかなか面白かったですよ。
あの作品では役者上がりという説だったと思います。
ねこのひげ
2014年02月03日 18:21
失礼しました。すっかり失念していました<(_ _)>
ボケてきたかな(^^ゞ
写楽の正体が役者というのはいささか面白くないですね。
もっと、ギョッとするような正体であって欲しかったです。
オカピー
2014年02月03日 21:31
ねこのひげさん、こんにちは。

いやいや、僕も始終やっていますよ。
役者の転身は面白くないのですが、実在が確認されている有名人が絡んできて大いに楽しみました。

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