映画評「レ・ミゼラブル」(2012年版)

☆☆☆(6点/10点満点中)
2012年イギリス映画 監督トム・フーパー
ネタバレあり

小学生の時に児童用の「ああ無情」を読み、高校生の時に完全版「レ・ミゼラブル」を読んだ。映画化では、1957年のフランス版と1998年のビレ・アウグスト版を見ている。日本でも三回映画化されているヴィクトル・ユゴーの同名小説は、言わずと知れた、古典中の古典。最近は舞台ミュージカルの方が有名だそうで、その映画化である。

妹の子供の為にパンを盗んで捕えられたジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)が19年後の仮釈放中に銀食器を掠めた時に司教の慈愛に触れたことで、逃亡して別名で市長にまで上りつめ、自分のせいで落ちぶれて死んでしまった女工ファンティーヌ(アン・ハサウェイ)の娘コゼット(成長後アマンダ・セイフライド)を悪党夫婦から引き取って懸命に育てる一方、その後も執念を燃やす官憲ジャベール(ラッセル・クロウ)から追いかけ回されて苦労する。

という、敢えて述べるにも及ばないであろう背骨たるお話に加え、本作では王政復古して再び苦境に陥った市民たちの暴動(1832年)がかなり大きく取り上げられている。今までも本格映画版では大きく取り上げられていたのかもしれないが、少なくともここまで印象に残る描写にはなっていない。結果として、従来の作品と比べるとジャン・バルジャンの悲劇性と慈愛の描写が不足気味で、彼に拘ると少し感銘が薄くなる。

ミュージカルとしてはどうか。僕は数年間のミュージカル嫌いの後15歳の時に「サウンド・オブ・ミュージック」でミュージカルの楽しさに目覚めて以来どんなミュージカルも好みとして来たから好悪のレベルに問題はない。
 しかし、台詞の大半を歌で処理する本作のような作りについてミュージカル嫌いの多いわが日本の一般ファンがどう思うか少々心配にはなる。ひどく否定的に捉えられるだろうという懸念もあるし、異常であっても異常が常態化すればそれが普通になることを考えると突然歌い出すことに対する違和感を消す効果も期待できる。ご贔屓映画ブログやサイトを覗くと、僕の考えた効果は限定的ながらあるにはあった。統計的にまとめれば、人それぞれという当り前の結果に落ち着く(笑)。

再び個人的印象に戻れば、今世紀に入って観た大作ミュージカルの中では物足りない部類。レシタティヴ(叙唱)調の部分が割合多いせいかもしれない。

他人の不幸を見てわが不幸を慰めるしかない僕であります。

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この記事へのコメント

vivajiji
2013年12月29日 12:30
突然歌いだすのも、全部歌うのも
別にかまわないのですが
全部歌う「シェルブールの雨傘」という名品を
知る身からすると、本作は“おこちゃま”。^^

デンマーク版も悪くはなかったのですが
BSで観た仏TVM(2000年360分)は
配役もよく大変観ごたえがありました。

ところで話ちがいますが
その後kindleはいかがですか?
紙の本の良さを改めて噛み締めて
おります私のきょうこの頃~(笑)
2013年12月29日 15:01
この映画は未見ですが、台詞のほとんどが歌というと近年では、ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演の「スウィーニー・トッド」がそうでした。ミュージカルというより、カジュアルなオペレッタみたいなかんじでしたね。
vivajijiさんが挙げた「シェルブールの雨傘」は、音楽、映像とくに色彩が美しい名作だったのを思い出します。ただ、全編歌ってるのにこの結末、という、おはなし自体はすごくリアリスティックで、あのあたりがフランス映画なのかなあ、と。
十瑠
2013年12月29日 15:04
時間が無くて1回しか観てないので、ざっとした感想だけ述べた記事、TBしました。
所々思い出すシーンもありますが、ミュージック・ビデオ集を見せられた印象が強いですネ。
オカピー
2013年12月29日 17:12
vivajijiさん、こんにちは。

>「シェルブールの雨傘」
仰る通り。
Allcinemaで比較されている方もいましたし、全編歌という意味では比べる意味もあろうかと思いましたが、こちらは多少とは言えセリフはありましたし、何より比べるのが双方に対して失礼かと思い、敢えて記述しませんでした^^

>仏TVM(2000年360分)
ジャン・バルジャンだけに集中せずに全編洩れなく映像化するには、それくらいの時間が必要で、本作の長さではバルジャンにもっと集中して他の要素と緩急を付ける必要があったのでしょうね。それをしないから肝心のバルジャン悲劇は淡泊になるし、全体が単調になってしまい、眠けを催すようなことになる。
そんなところではないでしょうか?

>kindle
そちらでお話ししましょう^^
オカピー
2013年12月29日 17:26
nesskoさん、こんにちは。

>オペレッタ
昨今の舞台ミュージカルの映画化は、多かれ少なかれ、そんな雰囲気が濃厚ですね。
僕が一番楽しめるMGMミュージカルみたいな、映画的なミュージカルは全くありません。
「ジーザス・クライスト・スーパー・スター」や「オペラ座の怪人」などは文字通りロック・オペラと言われていますしね。

>「シェルブールの雨傘」
あれは逸品ですよ。
「シェルブールの雨傘」に似て台詞が殆ど歌になっているのが苦手、といった意見を目にしましたが、台詞を廃したかの名作と僅かとは言え台詞もある本作とを比べること自体が失礼という話(笑)
そこを一歩譲ったとしても、あの色彩感覚と流れるようなショットと場面のつなぎ、カトリーヌ・ドヌーヴの初々しい美しさ、とても比較できるものではないと思います。
やはりあの映画もヌーヴェル・ヴァーグの一つでありますから、そういう現実的な視点、まして戦前の昔からハリウッド映画に比べると辛辣に人生を眺めてきた伝統のあるフランス映画ですから、まさに仰る通りフランス映画なのでした。
オカピー
2013年12月29日 17:35
十瑠さん、こんにちは。

160分にするには原作の要素をできるだけ詰めようとして却って単調になってしまった、というのが僕の印象。
少なくともバルジャンにもっと集中した方がお話に緩急が出て良かったと思いますが、スペクタクル性をもたらしたかったのでしょうねえ。
尤も、お話の構成に関しては舞台版に原因があるのでしょうから、映画ばかりは責められません(推測)。

>ミュージック・ビデオ集
バストショットやアップがやたらに多く、環境描写も大げさではったりをかませたような映像が多かったですからねえ。
町の描写も取り込んでいる割に、バストショットやアップが多いせいで、世界の中に主要登場人物以外の人はいないと思わせるような印象を抱かせるのは、昔から映画を見てきた純フィルム世代には今一つでしょうね。
ねこのひげ
2014年01月01日 08:50
映画館で観たときは迫力ありましたがね。
テレビで見ると・・・・・長いというか・・・・構成し直した方がいいのかも・・・
バストショット・・・それぞれの俳優に考慮したんですかね。
オカピー
2014年01月01日 10:57
ねこのひげさん、こちらにもようこそ。

映画館のでかいスクリーンで見ると、実力以上によく見えることもままあり、TVで見ると冷静に判断できるという面はあると思います(最近映画館に通わない僕の言い訳ですけどね・・・笑)

>バストショット
心理を表現し、個人を強調するにはバストショットやアップは必然なのですが、予想外に単調でした。この監督では「英国王のスピーチ」のほうが良かったと思います。

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