映画評「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2012年アメリカ映画 監督アン・リー
重要なネタバレあり。未鑑賞の方、ご注意を。

アン・リーの語りは確かに一流だが、本作でアカデミー監督賞を獲ったでありますか。

インド人の壮年男性パイ・パテル(イルファン・カーン)が知り合いに紹介されてネタを貰いに来た作家(レイフ・スポール)に経験談を語る、という回想形式で進行する。
 名前にまつわるミドルエイジの珍談の後16歳の時にカナダへ移住になるところからいよいよ本番で、両親が経営していた動物園の一部の動物たちと乗っていた船が沈没し、辛うじて救命ボートに逃げた少年パイ(スラージ・シャルマ)が起きてみると、シマウマとハイエナとオランウータンとトラがいるので吃驚。ハイエナがシマウマとオランウータンを殺し、勿論トラが最後に残る。

少年は救命ボートに繋いである浮き板(?)に逃れたり、魚を捕えて餌を与えるなどしてトラからの危害を避ける努力をするうち、ミーアキャットの群棲する浮島に到着する。ヒンズー教、イスラム教、キリスト教を同時に信ずる少年に関連して言えば文字通り楽園のイメージである。
 が、この楽園、夜になると動物を溶かす水に早変わりする。それを承知しているミーアキャットは木に登り、動物的本能を働かせてトラも危難を避ける。少年も木で休んでいたから無事で、翌日早速島を後にし、今度は本当の陸地に到着して遂に救われる。

実は哲学映画であり、信仰をテーマにした映画である。少年の語ったファンタスティックなお話は作り事であると断言しても良いくらい。少年が最後に語った夢も希望もない人殺しのお話が恐らく真実である。
 どちらでも良いとすることもできるが、前半で三つの宗教を信じていることを語ったことや、野卑な料理人(ジェラール・ドパルデュー)や仏教徒を出して来た意味を考えると、動物との経験を寓話と考えたほうが平仄が合う。母を料理人に殺された孤独と恐らくは相手を殺した罪の意識を三つの宗教への信仰によってその後の人生を生き、幸福を得たのである。大きな魚を得た時に「ヴィシュヌ神、感謝します、魚に変身して私たちを救ってくれて」と涙ながらに放つ言葉が印象深い。緑色に輝いていた魚が色褪せていく描写が彼の気持ちの背景を裏打ちし、感銘をもたらす。

勿論、一般観客はそんな抹香臭いことは無視して、断然美しく完成度の高い映像を楽しめば良いと思う。そう、本作の命は画面なのである。だから、監督賞は腑に落ちないところがあるのだ。撮影賞にしても、コンピューターが絡んでいるところが多いから、なかなか判断が難しい。

従来CGで動物は無理と言っていたが、この映画ではほぼ完璧である。不思議なことに、割合描きやすいのではないかと思われるトビウオなどは嘘っぽく、ぐっと難しいはずのトラやハイエナに物凄い迫真性がある。今でもよく調教されたトラを大半に使い、ごく一部だけコンピューターでいじった程度ではないかと疑っているほど。CGは映画をダメにしたと思うが、しかるべき時は素直に感心したい。

とは言え、CGは創意工夫を排除してしまうから、やはり、嫌い。ジョン・ヒューストンの撮影秘話を聞いてつくづく思う。彼らには妥協もあった。一方、ロケ中に彼を含めたスタッフや俳優が何度も死にそうな目に遭っている。緊張感のレベルが違う。だから、新作鑑賞はあと数年で終りにするつもり。その為に現在古い映画を中心にハイビジョンでライブラリーを作っているところ。新作を見ずに古い映画で過すのだ。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2013年12月23日 08:24
最初は気が付かなかったですが・・・・ブッタの話に似たようなのがありますから、寓話でしょうね。
CGで制作するのも大変ですけどね~(~_~;)
何十人ものプロが1年がかりで・・・・ということも・・・
オカピー
2013年12月23日 20:42
ねこのひげさん、こんにちは。

僕のブログ友達に「アニメ映画は映画ではない」と仰る人がいるのです。
この表現が妥当か否かはともかく、その意味は何となく解ります。
アニメは実写に比べて表現が自由であるので、僕も毎年やっているベスト10では自由度の高いアニメは同じ完成度・感動度であれば実写映画より下位に置くことにしているのです。

つまり、本作に代表されるSF/ファンタジーは半ばアニメということですね。
実写映画として評価するに躊躇するところがあるわけです。余分に入り込んでしまった電線を後で消すとかそういった処理は問題ないわけですが。
或いは、コンピューターによる映像(画像ですね)を挿入することでもの凄い映像効果もありますが、ヒッチコックはこれを本当の実写でやろうとしたところにもの凄い創意工夫があり、それが映画として良い表現になっているから素直に感心し、映画自体の感動もいや増すのですね。

CGアニメーターの方々の苦労は解りますが、完全なる実写映画として評価しろと言われると少し抵抗があります^^
十瑠
2015年07月28日 23:19
ファンタジーで紹介記事を書こうとしましたが、それでも宗教が絡んでよく分からないので、どう扱おうかと思案の果てにカンニング。
博士の<少年が最後に語った夢も希望もない人殺しのお話が恐らく真実である>に一票です。
終盤のこのお話の時に、パイは母親を思い出して涙を流すんですよね。
すっごい映像に感動しますが、作り話を寓話として受け入れるのに、も少し時間が必要のようです。
オカピー
2015年07月29日 20:33
十瑠さん、こんにちは。

真相は解りません(一応そう言っておきます)が、僕の半世紀近い映画鑑賞歴が「そう理解しろ」と言っておりますですね。そうでないと出してきた要素が無駄になりますから。

>映像
それもTVでは自ずと限界がありますが、
持説では、だからお話に集中できる・・・(強がり)^^;

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