映画評「東京家族」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2013年日本映画 監督・山田洋次
ネタバレあり

実は、今日母の二番目の弟である叔父さんの葬式であった。

山田洋次監督が挑戦した「東京物語」平成版。Allcinema等の紹介記事には“モチーフに”と書かれているが、登場人物の名は殆ど同じであるし、アウトラインも同じだから、事実上のリメイクである。同じ原作の映画化でももっと違うケースがあるのだから遠慮せずにリメイクと言えば良い。

瀬戸内海の島から橋爪功と吉行和子の老夫婦が子供たちに会う為に東京にやって来る。
 医師をして細君・夏川結衣や二人の息子と暮らしている長男・西村雅彦の家を訪れ、長女の中島朋子や独身でフリーターもどきの次男・妻夫木聡を交えて、団欒のひと時を過ごす。数日後今度は美容院を営む長女の家で過ごすが、うまいことを言われてホテルに追いやられる。ホテルではどうも落ち着かない老夫婦が翌日美容院に戻って来ると、娘は寄り合いがあるとして迷惑なそぶりを見せる。
 老父は仕方なく旧友・小林稔侍と時間を過ごすが、当てにした彼の家は結局泊まれず早朝戻って来る。老母は次男の家を訪れ、そこでその恋人・蒼井優と出会い、互いに好感を覚える。
 機嫌良く長男の家に戻って来た老母は、しかし、突然倒れて死んでしまう。遺骨を抱いて島に戻った一家が無事葬儀を済ました後、父親は最後まで残ってくれた息子の恋人にお礼を言う。彼女も恋人の父親に感謝して帰京する。

ほら、大体同じでしょう? 

AllcinemaのA氏は僕のドッペルゲンガーかと思えてくるくらい感想が似ていて、それを読んで貰えば事足りるが、そういうわけには参りますまいね。

まず僕が感じたのは、序盤の子供の扱いが小津を思い出させ、彼らの台詞も相当意識して書かれている、ということ。勿論、例の小津&野田高梧独特の台詞回しは大人からも放たれる。
 人のいない“廊下”の描写は一回あるが、人の影が廊下に映っている。この差は映画的に実は大きく、小津のそれがカットの繋ぎの為に使われているのに対し、こちらは影によって人の存在を強く意識させ場面を構成する一ショットとしてきちんと機能している。オリジナルを知らなくても楽しめるように作られているが、知っていた方が楽しめる所以である。

60年の月日が変えたものは、特に連絡手段なり。「東京物語」では電話より電報が速い時代だった。その時代に迎えに行く駅を間違えたら容易に笑える話には落ち着かないだろう。

子供の人数も違う。僕の母は男4人、女5人の9人兄弟の4番目で、母まで生まれた順にきちんと亡くなっていたのだが、5番目に亡くなり今日葬式があったのは下から二番目の叔父さんである。
 そこまで行かないまでも「東京物語」の一家は五人兄弟で、こちらでは三人兄弟になっている。次女と三男はいない。次男の未亡人の代わりは次男の恋人で、名前は勿論紀子である。家に残っていた次女の代わりを務めるのが隣りに住む中学生の娘という具合に上手く変換されている。

その紀子の扱いが面白い。「東京物語」では原節子の紀子はずっと良い未亡人と見せていて、最後に突然本人に「本当はずるいんです」と言わせて観客を驚かす。こちらでは紀子が最初父親を冷たい人間と感じていることが観客に示された上で、父親の礼の後に自分の気持ちを正直に告白させる形を取っている。
 この差が二つの作品の主題の差となって現れる。つまり、「東京物語」が家族若しくは「家」制度の崩壊を暗示し来るべき日本を示していたのに対し、本作はネガティヴからポジティヴへ、即ち既に崩れてしまっている(日本の)家族の絆に対する希望を描いていると感じられるのである。

A氏の「おねえさん」発言に対する疑問は僕も感じていて、長男の妻が年上であるその妹を「おねえさん」と言うことは余りなく、そういう場合は大体名前で呼ぶのではないかと思う。おかげで兄妹の関係が当初解りにくかったので、映画の価値を下げるとは思わないまでも一般常識に照らして看過してはいけない問題だろう。

また失敗をして非常に自分を情ない、この二年相次いで亡くなった両親に顔向けできないと思っている時にこの映画を見たので、母親が倒れてからの場面は涙が止まらなかった(母も脳梗塞による急死だったし)。勿論これはこちらの特殊事情であるし、涙の量に比例して良い映画と言えるわけではないが、現在の世相に照らして相当上手く変換した映画オリジナルのリメイクである(原作があるものよりぐっと難しい筈である)と思う次第。

ありふれた家族の話がこれほど面白いなんて。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2013年12月16日 02:22
監督とか俳優・・・小説家になる人は、自分ならこうやるとかこう作るという思いを持った人がなることが多いと聞きました。
山田さんも、自分ならこう描くと思ったんでしょうね。
その意味ではリメイクというよりオリジナルなのかな?
楽曲でいえば忌野清志郎さんのディ・ドリーム・ビリーバーの詩は見事ですね。
オリジナルにしてしまっていますね。
オカピー
2013年12月16日 18:03
ねこのひげさん、こんにちは。

小津安二郎は相当冷笑的な監督ですし、山田洋次はデビュー当時から人間と家族を信じている人ですから、アウトラインはほぼ同じでも後味が全然違いますよね。
それがよく現れたのが二男の未亡人・紀子と二男の恋人・紀子の扱いの差だと思います。不平不満を何も持っていない紀子であったら、逆に希望ということを表現できなかったでしょう。「ネガティヴからポジティブへ」・・・これが大事だと思います。
だから紀子の扱いの差は、非常に重要なことであり、「東京物語」を見ていればこそこの点が余計に際立つと僕は理解しました^^
だから、若い方には是非「東京物語」をご覧になって欲しいですね。相乗効果でどちらの映画もより素晴らしい映画に思えてくるはずですから。

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