映画評「天地明察」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2012年日本映画 監督・滝田洋二郎
ネタバレあり

NHKで放映中「八重の桜」のヒロインのご主人・新島襄(にいじま・じょう)と、本作に登場する和算家・関孝和(せき・たかかず、若しくはせき・こうわ)は共にわが群馬県の英雄である。“上毛かるた”に歌われているので、群馬生まれで知らぬ者は殆どいないと言って良い。残念ながら主人公ではないが、関は、本作主人公の安井算哲、後の渋川春梅にヒントを与える重要な人物として登場する。

徳川家綱の時に碁方に取り立てられた算哲(岡田准一)は、星を見ることと算術が大好きで、算術の問題を記した絵馬を通して関(市川猿之助)、後に細君となるえん(宮崎あおい)と知り合う。間もなく将軍を後見する会津藩主・保科正之(松本幸四郎)より日本各地を廻って北極星の高さから緯度を割り出す仕事に就くことを命じられ、この旅程で上役たちから日本の暦が唐時代に輸入されたままでズレが生じていることを知らされ、やがて保科により現在にふさわしい暦の制定を命じられる。
 一方で、暦の扱いは朝廷側に絶大なる権利がある為、彼のグループの提示するより正確な暦が容易に採用されない。最初の失敗は関が研究していた元朝の授時暦を信用し過ぎていた為に起き、関はこれを大いに責める。授時暦の誤差が経度差によるものとつきとめた関はこれを改定して日本独自のものとし、朝廷のお歴々が集まる前で切腹を賭けた最終決戦の実証観測に挑む。

冲方丁(うぶかたとう・・・読めません)の原作を、「陰陽師」といったエンタテインメント時代劇に実績のある滝田洋二郎らしく素人に解りやすく平明に映像化しているのがヨロシイ。年を取ってくると映画くらいすんなり理解できるものを望みたくなるのだ。
 サービス精神満点の「陰陽師」は、世間での評価はさほど高くなかったと記憶するが結構気に入っている。しかし、そうした作風が本作では悪い方に出た部分もあり、保守側から攻撃を受けて算哲の師匠(の一人)である神道家・山崎闇斎が殺されてしまう戦闘アクション(当然史実改変)がトーンを崩してしまい、それまで維持してきた文化時代劇(?)らしい品位を最後まで保てず、後半は失速気味であることが否めない。残念でした。

しかし、全体としては、駆け足気味とは言え、文化史のお勉強にはなるし、退屈させられる部分も殆どなく、気軽に楽しめる娯楽作として一定の評価をしたい出来映え。同じ系列の作品として、話題にならず終ってしまった2001年製作「伊能忠敬 子午線の夢」が観たくなった。

【和算の大家 関孝和】【平和の使い 新島襄】

この記事へのコメント

浅野佑都
2013年10月01日 12:13
こんにちは!
プロフェッサーのお好きなかるたは何でしたか?
ぼくは、老農 船津伝次兵衛かな・・ブログを読んでいる他の方には何のことやら(笑)

NHK大河の篤姫を見てるときに、宮崎あおいが「薩摩おごじょ」という台詞で、鼻濁音が言えなかったんですが、気づいた人は少なかったようです。
徳川家に嫁いだ女性が鼻濁音を発音できないとはちょっと・・。

これはささいな例ですが、今の若い俳優さんで時代劇を撮るのはかなり苦労を要するでしょうね。

プロフェッサーや僕の世代は、ギリギリ、テレビの邦画劇場で黄金期の時代劇を子供の頃に見ていますが、そのときの貯金で、時代劇の所作がなんとなくわかります。
「十三人の刺客」の松方弘樹などは美しい佇まいでしたね。
そこまでは無理でも、伝承によって、若手俳優たちにも時代劇の美しい所作を再現することも可能では?と考えます。

まあ、それ以前の、平成言葉のアイドル時代劇もありますが(もちろん、昔からある諧謔の意味で使うのならいいのですが・・・。)
ねこのひげ
2013年10月01日 18:26
『天地明察』は小説も読みまして、よい作品でありました。
暦をどう小説にしたのかと興味があって読みましたが、感情的な部分をあまり描かずうまいものです。
先日、テレビ東京で『トム・ホーン』をやっておりましたが、実にすっきりとまとまっていてよかったですね。
最近の映画は妙な理屈がはいて困りますね。
すっきり作れないものかと思います。
オカピー
2013年10月01日 20:27
浅野佑都さん、こんにちは。

今は亡き伯母が娘時代に働いていた、【日本で最初の 富岡製糸】かな?
文学少年だったので【誇る文豪 田山花袋】も惹かれます。

>鼻濁音
僕の姉などは、人と話す時は気取って鼻濁音を使います^^;

>今の若い俳優さん
実際厳しいですね。
「椿三十郎」のリメイクも、俳優がきちんとしていたら、あれだけの脚本をほぼそのまま使っているのだから、もっと評価が上がっていたと思います。

>「十三人の刺客」
どうやらオリジナルをまたやるようなので、観ようかなと思っていたところ。
「十三人」のリメイクにおける松方弘樹は良かったですね。
オカピー
2013年10月01日 20:59
ねこのひげさん、こんにちは。

最近読書への比重を少し増やしていますが、古典からつぶしていこうと思ってから40年強、まだ全然つぶしきっていず、新しい小説がほぼ手つかず状態^^;
映画になりそうなのは読まないというのも本音ですが、実はそういう背景があったのであります^^

>『トム・ホーン』
マックィーンの作品はかなりハイビジョン映像で持っておりますが、最晩年のこれは持っていないですねえ。

>理屈
程度の低い評論家の悪影響で、鑑賞者が勘違いしているんですよ。
メッセージ性、性格描写、リアリティーが良い映画の条件と思っているんです。
観客の想像力欠如もこれに寄与していると思います。
良い映画にも色々あるんですけどね。

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