映画評「アーティスト」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2011年フランス映画 監督ミシェル・アザナヴィシウス
ネタバレあり

アカデミー賞(長編)作品賞は英語で会話される作品、若しくは英米映画ということになっていた筈で、合作でない純然たる外国映画が作品賞を受賞したのは初めてと思う。本作にそのメリットをもたらしたのは主演男女優がフランス人、アルゼンチン人であるにも拘らず、準サイレント映画の形で作られたことである。声による英語台詞がない為に英米映画と対等に勝負できたのである。アカデミー賞自体が大リーグ同様外国に対し広く門戸を開くようになっているのは数年前から認められる現象であるのも確かである。そして、昨日の「ヒューゴの不思議な発明」に続いて、本作もまた、映画の為の映画と言って良い。

恋愛映画として見る向きもあるだろうが、お話の骨子は1937年、1954年、1976年と三度映画化された「スタア誕生」とほぼ同じで、それに「雨に唄えば」(1952年)を加えて二で割ったと思えば当らずとも遠からず。
 「スタア誕生」の零落する人気俳優に相当するのが、ダグラス・フェアバンクスかフレッド・ニブロもどきのジョン・デュシャルダン(役名はルドルフ・ヴァレンティノをもじっている)で、その妻(恋人)に相当するのがベレニス・ベジョである。売れっ子になった彼女が彼との共演を熱烈に希望したり、こっそり彼の競売の品を買い占めた挙句、競売の真実を知った主人公がサイレント映画の大スターとしてのプライドをズタズタにされ自殺未遂をする。幕切れこそ悲劇的な「スタア誕生」とは対照的であるが、同工異曲である。

主人公はタップも得意でフレッド・アステアの要素も多いにあり、傑作「バンド・ワゴン」(1953年)の序盤と共通するアイデアも少なくない。が、何と言っても本作の大ホームランは、主人公が拳銃を口に入れた瞬間に"Bang"という字幕が挿入され、次に碌に運転もできないベレニスが車を木にぶつけた音と判り、その音で彼は自殺を止める、という一連の描写である。サイレントならではの面白さで、ここには思わず膝を打った。トーキー化による主人公の人気凋落の悪夢を自分だけ声が出せないというアイデアで表現したのも秀逸なれどこれに及ばず。

悩める主人公が助かる幕切れが安易であっても大いに結構。何と言っても本作は実質的に極めて楽観的な作品が多かった1920~30年代ハリウッド映画へのオマージュに満ちた作品なのだから。

ハリウッドはリメイクとシリーズと二番煎じばかり。何故にこういうアイデアが出て来ないのだろう?

この記事へのコメント

ねこのひげ
2013年03月05日 03:08
原点に立ち戻るというか、見直そうとした映画で、とてもいい映画でありましたね。
映像表現に、多くの言葉はいらんということを改めて認識させてくれた映画でありました。

ハリウッドは、飽食しすぎて動きが鈍くなったアメリカ人そのものになっているんでしょうな~
オカピー
2013年03月05日 22:36
ねこのひげさん、こんにちは。

何でもかんでも説明してしまうのは、“身も蓋もない”というやつです。

>飽食しすぎて動きが鈍くなったアメリカ人
正に!
その通りとしか言いようがありません^^;

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