映画評「ヒューゴの不思議な発明」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年アメリカ映画 監督マーティン・スコセッシ
ネタバレあり

スティーヴン・スピルバーグが「タンタンの冒険」を作ったことに対抗したわけではないだろうが、フランス(パリ)を舞台にした一種のファンタジーをマーティン・スコセッシが作るとは意外中の意外である。聞くところによれば、彼はルイス・キャロルを気取って本作を作ったようで、我々が勝手に想像するのとは違うところにモチーフがあるらしい。とは言え結果的に映画ファン、というより映画マニアを喜ばせる要素の多い作品になっている。

駅時計台の屋根裏に暮している少年エイサ・バターフィールドが、駅構内の玩具店主ベン・キングズリーに、盗みを見咎められて機械仕掛けの人形に関する部品と共に大事な設計書を奪われてしまう。亡き父親の形見である。何とか奪い返したいと彼の家に接近したのがきっかけで、両親のいない孫娘クロエ・グレース・モレッツと親しくなる。

というのが序盤のお話で、ディケンズの「オリヴァー・トウィスト」のヴァリエーション的展開なので最初は19世紀末のロンドンのお話かと思っていたら、1930年代のフランスが舞台になっていることはもう少し後になって判明。尤も公安官の帽子を見ればすぐに解るのだが、思い込みが激しいとこういう羽目に陥る(笑)。

お話は、読みたい本はほぼ自由に読めるのに祖父の禁止令により映画を観たことがないというクロエを少年がこっそり映画館に連れて行く辺りから作品のテーマは映画へと傾いて行く。即ち図書館で知り合った映画研究家と話し合ううちに少女がパパ・ジョルジュと呼んでいる老人が、世界最初の宇宙SF映画とも言われる「月世界旅行」(1902年)を作ったかのジョルジュ・メリエスということが判明、第一次大戦後の映画環境の変化に希望を失ってすっかり映画を嫌うようになってしまった老人を何とか元気づけて昔の彼に戻そうと二人は一致協力して動き出す。

邦題から少年が何かを作るお話になっていくかと思いきや、実質的にメリエスの伝記映画であったとは、驚いた。邦題の意図するところを考えれば、少年が発明したのは彼を再生させる手段だったということになる。

勿論全くの実話というわけではないものの、メリエスがマジシャンである前歴、孫娘との関係などほぼ事実に則っている。フィルムが靴になったのも事実だが、靴になったのは軍により徴用されたもので、後は自ら焼いてしまったようである。それでも、サイレント時代の日本映画の大半が殆ど焼失したのに比べると、かなりの作品(約500本のうち約200本)が個人収集家やアーカイブの手に残っていたのは幸いなるかな。

メリエスの作品は一番有名な「月世界旅行」を観ただけ。二三日のうちに再鑑賞する予定であるが、その一部が観られるのとは別に本作には色々嬉しいサーヴィスがある。
 例えば、二人が盗み見るハロルド・ロイドの「要心無用」(1923年)を踏まえて少年が時計の針にぶらさがる場面があること。少年が列車に轢かれそうになるのはリュミエール兄弟の「ラ・シオタ駅の列車の到着」(1895年)で観客が列車を避けようとしたという伝説的エピソードをもじったものだろう。或いは、倒れた少女が通行人を見上げる際に使われるアングルはヒッチコックの「下宿人」(1926年)におけるガラス張り撮影へのオマージュと観ている人もいらっしゃる。あるいはそうかもしれない。

さて、本作は3Dでの上映を強く意図して作られた作品とのことである。特に、118年前の人の気分を再現すべく、スコセッシは少年に列車が迫って来るショットを用意したと言っても過言ではないと思うが、118年前の人は普通の二次元映像で列車を避けようとしたことを考えると、今の我々は歌を忘れたカナリヤならぬ、想像力を失った観客という思いが強くなる。最近の3Dは素晴らしいらしいが、かと言って、二次元映像のどこに不都合があろうか? 寧ろ、不足を我知らず補うことで感動が増すように人間の脳は本来作られている。モノクロ映像が美しいのも、描写を省略して余韻を醸成するのも、台詞にせずに表情や描写で語らせるのも、全て同じ理由からである。

高校の現代国語で、「形容する文を用いずに感情を表現する作文を書いてきなさい」という宿題を出されたことを思い出す。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2013年03月04日 02:16
これは、原作の絵本も読みましたよ。あまり好みの絵とは言いがったかったですけど、構成は、なかなか凝ったものでした。
3D映画もよくなってきてますが、本当に立体的に見えるところまでいってないのが残念で・・・・・
3Dも、本当に立体的に見えるようになれば、また印象が違うでしょうね。
オカピー
2013年03月05日 22:34
ねこのひげさん、こんにちは。

>原作の絵本
原作があるのは知っていましたが、絵本でしたか。

>3D
難しいところですなあ。
僕は3Dというのを経験したことがないんですよ。TVもブルーレイも3D対応ですし、WOWOWも3Dの放送をしていましたが、まだ3Dを観たことがありません^^;
オーディオ界も当初は本物との差を如何に縮めるかがつい先年までの目標でしたが、最近は耳馴染みが良いかどうかが大事になっているような気がします。少なくとも僕はそうですね。

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