映画評「アジョシ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2010年韓国映画 監督イム・ジョンボム
ネタバレあり

韓国映画は、明らかにアンチ大衆映画を目指しているキム・ギドクなど作家主義の作品を除くと、難病ものは言うまでもなく重厚なフィルム・ノワールでさえもドタバタ・コメディー色を挿入する作劇がトーンを一貫させず大いに気に入らないのだが、本作にドタバタ・コメディー色は一切ない(笑えるところは僅かにある)。本作の一番良い点はそこと言っても良いくらいだ。

古びた建物で質屋を営んでいるウォン・ビンが、ダンサーをしている子持ちの女性キム・ヒョソから預かった荷物が悪質極まりない麻薬売買グループから盗んだものであった為、彼女を殺された上に彼を“おじさん”と慕う少女キム・セロンちゃんを人質に取られて麻薬グループ同士の犯罪に巻き込まれ、殺人犯として警察に追われながら、少女を取り返すべく卑怯極まりない大悪党兄弟(兄キム・ヒウォン、弟キム・ソンオ)を仕留めに向かう。

というお話の構図はかの「レオン」に似ているが、先日再鑑賞したばかりの「リーサン・ウェポン」をより複雑・残虐にしたようなお話で、その両方を合わせて旨い具合に作り直した如し。
 主人公そのものはメル・ギブスンの上を行くリーサル・ウェポン即ち(?)最終兵器或いは人間凶器で、無敵の強さを誇る。勢いなら「燃えよドラゴン」のブルース・リーにも負けない。

彼がかくも強いのは米国とも深い関係のある特殊部隊出身だからなのだが、数年前に彼を狙う犯罪組織に卑怯にも妻とお腹(なか)の中にいる赤ん坊を殺されたことが、母親に愛されず彼を強く慕うセロンちゃんに対するはっきりとは示さない愛情の基になっていることが判って来る。
 この二人の心の交流が「レオン」以上にじーんとさせられ、おじさん即ち僕は涙が出て来て困りましたぜ。子役のセロンちゃんが実にうまいのだ。彼の強い怨讐の念とそこから芽生えた新たな愛情が強さのもう一つの要因であるだろう。

イム・ジョンボムなる監督の韓国ノワールらしい馬力も相当なものだが、ただ、臓器売買は後味が悪い。直接の描写を殆ど避けたのは賢明とは言え、台詞から想像するだに精神衛生上誠に宜しくない。

三種類の髪型で奮闘するウォン・ビンは大いにヨロシイ。

題名は「あ、女子!」ではなく「おじさん」という意味らしい。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2013年02月04日 05:27
韓国歴史ドラマでも、へんなギャグが入るときがありますね。
話の腰を折るみたいであまり良い演出とは思えませんが、なにか理由があるんですかね。

最近、海外の小説でも臓器売買とかを描いたミステリー小説があります。
なんども小説で取り上げられるということは、問題になっているんでしょうね。
子供の誘拐が臓器目的だったみたいなのが、何本かありました。
気色悪い話です。
オカピー
2013年02月04日 21:41
ねこのひげさん、こんにちは。

韓国人は、民族性から普段から感情的な表現をするので、彼らにとって普通でも僕らには大袈裟すぎて笑えてしまうということもあるのでしょうが、難病映画の前半をドタバタにする阿呆臭いというか泥臭い構成だけはやめてくれないと困ります。アリストテレスが2500年も前に評価基準の最も大事な要素としてトーン(或いは作品の性格)の一定を挙げております。
その点で韓国大衆映画は失格で、洗練度から言えば日本の方が50年は進んでいますよ。ずっと前から馬力だけは認めております。

>臓器売買
本作のような残忍な描写とは一切縁のない静かなドラマではありますが、ブラジル映画の「セントラル・ステーション」という秀作にも子供の臓器売買が絡んでいました。

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