映画評「太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年日本映画 監督・平山秀幸
ネタバレあり

ドン・ジョンスンという元兵士が書いたノンフィクションを平山秀幸が監督した戦争映画。

有名なサイパン島での玉砕的戦闘(1944年7月)から辛うじて生き延びた大場栄大尉(竹之内豊)以下47名の兵士が、150名弱の民間人を守りながら、島を支配した米軍の投降の呼びかけに応じず、やがて民間人だけを投降させた後終戦を迎え、その3ヶ月後元上官の軍令により遂に投降する。

本作の特徴を成すのは日本で二年過ごし日本語ができるアメリカ人大尉ハーマン・ルイス(ショーン・マッゴーワン)の活躍を日本側と並行して描く構成で、言わばクリント・イーストウッドが“硫黄島二部作”でやったことを一作でやったような感じ。
 クレジットされている監督は平山一人ながら、実際にはアメリカ側については共同脚本を担当したチェリン・グラックがメガフォンを撮っているらしいが、カメラは柴崎幸三一人なのでシークエンスの繋ぎに違和感は殆どない。

wikipediaによると事情は上述したお話よりもう少し複雑で、憲兵伍長を民間人に装わせて投降させ、収容所の中に十代の少年が抵抗派要員として潜り込ませていたという。収容所内でも終戦に関して対立があったようだが、この辺も省略され、山田孝之の曹長が裏切者と勘違いして民間人の阿部サダヲを射殺する箇所が実際の伍長の民間人殺しに相当するような扱いになっている程度。
 従って、大場大尉は実際より美化されていて、サブタイトルに使われているフォックス(勿論ずる賢いキツネのこと)の部分を多分に犠牲にしている、と理解できる。尤も、本人にしてみれば彼の潜伏抵抗活動が上手く行ったのは殆ど偶然であり、彼の神出鬼没ぶりを米軍が勝手に高く評価しただけなのである。

結果的に映画は彼のフォックスぶりより、最初は日本国の為に軍人らしく行動しようとしたのが民間人が住む場所への爆撃を契機に彼らを守ろうと宗旨を変える部分を重視しているようで、題名の“奇跡”という単語は通常の日本国将校と違って不必要に部下や民間人を死なせなかったことを指しているのであろう。
 或いは、ルイス大尉が将棋の駒で日本兵たちが捕虜になることを嫌う精神的背景を説明するところから考えると、大場大尉が部下たちを死なせずに、かつ、日本軍人としての矜持を保って降伏した(ように見える)ことが“奇跡”なのかもしれない。題名はサブタイトルなしに「太平洋の奇跡」で良かったような気がする。

平山監督の描写は観照に徹し、安定している。物語は駈け足的で些か物足りず、狂言回し的に重用されている赤ん坊が出番ほど効果的に使われているとは思わないが、語り口の確かさはさすがに現在日本が誇る職業監督と言うべきものがある。

三船敏郎とリー・マーヴィンしか出て来ない「太平洋の地獄」とは対照的なお話でした。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2013年02月13日 05:40
原作を以前読んだことがありますが、そちらはまさにキツネのように穴を使ってアメリカ軍を翻弄する内容だったですけど、映画になると、民間人とのかかわりに重きがおかれた感じですね。
実話の映画化といえどフィクションですから、フォックス的な戦いに重視を置いてもよかったような・・・・好戦的になるのを嫌ったかな?
おなじ実話ものでも『最強のふたり』は、障害者と前科者の出会いを、明るくコメディーに仕上げてました。
最近の海外映画にしては、めずらしくヒットしていて、ロングランを続けてます。
オカピー
2013年02月13日 21:31
ねこのひげさん、こんにちは。

この原作まで読まれていますか。幅広いですねえ。
東日本大震災より前に公開されていますので、それとは関係ないようですが、それ以前から社会が沈滞していましたから、こういう人間関係を描こうとしたのでしょうか。

>最近の海外映画にしては
僕らが若い時とは全く逆になりましたね。
1990年代前半くらいまでは、「最近の日本映画にしては」が当たり前でしたが。
ねこのひげ
2013年02月14日 07:38
このまま、日本映画は消えてなくなるのか?と思わせた時期もありましたが、テレビと連動させることで復活して、去年は売上で逆転したようですが、これがはたして映画の復活と言えるのか?ではありますが、観に行っている人には関係ないのでしょうね。
ハリウッド映画は、あちらで大ヒットしていても、あっさり消えてしまいますしね~
外に対する関心が無くなってきているんですかね~
オカピー
2013年02月14日 17:46
ねこのひげさん、こんにちは。

ここ十年間で何度か邦画の配収が上回っていると思います。
基本的にはTVファン層を大量に取り込んでいるだけで、純粋な映画ファン・映画マニアが鑑賞する本数は年々減っていると思います。

洋画はCGを多用した作品とリメイクとシリーズばかりで大人の観客をうんざりさせ、邦画はTV局の強みを発揮して客寄せには成功しているものの、作品レベルは寧ろ下がっている、というのが現状と分析しております。

洋画と邦画のバランスに関して言えば、若い人に外国・外国人への憧れが減ったこと、一種のナショナリズムが映画においても強くなっていることが原因だと思います。

映画館で吹き替えが隆盛している現状ですから。3Dの影響もあるとは言え、アニメを別にすると、洋画ファンとしては看過できませんねえTT

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