映画評「一命」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2011年日本映画 監督・三池崇史
ネタバレあり

滝口康彦の小説「異聞浪人記」を小林正樹が映画化した「切腹」(1962年)は、東宝時代劇の中でも僕が最も気に入っている作品の一つ。本作は三池崇史監督が同一小説を再映画化した時代劇で、製作側の発表とは裏腹に、構成的に橋本忍の脚本を殆どそのまま使った事実上のリメイクである。

関ヶ原の戦いから30年程後の家光時代、幕府の厳しい取り締まり(「武家諸法度」)によるお家取り潰しにより仕える先がなくなり浪人が増える。そこで食い詰め浪人が縁もゆかりもない屋敷で切腹を申し出て迷惑料を得て帰る狂言切腹が流行。若い浪人・千々岩求女=ちぢいわもとめ(瑛太)も井伊家で試みるが、家老・斎藤勘解由=さいとうかげゆ(役所広司)が遠慮なく行なうように述べた為思惑の外れた求女は切れない竹光で切腹して無残な最期を遂げる。

という物語が、勘解由が求女と同じように切腹をしたいと同家を訪れた中年浪人(市川海老蔵)に語る、という形式で前半は展開する。
 この浪人即ち津雲半四郎こそ求女の義父であり、今度は彼の回想により、労咳を病んだ娘(満島ひかり)の婿が重病に陥った息子を診て貰う三両が必要になった顛末が語られる。
 立派な屋敷内で半四郎が観るのは体面を気にするだけの武士道であり、こんなくだらないものの為に婿が犠牲になったことを暗に糾弾して、竹光で可能な限り抵抗した末に壮絶に死んでいく。

三池監督だからもう少し派手になっているかと危惧したが、終盤までトーンを抑えに抑えた上で、漸く最終盤で主人公の怒りと悲しみが混じった感情が爆発する殺陣へと雪崩れ込ませる手法が成功し、見応え十分。
 「切腹」鑑賞時に受けた、名状しがたい感情・感銘に比べるとかなり差があるのは確かながら、時代劇をやらせるには些か荷が重い現在の俳優によるカラー作品ということを考慮すると相当健闘している部類であろうし、オリジナルを観ていない方にはかなり強い印象を与える物語になっていると思う。

豊臣家との確執も終りを告げ、幕府による独裁政治が社会の安定と引き換えに家臣たる武士にもたらす様々な矛盾をえぐり出し、体面と人情とを対立させて徳川幕府を批判する。それは、時代劇に仮託した、権力に対する問題提示と理解して差し支えない。つまり、現代の我々庶民にも通底するお話と思って観れば感動も倍増する筈である。

瑛太、満島ひかりは上出来の部類であるが、やはり不満が残る。プライベートで問題のあった市川海老蔵はさすがに歌舞伎役者、所作・発声に文句なく、実年齢を考えると高く評価できる熱演と言うべし。

“食い詰め浪人”という言葉を憶えたのは「切腹」でありました。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2013年01月11日 06:08
『切腹』は、衝撃的でありました。
竹光で腹を切らされるんですからね。

最後に、庭がきれいに掃き清められて、何事もなかったようにされる・・・現代のイジメを隠ぺいする体質を思わせます。

現実には、大名たちは、切腹の支度金を渡して丁重に扱っていたようで、浪人が、屋敷の庭を借りて切腹した場合、葬式や墓などの費用も持ってやったようですし、そのまま、切腹に来なくても、不問にしていたようで、お家断絶により浪人になった事情に同情していたようです。
明日は我が身ですからね。
オカピー
2013年01月11日 19:31
ねこのひげさん、こんにちは。

現在膨大なビデオテープ群をブルーレイに移動している最中なのですが、或いは「切腹」もあったような気がしますので、あったら是非また観たいですねえ。

>現実には・・・
実際には、徳川VS他の武士という構図だったわけでしょうから、確かにそうであろうと思います。

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