映画評「阪急電車 片道15分の奇跡」

☆☆★(5点/10点満点中)
2011年日本映画 監督・三宅喜重
ネタバレあり

有川浩の連作短編集「阪急電車」を映画初演出のTV演出家三宅喜重が映像化した群像劇。阪急今津線という片道15分の小さな路線で生まれる庶民の交流を描いている。

春、妻となるべき位置を社の後輩に奪われた32歳のOL中谷美紀が結婚式に白いドレスを着て行くという復讐を空しく果たした後、電車で孫娘(芦田愛菜)を連れた老婦人(現在の感覚なら初老でも通ずる)宮本信子に親身に話を聞いて貰える。32歳OLは忠告通りほとぼりが冷めた秋口に転職する。その彼女は仲間外れにされて孤独な小学生少女を今度は優しく慰める。

全体としては宮本老婦人が狂言回しのように様々な場面で活躍するのだが、その中の一人がDVの恋人に振りまわされる大学生・戸田恵梨香で、老婦人は「くだらない男ね」と一言だけ彼女に言う。しかし、孫娘に言う「自分の意志で泣くのを止められる女になれ」という言葉を聞いて彼女は次の行動に移すことができるのである。その彼女は、PTA仲間のオバタリアンたちと嫌々付き合っている南果歩にアドヴァイス。

宮本女史は最後にオバタリアン連中をも一喝する。彼女に拍手を送る大学生カップル(勝地涼、谷村美月)は、田舎から出て来た為入学した都会的な関西学院大学に少々馴染めない孤独な学生たちで、偶然電車の中で知り合う。関西学院大学に憧れる女子高校生・有村架純のエピソードも絡んでくる。彼女の年上の恋人が実は老婦人の恋人(後の夫?)に瓜二つ(二役)といった他愛ない挿話までおまけに付いている。

近年物騒な事件が多く、3・11の後遺症も日本中に蔓延、政治家・役人はご案内のような体たらくでうんざりするような日々を過ごしている庶民が多いのであろう。そういう時代には心温まる小エピソードへの要望が必然的に市井に増加する。僕は観たことがないが、「人生が変わる1分間の深イイ話」というTV番組があるようだし、「バスと赤ちゃん」という30年前の実話が現在人気を集めていると新聞で読んだばかり、本作も正にそうした要望に応える形で作られるべくして作られた印象がある。

初期の群像劇のように無理に人々を関連付けようとしないのは良い感じであるし、個々のエピソードも我々庶民の生活感情に訴えるものが多く、僕などは精神衛生上数日くらい長生きさせて貰えたような気分になった。
 反面、全体としてはごく普通の人々を描く中で、DV男、オバタリアンの描写は他の人物を際立たせる為に些か強調され過ぎた感が無きにしも非ず。しかし、これが実際に近いのか否かはそう安易に言えるものではない。

この手の作品に批判的な人々からは「TVで十分なお話」というコメントが目立つのだが、僕の考えではお話自体にTV向き・映画向きという違いなどありはしない。あるのは出来た映画がTVレベルであるか、映画レベルであるかということだけである。
 本作の演出レベルは半ば良い意味でTVレベル即ち、ストレスを感じさせない穏当な作り方が為されているということである。好感を覚えたのに☆☆★しか進呈しないのは映画ならではの語り口の鮮やかさ、腰の強さが欠けていると感じたからと思って戴いて結構であります。

出来に対する印象は人それぞれとして、大概の人がほのぼのとすると思います。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年12月09日 05:37
これは小説の方を先に読みましたが・・・書いたきっかけは、この阪急電車に乗っていて、ある出来事が起きて、ご主人から「まるで君の小説のようだね」と言われたことだそうです。
有川宏さんは、名前を見ると男のようですが女性作家です。
自衛隊オタクで怪獣オタクで・・・ベタベタの恋愛大好き人間だそうです。
よくまとまった映画でありますが、小説に出てくる重要なエピソードが省略してあるのが残念であります。
予算の都合かな?
オカピー
2012年12月09日 20:33
ねこのひげさん、こんにちは。

古典以外は原作を読んでから映画を見るというのは僕の場合殆どないのですが、原作を先に読んでいると、やはりあれやこれや気になりますよね。

>重要なエピソードが省略
読んでいないので何とも言えませんが、バランスの問題ですかねえ。余り気取らず、良い意味でTV的なタッチで作っているのはこのお話では良いと思いました。

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