映画評「わが恋は燃えぬ」

☆☆★(5点/10点満点中)
1949年日本映画 監督・溝口健二
ネタバレあり

戦後(1940年代後半)の溝口健二は民主主義やら女性解放やらイデオロギー映画流行の機運に乗って映画を作ろうとしていた節が見受けられるが、「夜の女たち」を除いてはそれほど上手く行っていない。その「夜の女たち」にしても先日「女性の勝利」で述べたように看過しがたい欠点あって傑作たるを得なかった(最初観た時は相当なものと思ったが後年再鑑賞したら過大評価と認識)。
 その中でも本作は相当がっかりさせられる一編で、彼の平均点から言えば“駄作”と言わざるを得ない。但し、当時の邦画水準での“駄作”にあらず。

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明治十七年、岡山から自由党支持者として運動をしていた幼馴染の青年・小沢栄太郎を頼って上京し女性の権利獲得の為に働こうとした田中絹代が彼の変節を知って絶望、自由党の重鎮・菅井一郎のもとに身を寄せるが、彼らが女工の権利を訴えていた製糸工場が放火された時彼らも放火犯・水戸光子と共に思想(国事)犯として逮捕され、五年後大日本国帝国憲法の公布に伴う恩赦により彼女のような国事犯が一斉に釈放され、自由党は人気を博す。しかるに、菅井が本音において女性を差別する人物すると知って決別、女性解放運動家として邁進する決意を固める。

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恋愛が大いに重要な要素となる印象を与える題名に反し、彼女に絡む二人の男性は言葉だけのダメ男であったダシみたいな存在で、実際には「女性の勝利」以上に弁論大会の如き映画になっていて全く映画として潤いを欠くつまらない作品に終わっている。
 恋愛を措いておいてもこの映画に出てくる政治家や党員たちのだらしなさは風刺にも何にもなっていない。確かに明治時代の政治家や運動家は案外こんなものだったかもしれないが、それは民主主義到来時代の気分と何の関係もなさそうだし、まして現在に通用する普遍性は一向に感じられない。

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邦画史上最高の脚本家の一人・依田義賢と当時新人だったとは言え才人と見なされる新藤兼人とが二人もかかってこの程度とは全く情けなく、一人溝口健二の責任ではない。

弘法も筆の過ち、とな。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年05月07日 04:47
これは観た覚えがありませんが、戦後すぐなせいか、政治色のある映画が、けっこうあったような記憶があります。
才人といえど、初心者のころは、拙いということでしょうか?
オカピー
2012年05月07日 10:03
ねこのひげさん、こんにちは。

いや、これは観ないで十分です^^
しかし、邦画史に残る傑作「安城家の舞踏会」はこれより古いわけでして、新藤兼人氏の場合は異様なまでの多作と当時数年間“民主主義万歳病”にかかっていたせいで玉石混交だったというのが正解ではないでしょうか(笑)。

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