映画評「雨に唄えば」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1952年アメリカ映画 監督スタンリー・ドーネン、ジーン・ケリー
ネタバレあり

ジーン・ケリー主演(と言わず、全ミュージカルの中)で世界的に一番人気があるのは本作だろう。僕個人はバラエティに富んだナンバーとスピード感に彩られた「踊る大紐育」(1949年)が一番、ハイブロウすぎて一般客にどうかという疑問が湧くものの洗練度では抜群の「巴里のアメリカ人」(1951年)が二番、次いで本作という順番になるが、本作が断然人気がある理由は疑う余地なく、物語が抜群に面白いからである。

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1927年頃、大人気の剣劇俳優ジーン・ケリーとお姫様女優ジーン・ヘイゲンを抱えて笑いが止まらない映画会社社長が初のトーキー映画「ジャズ・シンガー」の大ヒットに大慌て、トーキーの設備を整えるものの、変てこな声と発音の為にとてもトーキーに使えたものではないヘイゲン嬢が契約書をちらつかせて、ケリーとピアノ弾きの相棒ドナルド・オコナーの考え出したデビー・レイノルズによる吹替え作戦をずっと続けろとごり押しする。しかし、プレミアで挨拶をぶったのが失敗のもと吹替えがばれてしまい、代わりにデビーがミュージカルのスターになる。

かのアルフレッド・ヒッチコックも1929年に作った「恐喝」で主演がドイツ人女優だった為に英国女優に吹替えさせた苦労話を語っているし、1930年くらいまでは本作のような騒ぎが結構あったと思われ、本作の面白さの基本は勿論トーキー初期の混乱ぶりがたっぷり観られることに尽きる。

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本作の主題歌となった“雨に唄えば”は実は1929年に作られた「ハリウッド・レヴィユー」の中でクリフ・エドワーズという男優が歌っていたはずだが、「プロードウェイ・メロディ」(1929年)以降アメリカで作られ本邦で公開されたミュージカル/レヴュー映画を殆ど観ている僕も「ハリウッド・レヴィユー」は残念ながら観ていないのでどんなものか見当も付きません。本作の参照元になるような場面でもあったかな。
 本作の中でケリーが発案する「ブロードウェイ・メロディ」は題名は同じでも実際の同名映画とは多少趣向が違うようで、同じMGMミュージカルの記念碑的作品に敬意を表したというところだろうか。

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踊りを含めてナンバーとして最高かつゴキゲンなのは勿論この“雨に唄えば”で、ケリーが雨中に踊り、水たまりで暴れまくる爽快さ。彼の心情を表すのにこれ以上のものはないわけで、こういう場面を見るとミュージカル嫌いの良く言われる“突然歌い出すのが不自然”などといった言葉は一笑に付したくなる。

デビーと三人で歌う“グッド・モーニング”は歌曲は優秀だが、ダンス・ナンバーとしてはややアイデア不足。オコナーが序盤に見せる顔芸とアクションは楽しいものの、若干必要の限度を超えていて、泥臭いレベルになる寸前で終わってくれるのは幸い。

「踊る大紐育」同様ケリーとスタンリー・ドーネンの共同監督。

今話題の「アーティスト」と一緒に見れば良かったかなあ。

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この記事へのコメント

十瑠
2012年05月04日 15:38
もう6年も前に書いたMY記事、TBいたしました。
記事の中にも書いていますが、デビー・レイノルズは僕にとって印象の弱い人で、よって今月の美麗画像も『どこかで見た人だけど・・??』で、スルーしてしまいました。すんまそん。

ジーン・ケリーのミュージカルは事前の期待がいつも大きすぎて、たいていガックリします。
「雨に唄えば」も、ストーリーがこじんまりしていて、予想と違うお話に少し肩透かしを食らった感がありました。
「巴里のアメリカ人」もツイッターにしか書いてないのですが、あまりいい評価はしてないですね。
ジーン・ケリーが画家に見えないとか、貧乏画家の葛藤は描かれていたけれど、レスリー・シャロンの葛藤はいまいち入り込みが足らなくて、まだパトロンの方が良く描かれているとか・・。
いずれにしても、もっとずっと若い頃に大スクリーンで観たかった映画ですね。

そういえば、ドーネンの「掠奪された七人の花嫁」は十代の頃に映画館で観て、楽しかった記憶がありますな。
オカピー
2012年05月04日 17:06
十瑠さん、こんにちは。

>デビー・レイノルズ
僕は割合可愛いと思いますが、好みの差は仕方がないです・・・

>ミュージカル
大体MGMミュージカルはお話が他愛なく、一般のドラマと比べると落ちるのですが、それを補うのが歌曲とダンスですから、余りお話については触れないことにしております^^
お話のバランスなどは重視しますけどね。

そういう傾向を修正したのが70年代以降のリアリズム・ミュージカルなんでしょうが、おかげで今は劇中劇や幻想という手法を使うものが多く、ミュージカルというより歌があるドラマみたいになっているのが、却って僕は不満なんですよ。

IMDbの投票でもミュージカルで8点を超えるのは本作(8.4)くらいしかなく、僕のご贔屓「踊る大紐育」が7.6、「巴里のアメリカ人」が7.2。
お話だけで評価すれば妥当なところでしょうけど、ちょっとねえという印象。
日本で人気がありそうな「サウンド・オブ・ミュージック」「マイ・フェア・レディ」が共に7.9。「ウエストサイド物語」が7.7。
MGMミュージカルよりはお話がしっかりしていると思われるこれらの傑作群でもベスト250圏内には届かず、アメリカ人でさえ(勿論他の国の人の投票も入っていますが)これですから、ミュージカル苦手が多い日本ではねえ。
「雨に唄えば」が圧倒的評価ということになりますが、物語がミュージカルとしてはなかなか面白い部類なのと、あの雨の場面でしょうかね。

そうそう、「オズの魔法使」がアメリカ人は大好き、8.2という高評価でベスト250入り。僕はあくが強い感じがするのでそこまで買っていません(7点)。

>「掠奪された七人の花嫁」
僕も大学時代に映画館で観ましたが、抜群に楽しかったですね。
「雨に唄えば」より好きです。IMDbに最高点の10点を献上していますもの(笑)。
ねこのひげ
2012年05月05日 05:03
ここのところの豪雨にふさわしい・・・・というかゴールデンウィーク向けの映画でしょうか?
理屈をつけず、一緒に鼻歌をしながら楽しく観ればよい映画でしょう。

タモリさんは、ミュージカルが大嫌いと公言してますが、たぶんリアルミュージカルのことのようですね。
オカピー
2012年05月05日 10:37
ねこのひげさん、こんにちは。

>一緒に鼻歌
正に「雨に唄えば」という曲は思わず鼻歌してしまうような稀有な曲ですね。ポピュラー音楽に名曲多しと言えども、そんな感じの曲はそうそうないです。

>タモリさん
何度も聞かされました^^;
それから彼は恋愛映画もダメなようです。
彼は映画評論家でないから何が嫌いでも一向に構いませんが、映画評論家なのにあれが嫌いこれが嫌いという人は嫌だなあ。公言しなくても僕なんか解ってしまう。
映画評論家の集計したベスト10などは後世において影響を与えること多々ありますからね。例えば10位の作品はリストに載っても11位は載らない為に埋もれてしまうことがあり、その差はオリンピックの3位と4位の差のごとし・・・

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  • 雨に唄えば

    Excerpt: (1952/監督:スタンリー・ドーネン&ジーン・ケリー/ジーン・ケリー、デビー・レイノルズ、ドナルド・オコナー、シド・チャリシー、ジーン・ヘイゲン、ミラード・ミッチェル、ダグラス・フォーリー、リタ・モ.. Weblog: テアトル十瑠 racked: 2012-05-04 14:45
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