映画評「BIUTIFUL ビューティフル」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2010年スペイン=メキシコ映画 監督アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ
ネタバレあり

セミフ・カプランオール先生の「ユスフ」シリーズ程ではないが、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ先生の本作にも一人合点のところがあって困った。
 例えば、映画が開始して間もない、主人公ハビエル・バルデムが教会の遺体安置室で少年と相見える一幕などその典型。彼には死後迷える魂と交信する能力があり家族に頼まれた訪れたらしいのだが、この前後だけ見てもこの場面の意味や狙いは一向に解らない。全体を通して見ても薄ぼんやりと解る程度である。
 しかし、カプランオール先生と違ってこちらは何度か観ればかなり解る作りであることは十分伺える。とは言え、2時間半近くある作品を繰り返し観るのは物理的にも精神的にも許さないので、一回観た上での評価・分析であることを御承知されたし。

舞台はバルセロナ。内戦時代にファシストに追われてそのまま逃亡先のメキシコで若くして客死した為父親を知らないバルデムは、麻薬で精神を病んでいる妻マリセル・アルバレスと別居して、娘アナ・ボウチャイブと息子ギエルモ・エストレヤを時々彼女を交えながら懸命に育てている。
 生活費を稼ぐ為に中国移民のまがい物工場主と色々折衝し、不法移民のセネガル青年に販売をさせるなどしているが、その間末期癌で余命二カ月と知った彼は、青年が逮捕され送還された為残された妻チェイク・ンディアエと乳児を面倒を見る義務感にかられ、同時に自分の亡き後のことも考え、子供のベビーシッター代わりに自宅に住まわせることにする。が、経済の行き詰っているスペインに不法移民の彼女の居る場所はなく結局帰国を決意してしまう。

という物語で、終盤主人公が序盤の教会の少年同様自分の魂を見た後、外見的には自分より若い父親との会話を経てあの世へ旅立って行く。
 この幕切れは最初の場面と全く同じだが、末期で娘の呼びかける声も聞こえる中過去の子供たちとの場面をフラッシュバックした後だけに死を受け入れる場面として理解することが出来る仕組み。
 尤もこれは僕の勝手な解釈であって、誰しも確実にそう理解できるかどうか断定しかねる難渋さは禁じえない。

いずれにしても、本作は親子の絆を描き出す為に、スペインの過去と現在の社会情勢を重要な背景として扱っていて、特に現在については、欧州危機の一要因となっているようにスペイン経済の相当ひどいらしいことが本作からも十分以上に伺える。昔からそこに住む住民が合法・違法を問わず移民を排斥するのは人間の弱さの顕れであるが、ここ十年程どの国でも右派政党が強くなっているのは各国経済の脆弱化が背景にあり、経済のグローバル化がナショナリズムを生むという皮肉な現象を見い出せる。それが極端になるとファシズムに回帰しかねない。

閑話休題。
 主人公は両親のいない家庭で育って教養もなく、結果的にまともな仕事にも付けない生活を余議なくされたのであろうし、同じ轍は踏ませまいと子供たちへの愛情が非常に強く、時に厳しい躾もするが、暴力的なものではない。本作のモチーフになったのはクレジットに"Ikiru"と表記されるように黒澤明の「生きる」(1952年)で、死を前にして市民の為に働き始める同作の市民課長に対して、こちらの主人公は子供たちの為により積極的に動き出す。
 “子供たち”の中には移民も入れて良いのかもしれない。というのは、彼自身の子供たちを食わせる為だけに移民のブローカーをしているにしては彼の彼らへの思い入れは尋常ではなく、物語の背景として描いているにしては移民を描き込み過ぎているのである。僕の理解通りであればバランスの問題は浮かび上がって来ない。魂と交信する能力がある彼には生きている人間の魂も感じられるのかもしれない。

全体的にはもう少し解り易く作った方が好感が持てるが、懸命に生きる人間を見るのは悪い気持はしない。

投資家的にはEUは失敗だったねえ。早くユーロが持ち直してくれないととこちらが飢えてしまいまする。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年05月17日 04:46
ギリシャでは、早くも取り付け騒ぎが起きてますね。
フランスがダメになったから、後はドイツしだいですが、どうなりますことやら・・・
ない袖は振れないことをわかってない国民を抱えると国も大変ですな。(--〆)
オカピー
2012年05月17日 22:26
ねこのひげさん、こんにちは。

>ギリシャ
結局再選挙ですよ。
緊縮財政で本当に困っている人はともかく、それほどでもない人まで緊縮財政を反対していますし、その一方でEU脱退は困るというのが本音で、全く矛盾していますね。

その点日本人は物解りが良すぎて、現在はともかく、一時「増税もやむを得ない」と仰る人が多かったですし、まして現代日本において政府の経済政策で暴動がおこるなんてことはありえない。メディアで日本が金がないことを知りすぎているんです。しかし、もっとお札を刷ったところでインフレになるわけもないのだから、じゃんじゃん刷れば円高もかなり収まるんですけどねえ。

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