映画評「ブラック・スワン」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2010年アメリカ映画 監督ダーレン・アレノフスキー
ネタバレあり

ナタリー・ポートマンがアカデミー主演女優賞を獲った話題作。「レスラー」が好評だったダーレン・アレノフスキーの監督作品で、厳密に言えば、サイコ(異常者)・スリラーではなく、ニューロティック(異常心理)・スリラーである。

ベテランのプリマドンナ、ウィノーナ・ライダーを引退させて新解釈の「白鳥の湖」の主演バレリーナの選考に入った監督ヴァンサン・カッセルは、白鳥を完璧に踊れる清純派ナタリー・ポートマンに注目するが、彼女には黒鳥を踊れる悪徳性がない為誘い水をかける。黒鳥を踊れる自信のない彼女としては退廃的な香りを漂わす新人ミラ・クニスが気になって仕方がなく、ライバルとなるべきミラと交際して悪徳に身を染め遂に主役を完全に我が物とする。

という具合にお話は割合単純。
 邪魔をするミラをやっつけたつもりがその傷は自分に返って来る悲劇、即ち芸の極致に達するには死ぬ思いでやらねばならないというアレゴリーを「白鳥の湖」という二面性をモチーフにした演目で表現したところは注目に値する。つまり、「ジキルとハイド」の芸道ものヴァリエーションであり、終盤にはそれ以上に「ドリアン・グレイの肖像」の幻想的ニュアンスに近いものが見出せるのである。

翻って、僕の趣味では、作り方に疑問がなくもなく、彼女の幻想がいつ始まったのかはっきりとせずすっきりしない。僕としてはカッセルが練習場で誘い水をかける場面から始まると考える。
 考え方によってはそれ以降の場面は殆ど幻想みたいなもので、ミラとの交際自体幻想と考えられないこともない。現実と幻想の境界が曖昧なのは昨今の作品では常套手段で、本作がポスターなどから受ける事前の予想ほど迫力が感じられないのは、非常に具体的な二面性のお話なのに作劇に曖昧なところが多いせいである。

ナタリーはさすがの力演だが、昔から中毒患者と異常心理を演ずるとオスカーは獲り易いとは言われている。アレノフスキーとしては、「レスラー」同様ナタリーやウィノーナ・ライダーに自身の体験・状況をダブらせる役を宛がったところが大変興味深い。

名付けて「白鳥と黒鳥の肖像」てなもんです。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年05月15日 06:05
映像とかはいいですが・・・ストーリーはまあまあ・・・・設定はあまり・・・・
この体でいくと、俳優は殺人者を演じるのに、実際に殺人をしなければならなくなるわけで、そこまでいかなくても、レーサーを演じるのに実際にレーサーにならなければいけなくなると思うわけです。
実際には、そうでなくてもそうであるように演じるのが俳優であり、バレリーナではないかと思うわけですけどね。
白鳥を完璧に演じることができるのに、黒鳥を演じられないというのは、ありえないじゃあないですかね?
オカピー
2012年05月15日 16:27
ねこのひげさん、こんにちは。

まあアレノフスキー氏にしても、実際に俳優に経験せよ、と要求しているのではなく、そういう適材適所の役者があつらえたようにおわしました(笑)くらいの感覚で起用したと思いますし、アメリカ映画ではキャスティング専用のスタッフがいる場合がほとんですから、本作も正にたまたまだったのかもしれません。
殊に、かつて現在のナタリーくらい大人気の最中に万引きなどしてその華麗なる俳優人生に汚点を残しどんどん零落して行ったウィノーナ・ライダーの自滅的人生が、力が衰えたのも知らず我をはるプリマドンナにぴったしだなあと思った次第。

>白鳥と黒鳥
技術的には全くその通りだと思いますね。
しかし、かのwikipediaにも、白鳥と黒鳥を一人で踊るのは大変難しい旨書いてありましたよ^^;
昔、横浜でボリショイ・バレエ団の「白鳥の湖」を観たことが一度ありますが、凡人の僕には全く解りませんでした。ベルイマンを観ていた方がよほど簡単だわさ(笑)。

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