映画評「星を追う子ども」

☆☆★(5点/10点満点中)
2011年日本映画 監督・新海誠
ネタバレあり

数年前甥から「秒速5センチメートル」という中編アニメで紹介された新海誠監督の新作。

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山村、父親は亡く、母親は看護婦で深夜勤めが多いという鍵っ子のローティーン少女アスナが、鉄橋で熊より大きな謎の怪物と遭遇、シュンという謎めいた少年に助けられるが、数日後少年は死んでしまう。
 妊娠した女性担任教師の代理としてやってきた青年教師・森崎から「古事記」のイザナギノミコトが妻のイザナミノミコトを地下にあるという冥府まで追いかけた顛末を教えられたことから俄然地下世界に興味を持った少女は、さらに死を蘇らせる技術すらあるアガルタという地下世界があると知らされ、妻を蘇らせるためにそこを目指す森崎の後をついて行くことにする。
 地下への扉を開ける鍵はシュンから貰った石クラヴィスであり、命(めい)を帯びて石を取り返しにやって来たシュンの弟シンと出会い、猫のミミを加えた四組でいよいよ地下世界を冒険する旅が始まる。

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空を飛ぶ場面が好きな宮崎駿がその実お話の基盤として水を重視するように、前作まで空への関心が高いように見えた新海監督がまた地下世界や水を扱っているのはどうも意図的に宮崎駿の世界に接近しようという試みらしく、少年と少女の関係、クラヴィスなる石、ジジならぬミミという猫、門番たる怪物の造形、空を飛ぶ飛行船のような生命体、風車のようにゆったり動く装置のある桃源郷的風景など正に宮崎アニメを彷彿とする。

かくして小道具・大道具はオリジナルに肉薄するが、物語は些か心許なく、殊に困るのはアスナの地下世界へ旅立ちたくなるモチヴェーションが全くはっきりしないことである。本人さえ碌に解っていないのだから困るものの、常識的には前段からシュンを蘇らせたいのだと思う人が多いだろう。僕はシュン以上に父親を蘇らせたいのではないかと疑っていたら、終盤彼女が「自分はただ淋しかったんだ」と吐露し自身初めてその目的を悟る始末。「淋しかった」にしては彼女は単独行動を取り過ぎるが、先生に父親をダブらせていたのかもしれませんな。

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結局実は傭兵経験もある森崎教師がイザナギ若しくはギリシャ神話のオルフェウスよろしく妻を蘇らせようとするお話として完結していて、これではヒロインと目される少女の冒険談としては実にちぐはぐと言わざるを得ない。
 傍流として生かされるべき、アガルタにも居場所がないと信ずるシンの行動原理も些か解りにくく、宮崎流を目指し過ぎて物語の整合性がどこかへ吹き飛んでしまったらしく、本作の元ネタとして一番近そうな「天空の城ラピュタ」が如何に完成度の高いアニメであったか確認させてくれる。

「孤独を抱えて生きて行くのは人間にとって呪いだ」というシンの言葉を「でも祝福でもある」とアスナが引き継いで紡がれる台詞は胸を打つが。この追い掛けコーラスのような台詞の積み重ねは新海監督らしい。

CG多用の“何ちゃって実写”で見せられるよりはずっと良いですけどね。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年05月13日 05:27
今朝、早朝、テレビ東京で『真珠の耳飾りの少女』を見ましたが、これはすごいですね。
まさに映像美です。
ぜひ、DVDを、ブルーレイが出ているならブルーレイを手に入れねばと思いましたよ。
最近の日本の作品では、買いたいと思わせる作品がないですね。
どこか、あいまいで・・・・・

CGで思い出しましたが『魔法使いの弟子』のDVDを買ったのですが、メイキングがおもしろかったですね。
CGと思っていたところが、実写で。なるべく極力実写でやり、それにCGをかぶせたそうです。
ニコラス・ケイジは子供向けの作品として作ったと言ってますが、そういう意味では、大人でも楽しめますね。
オカピ
2012年05月13日 11:42
ねこのひげさん、こんにちは。

>『真珠の耳飾りの少女』
さすがにフェルメールをテーマにした映画だけのことがあったでしょう?
僕も映像がお気に入りで前回WOWOWで放映された時DVD保存版を作りましたが、また放映してくれたらハイビジョンで保存版を作りたい!

>『魔法使いの弟子』
僕は途中で「勝手にやっていなさい」と思ってしまったのですが、そういう舞台裏は面白いですね。
実写を絵にする手法が幾つかありますけど、お金をかけて変換するより、シンプルにCGを被せる程度で良いのではないでしょうか?
2012年06月05日 16:17
12星座の占い結果が悪いです…最下位とかその前とかその位置(笑)なんだか悪いことが起こりそうで嫌だなぁ…とりあずここのところなんだか体調が優れないので、この間街を歩いていたら、なんか朝、らしいですw「なんだかなぁ…」と少し複雑な気分の私なのでした。

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