映画評「ミスター・ノーバディ」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2009年フランス=ドイツ=ベルギー=カナダ映画 監督ジャコ・ヴァン・ドルメル
ネタバレあり

ジャコ・ヴァン・ドルメルと聞いて暫く思い出せずにいたが、異色作「トト・ザ・ヒーロー」(1991年)の監督であった。とにかく寡作で、長編劇映画を18年間で3本しか作っていない。
 その三本目が本作で、運命を左右する岐路における選択をテーマにした異色ファンタジーである。所謂“What if”ものというタイプで、僕が本格的にこのタイプの作品として鮮やかに記憶しているのは「スライディング・ドア」(1997年)で、次にバタフライ効果という言葉が大衆に定着するのに貢献したサスペンス「バタフライ・エフェクト」辺り。後者はタイム・スリップもののヴァリエーションなわけだが、扱いがそれまでのタイム・スリップものとは全く違っていた。

本作にもそのバタフライ効果が出て来て、地球の反対側の人が行なった行為が元で主人公ニモ・ノーバディ(成人後ジャレッド・レトー)が恋するアンナ(成人後ダイアン・クルーガー)から貰った電話番号が読めなくなるというエピソードとして紹介される。

お話の構成としては、再生技術で人が死ななくなった21世紀末(10年程前TVで100年もしないうちに人は死ななくなると紹介されていた内容とほぼ合致)、最後の死ぬ人間となっていた118歳のニモが学者や記者に過去のことを語る形式で進行していく。

そこでは少年時代に知り合った三人の女性アンナ、エリース、ジーンが絡んでくるロマンスが展開、その運命を大きく分ける原点は9歳の時に離婚した父と母のどちらについて行くかという選択である。勿論その後の別の要素も色々とロマンスに影響を与え、パラレル・ワールドでその三人のいずれとも結ばれるのだが、ついて行くことにした母が再婚した相手がアンナの父親だったなどという挿話もあり、雑誌等の紹介によると本作では彼の人生が12通り紹介されているとの由。

面倒臭がりの僕は数えてもいないし、それが幾つであることより、本来不可遡な時間と運命の関係をテーマにこれだけ拘って作られた映像作品は前例がないということで記憶に値する作品になっている・・・ことは確かである。上で“本来”と記したのは、終焉時に収縮する宇宙では時空が無次元になるというビッグクランチと呼ばれる現象について本作が触れているからである。ここまで本格化すると、「スライディング・ドア」が誠に微笑ましく感じられますな(元々微笑ましい作品でした)。

恐らくこのお話は118歳のニモが回想しているお話ではない。9歳の少年のニモか、34歳のニモの想像による産物であろうが、僕には断定できない。いずれにしても、最新科学情報を盛り込んで万華鏡のように展開させた異色中の異色恋愛映画と言うことができよう。どちらか言えば素朴な映画が好きな僕でも認めなければならない部分が相当多い。

バディ・ホリー「エヴリデイ」、ネーナ「ロックバルーンは99」、コーデッツ「ミスター・サンドマン」、オーティス・レディング「フォー・ユア・プレシャス・ラブ」(オリジナルはインプレッションズ)、ユーリズミックス「スウィート・ドリームス」(一月の間に三回も映画の中で使われているのを聞いた)などの軽音楽、エリック・サティのピアノ曲など、音楽が多彩にしてそれぞれにふさわしいところで使われ強い印象を残す。洋楽ファンにも見逃せない作品と言えるかもしれない。

不老不死は少しも幸福ではない、という逆説のお話でございました。

70年代のマカロニ・ウェスタンに「ミスター・ノーボディ」という作品があったのを誰か憶えています?

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年04月13日 06:17
劇場公開のとき『ミスターノーボディ』のリメイクかと思って無視してました。
ヘンリー・フォンダとテレンス・ヒルのふしぎなマカロニでしたね。

リメイクといえば、実写版『宇宙戦艦ヤマト』をテレビで観ましたが、劇場公開で観て以来二度目ですが、カット割りとか編集作業、ねこのひげにやらしてくれないかと思いましたよ。
いいすぎかな・・・・(^^ゞ
オカピー
2012年04月13日 09:32
ねこのひげさん、こんにちは。

僕もそうかと思いましたが、調べるとリメイクのリの字もないし、全く関係なさそうなので観てみました。本作は面白い部類と思います。しかし、これもまたアメリカ映画ではない・・・

>実写版『宇宙戦艦ヤマト』
おおっ、そう来ましたか(笑)
実際脚本が同じでもカット割りで相当テンポや面白さが変わってきますからね。所謂呼吸というやつが大きく変わるので。

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