映画評「幕末太陽傳」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1957年日本映画 監督・川島雄三
ネタバレあり

1954年に映画製作を再開した日活は他の映画会社から有力な役者やスタッフを引き抜いた。再開三周年記念作である本作を作った川島雄三や撮影監督の高村倉太郎、出演者の南田洋子もその数に入る。

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古典落語「居残り佐平次」をベースに「品川心中」など幾つかの落語から借用して構成された喜劇で、まず佐平次(フランキー堺)が無銭で品川の女郎屋“相模屋”に仲間と共に繰り出した挙句に一文も持っていないと開き直って店の手伝いを始めるが、これが物凄い商才の持ち主で店にも自分にも少なからぬ利益を稼ぎ出す。
 実は無銭飲食をした挙句に居残って身銭を稼ぐのがこの男の商売で、英国公使館(異人館)を焼く計画を立てている高杉晋作(石原裕次郎)らの一派からも色々と儲けさせて貰う代わりに彼らの活動を後押しする。金儲け主義の嫌な奴かと思いきや、父親の借金のかたに女郎に売られそうになる娘(芦川いずみ)と“相模屋”の若旦那の駆け落ちに協力した後さっさと身辺整理をしてどこへともなく去っていく。

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これは車寅次郎の要領を良くしたような江戸時代の男の物語でござる。翻せば、山田洋次が寅さんという人物像と「男はつらいよ」シリーズを生み出したバックボーンとして本人の落語好きに加え松竹時代の川島の助監督を務めた経験があることがおぼろげに理解できる作品と言えるのではあるまいか。

さて、その山田監督が同じように幾つかの落語をベースに、しかも同じようにジャズをBGMに使って作った「運が良けりゃ」より数段上手い喜劇で、本来喜劇を得意とした(とされる)川島の面目躍如と言うべき傑作である。
 才覚を縦横無尽に発揮して行動する佐平次の陽気な可笑し味は邦画では殆ど類例のないもので、それが物凄いスピードで展開するのだから言うことなし。

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ところが、物凄いスピードと陽気さで展開していたお話も、後半展開が進むに連れてその太陽のような明るさに徐々にペーソスが被さって来る。主人公・佐平次の労咳(結核)これなり。彼の商才を支えていたのは労咳を生き抜こうという負けん気ではなかったかと想像され、邦画ファンなら良く知るように、本作製作6年後に筋ジストロフィーで夭逝する川島監督に重ねて観続けなければならない。知らなくてもしんみりとするだろう。

とは言え、後半もテンポの良さは変わらず、主人公が老獪な老客の対応に苦労した挙句持ち味の明るさを発揮して去っていく幕切れは爽快、あっぱれと拍手喝采するほかない。

廊下の描出を駆使して、女郎屋を駆けずり回る主人公や女郎たちを捉える高村倉太郎による撮影は鮮やか。配役ではフランキ―堺の大好演に加えて、激しく恋の鞘当てを演ずる南田洋子と左幸子のコメディエンヌぶりが好調。

BGMにジャズが使われているのはフランキー堺が主演だからだね。

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この記事へのコメント

ドラゴン
2012年04月11日 16:17
先日、運良く映画館で拝見しました。
前にも観たことはあったのですが、最近映画館で観たどの作品よりも引き込まれ、満足できました。
昔の日活映画は良いですね!
オカピー
2012年04月11日 22:19
ドラゴンさん、こんにちは。

30年くらい前に自主上映で観た時は世評ほど面白く感じられなかったのですが、今回は大変楽しめました。僕もやっとこの映画が理解できる年になったんだなと思いましたよ。

恐らくデジタルで修復された綺麗なバージョンでご覧になったと思いますが、綺麗な画面なら尚更ゴキゲンに観ることができますよね。

>昔の日活映画
当時のベスト10等では評価されていない作品が多いのですが、「太陽の季節」「狂った果実」などはヌーヴェルヴァーグに先んじたもの凄いセンスの作品でしたねえ。
特に「狂った果実」の中平康は好きな監督です。それほど本数は観ていませんけど。
2012年04月11日 23:14
 お久しぶりです。

読んでいて、オカピーさんらしいなあと嬉しくなりましたよ。

ぼくは大学生のときに1回、ブログを書き出した頃に数回、去年にDVDでもう一回と都合3~4回くらいしか見ていませんが、活き活きした、まさに活動写真に相応しい喜怒哀楽が描かれていて、何回見ても飽きない作品ですね。

>中平康
彼はもっと評価されて良い監督さんですね。5~6年前にポランスキー作品の記事を書いたときに、中平監督と同じような映像表現を中平よりも数年経ってからポランスキーが使っていることを話題にしたのを思い出しました。

ぼくもいつのまにか中年になってしまいましたので、あと何本心の底から楽しませてくれる映画に出会えるのかなあと思うようになりました(笑)

ではまた!
ねこのひげ
2012年04月12日 05:14
ジャズが使われているのは、フランキー堺さんがドラマーだったからでしょうね。
テレビでなんどか見たことがありますが、その時はかっこよかったですね。

ベルトリッチの『暗殺の森』と『1900年』がBlu-rayで出ます。紀伊国屋が販売元なのでいささか高いです。両方買うと1万円超えます。迷います。

『トータルリコール』がリメイクされます。なんだかな・・・・です。
オカピー
2012年04月12日 11:09
用心棒さん、こんにちは。

>オカピーさんらしいなあ
山田洋次監督と結びつけたところでしょうか?(笑)
撮影にはもっと触れたいこともあったのですけど、とにかくお話のおかしさ、スピードに圧倒されて、撮影は用心棒さんに任せれば良いや、という程度に留めました。

厳密に言えば三回目だと思いますが、二回目の記憶が何故か余りないんです。一回目は金を出して小さいとは言えスクリーンで見て「あれっ、もっと面白いんじゃない?」と思ったからよく憶えています。そのネガティヴな印象は、ちょっと前に「飢餓海峡」を観たせいかもしれません。
その代わり、今回の印象は抜群。デジタル修復版で音声も画面が綺麗だったということも奏功していますね。

>中平康
晩年双葉先生が日本映画ベスト100といった企画が多くなった時に「すごく好きな監督なんだけど、ベストとかに入れるのは照れちゃうんだよ」と仰っていました。僕もその感覚がよく解ります。寧ろベスト10や傑作扱いからちょっと外した好きな作品、好きな監督にいるのがふさわしい監督なのかもしれません。僕も師匠同様ご贔屓の三隅研次などと同様に(用心棒さん、三隅監督の作品はご覧になったことがありますか? 彼はとっても面白い絵を撮りますよ。それからショットや特に場面の繋ぎが独自ですが、この辺りは用心棒さんの審美眼ならお解りになるような気がします)。

そんな先生の思いも知らないアンチ双葉の輩が、およそ無難な作品が並んだベスト100のラインアップを観て、「なんだ、プログラム・ピクチャーが一本も入ってないじゃないか」といちゃもんをつけていたのが憎らしくなりましたよ。
オカピー
2012年04月12日 14:22
ねこのひげさん、こんにちは。

>フランキー堺・・・ドラマー
やはりそうでしょう?^^
後年の彼しか知らないとドラマーの姿が余り思い浮かびませんが。
そう言えば後年「写楽」を自ら企画して出演もされましたね。あの映画もミステリー趣味のある群像時代劇で、結構好きでしてね。

>ベルトルッチ
DVDには確か保存してあるはずですが、ブルーレイでハイビジョン記録したいので、「暗殺の森」はいつかWOWOWに再登場するのではないかと期待しておるです。
「1900年」はNHKとWOWOWには出そうもありません。解りませんけど(笑)。
もう少し待ってみますよ。お金が無尽蔵にあるわけではないので。
「1900年」と言えば、ちょうど30年前の12月1日5時間半立ちっぱなしで観ましたよ。大長編でコストが高かったので、映画の日(まだ始まったばかりだったはず)を狙って行ったら、東京は映画ファンが多くて溢れかえり結局立ちっ放し。それでも感動出来たんだから凄い映画と思う。ベルトルッチでは一番充実した作と個人的には思います。「暗殺の森」はまたちょっと違う位置づけにしたい作品。

>「トータル・リコール」
シュワちゃん版の出来が結構良かったから、敢えて観る気もしないけど、リメイクのスパンが本当に短くなった。ネタ不足だけでなく、最近はそれに加えてCGや3Dといった技術が拍車をかけているんですなあ。
ベテランになると若い頃観た作品のリメイクには食指が動かされませんね^^;
2014年06月28日 22:10
オカピーさん、こんばんは。
今、用心棒さんの記事にコメントしてきたところです。
最近「洲崎パラダイス 赤信号」を観ていたので、やはり川島監督のこの代表作と「愛のお荷物」をレンタルしてきました。

>廊下の描出を駆使して、女郎屋を駆けずり回る主人公や女郎たちを捉える高村倉太郎による撮影は鮮やか。
これは、用心棒さんも絶賛されていましたね。
本当にあのリズム感とスピード感は高村倉太郎でなければ表現できなかったかもしれません。映画史的には「松竹ヌーヴェルヴァーグ」と言われていますが、日活もいい意味で「ヌーヴェルヴァーグ」ですよね。ルノアールの作品と古典落語には類似点があるのでしょうかね?
いずれにしても素晴らしい作品を鑑賞したときの充実感は何物にも代えがたいものです。
では、また。
オカピー
2014年06月29日 21:46
トムさん、こんばんは。

「洲崎パラダイス 赤信号」は面白かった。「愛のお荷物」はあの頃の僕にはピンと来なかったかな。共に大分忘却の彼方ですけど^^

>日活
確かに。中平康などはヌーヴェルヴァーグより前に実際ヌーヴェルヴァーグしていましたから。用心棒さんも僕と同じように感じていたのを知った時には感激しましたね。やはり感じる人は感じるのだと。
トリュフォーが「狂った果実」に影響を受けたのは、たしかwikipediaにも書いてあったような。僕は全くの自己研究ですが。

>ルノアール
古典落語との類似点は勉強不足でよく解りませんが、ドタバタの後に一抹の寂しさを覚えさせる辺りは本作と共通する境地があるかもしれませんね。
「ゲームの規則」は素晴らしい作品。しかし、「幕末太陽伝」ほどすぐにピンと来ないんですよ。その代りピンと来た時はさらに圧倒される思いがしましたです。

ではでは。

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