映画評「英国王のスピーチ」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2010年イギリス映画 監督トム・フーパー
ネタバレあり

英国王室絡みの作品が次々と発表されているが、ネタは尽きないようで、本作は1936年に王位についたジョージ6世の秘話をベースにしたトム・フーパー監督作品。

6世の前身ヨーク公(コリン・ファース)は父親ジョージ5世(マイケル・ガンボン)の厳しい躾がたたって緊張しやすい性格、重度の吃音症になる。妻エリザベス(ヘレナ・ボナム・カーター)は懸命に治そうと奔走、豪州出身のライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)という言語聴覚士を夫に紹介、ヨーク公とローグは激しく対立しながら徐々に治療が効果を上げていく。
 36年早々に5世が逝去、兄(ガイ・ピアース)がエドワード8世として即位するが、有名なシンプソン夫人スキャンダル(二度の離婚歴のあるアメリカ女性シンプソン夫人との恋愛事件)の為に退位、ヨーク公は嫌々ジョージ6世として即位、戴冠式も何とか無事に済ますが、1939年遂に英国がナチス・ドイツに対して宣戦布告することを決定、全国民が聴くラジオ放送で国民を一つにまとめる玉音を賜る羽目になる。

実は僕も軽い吃音で、普通の時はまず大丈夫だが、大勢の人前に出て緊張すると舌と顎が強ばって上手く話せないことがままあるので、ジョージ6世の心境はよく解る。その不安により緊張がさらに高まる。吃音者はこういう悪循環に陥り易いのである。

さて、見どころはローグが対等にケント/ジョージ6世と接することから始まる治療場面で、言葉を歌に乗せたり、汚い言葉を挟んだりする治療自体への興味もさることながら、葛藤を中心とした二人の交流がオーソドックスな展開ながら大変愉快。

6世がローグが色々な印をつけた原稿をゆっくりと読む終章が文字通りクライマックスで、劇中の台詞でもあったように、つっかえ気味の間が王故の重厚さに感じられ来るから不思議だ。エリザベスという王妃も大変立派な人物で、彼女なしに国民に尊敬されるジョージ6世は誕生しなかったと思うと彼女に対して感慨深いものを覚える。
 出演者はいずれも好演だが、やはりなかなか難しい役どころをこなしたファースが最大の功績者あることは言うまでもない。近年変な映画にばかり出ていたヘレナの演技も実に良い。

日本は政治の仕組みが明治以来英国と似た国だが、週刊誌は騒いでも、不敬になるという考えで映画は滅多に明治以降の天皇を登場させないし、まして皇室そのものを描いたことはない。英国皇室が大らかというか、取り巻く周辺の気質の違いなんでしょうなあ。

一部の噂に基づいたフィクションながらヒトラーの演説教師を主人公にした「わが教え子、ヒトラー」と比べて観ると面白いですぞ

この記事へのコメント

2012年03月07日 18:08
初めまして。
私もこの映画には感動しました。
最後の皇室のご意見には私も賛同です。
日本では、自分たちの象徴であるものに、自ら触れず象徴たりえさせる美徳的な所がありますよね。
ある意味、日本人らしいというか。
オカピー
2012年03月07日 21:17
吃音治療ナビさん、初めまして。

専門家からの見地から興味深いところもあったのではないですか?

皇室については、皇族そのものに英国ほど自由がないので、事件そのものもすくないんでしょうね。
ねこのひげ
2012年03月08日 05:33
バルボッサとは思えませんね。
ジェフリー・ラッシュすごいですね。
日本人の場合、なにをやってもその人にしか見えないケースが多いのですがね。
吃音だったのは、ほぼ事実のようで、この後も完全には治らず苦労したようですね。
公の場所に立たなければいけない立場の人間としては辛かったでしょうね。
オカピー
2012年03月08日 15:58
ねこのひげさん、こんにちは。

>ジェフリー・ラッシュ
この人自体が変幻自在の俳優ですが、「ライフ・イズ・コメディ」でこれまた変身俳優のピーター・セラーズを演じたのを観て以来、どういうのが一番彼らしいのか解らなくなったりして。
「ライフ・イズ・コメディ」は僕が密かに推している作品ですので、未見でしたら是非ご覧ください^^

>吃音
実際には即位する頃には大体治っていたようですから、開戦に際してあれほど劇的なことはなかったのでしょうね。
シュエット
2012年03月08日 16:10
ラストシーンでは万感迫るものがありました。とつとつとした作りが上手いなぁ。
>出演者はいずれも好演だが、やはりなかなか難しい役どころをこなしたファースが最大の功績者あることは言うまでもない。近年変な映画にばかり出ていたヘレナの演技も実に良い。
同感!昨年は本作といい「シングルマン」といいコリン・ファースが正当に評価された年。ずっとラブコメディっぽい作品で女優の引き立て役的みたいな役柄ばかりで、悔しいなって思っていたので彼のオスカー受賞は本当に嬉しかった。
それからヘレナさん。改めて実力ある役者だなって実感。まぁ実力あるからこそ変な役も演じ切れるんでしょうけどね(笑)
ヘレン・ミレンの「クィーン」といい、本作といい、王室の中までずかずかと入り込んだ内容。雲上人扱いされていた天皇家と、貴族の鉄片の王家との違いも大きいでしょうね。
いい映画でした。ガイ・ピアースもなかなか良かったのではないでしょうか(笑)
オカピー
2012年03月08日 20:06
シュエットさん、こんにちは。

ファースに関してはもう立派というしかありません。
達者なジェフリー・ラッシュは余裕のよっちゃんでしたね(笑)。
それに比べるとヘレナに対する指摘が少ないようなので、敢えて述べてみました。顎の短い顔が変な役に起用される所以なのでしょうが、実力はたっぷりなんだからもっとまともな映画にも出してあげてよ^^

>王室
日本の王室は宮内庁等の管理がうるさく、恐らくスキャンダルもないから、民間人になった人くらいしかネタはないかも(笑)。
2012年03月18日 18:04
自分の弱点を乗り越えて大役を果たす姿は、
ただただ、格好良かったです。
オカピー
2012年03月18日 19:44
光太さん、こちらにもようこそ。

僕も多少その気があるから解りますが、吃音者は結構大変なんですよ。
少しあっさり気味の感じがあるのは、英国気質というのもあると思います。やはりハリウッドとは映画観が大分違います。
zebra
2015年01月07日 20:39
英国王のスピーチ」みました。
イギリス王国から出た 二つのドラマ

ひとつは アニキ エドワード8世の「王冠を賭けた恋」
もうひとつが 本作の「英国王のスピーチ」。 弟のジョージ6世の吃音国王の勇気を出した演説。

 アニキはウォリスシンプソンとの恋を選んで王座を捨てた。弟は不本意ながらも王座を受け入れた・・・

 違う道を選んだだけ・・・

が、これだけは忘れてはならないのは ジョージの吃音は 王座につかなかったら 跳ね返せなかったことです。
それに、 吃音がなかったからといって 国民を鼓舞する演説をするのは ふだん口のうまい人でも かなり大変なんです。 演説ひとつとっても国を背負う責任が かかってくるから 心の負担は 並大抵じゃありませんからね。

ジョージ6世には その責任を背負うだけの器があった。
ふたりとも自分の生き方に対して必死になってたのは共通な気もしますが オカピーさんはどうでしょうか。
オカピー
2015年01月08日 18:51
zebraさん、こちらにもようこそ。

僕も両方とも見ていますが、加えてジョージ6世がフランクリン・ルーズヴェルトの客として出てきてやはり吃音にいらだつ部分を見せる「私が愛した大統領」という作品がありますので、ご覧になっていらっしゃらないのであれば、一見の価値があると思います。但し、映画としては物足りなかったのですが。

>演説
そうですね。
僕は10人以上いるところで何か発表するとなると、緊張して何も喋れないです。元来軽い吃音があるのです。吃音症の人は余計にあがるのですよね。
まして国民の前となると、それは大変でしょう。うちの兄貴は「原稿さえあれば、俺は喋れるぞ」と言っておりましたが、あの内気な兄がどうなんでしょうかねえ(笑)

エリートコースに乗りながら(自分で言うか?)コンプレックスで人をリードすることが出来ずに半端な役職のまま会社を退職する羽目になった自分のことと考え合わせても、ジョージ6世の生き方は立派でしたよ。
僕は、新しい社長に若干の吃音があるのに気付いて勇気を貰いましたが、結局その勇気を生かせなかったのであります。残念。

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