映画評「アジャストメント」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2011年アメリカ映画 監督ジョージ・ノルフィ
ネタバレあり

この映画の大量の☆に関しては全く個人的に興味深い作品だったからで、未鑑賞者におかれましては信用して貰うと迷惑がかかるかもしれないことを予め申し上げておきます。

スラム育ちなのに史上最年少で下院議員になったマット・デイモンが上院議員選挙に自らの不始末で敗北した時に知り合ったモダン・バレエのダンサー、エミリー・グラントに一目惚れするが、本作のムードが一変するのはここからである。
 テレンス・スタンプを筆頭とする“調整局”所属の役人が現われ、彼に「彼女と結ばれるのは予め定められた運命の軌道とは違うので調整する」と彼に告げ、これに従えば彼は大統領に、彼女は有名なダンサーになると言う。しかし、彼らの存在を誰かに告げれば彼を廃人にすると脅迫する。

かくして一気にSF映画の様相になるわけだが、しかるに、僕はすぐに運命を寓意的に描くというアングルを付けた恋愛映画という観点でしか観られないようになった。
 例えばホメロスの「イリアス」に登場人物が神様の一人に助けられる場面がある。読んでいる人間にはどの神様がどう助けたか解るのだが、お話の中で一緒に戦っている人間には、神様が見えないから正に彼は助かる運命だったと思うしかない。僕にはここに出てくる調整局の連中が神の使いであり、「イリアス」にしばしば登場する気まぐれな神様群と大して違わないように感じられたのである。「イリアス」を読み、その映画版の「トロイ」を観た人にはこの感覚が解ると思う。

古代ギリシャ人と違って本作の原作を書いたフィリップ・K・ディックはキリスト教徒若しくはキリスト教の影響下で育った人だから神様は“議長”一人のようだが、“議長”なる存在は何かの寓意なのかもしれない。とにかく、調整局員が視覚的に現われなければ本作は様々な不運や迷いを突き抜けてヒロインへの思いを貫く恋する男性の行動を描いた純恋愛映画以外の何物でもない。
 「ではそう作れば良いではないか」という反論もありそうだし、そういう変なアングルを付けることに普段は批判的な立場を取ることが多い僕だが、本作に関して恋愛成就の困難が山ほど作られているテーマである以上こういうアングルから運命に翻弄される恋愛を描くのは頗る良いアイデアと思った次第。従い、多くのディック若しくはSFファンの評価とは自ずと異なって来る。

但し、余りにSF的すぎるのがロマンティストたる僕の観点からの鑑賞ではマイナスで、もう少し曖昧なほうがもっと面白く見られたとは思う。いずれにしても、着想的にちょっと似た印象のある「運命のボタン」のハッタリよりはずっと興味も好感も持てるのである。

デイモン(デーモン=悪魔)だけに神様も苦労するわさ。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年03月30日 06:07
UFO好きなら、トミー・リー・ジョーンズとウィル・スミスの『メン・イン・ブラック』の黒服でサングラスの男たちを思い出すところでしょうね。
救世主とか神の使いとか、西洋には根強いですね。
そして運命は自らが切り開くものであると・・・・
現実には、大統領の方を選ぶ奴が多そうですけどね。
オカピー
2012年03月30日 18:35
ねこのひげさん、こんにちは。

>『メン・イン・ブラック』
なるほど^^

>神の使い
多いですね。
そう思った人はそれほど多くはないと思いますが、7~8年前の話題作「ドッグヴィル」のヒロインもそうではないかと僕は思いました。
あれは旧約聖書の挿話“ソドムとゴモラ”のヴァリエーションと話半ばで感じたものです。

>運命
日本人は運命は受け入れるものだと考える人が多そうですが、おっしゃるように、西洋人特にフロンティアを体験してきたアメリカ人は“運命は切り開くものだ”という考えが強いように思いますね。

>大統領
そうでしょう。
しかし、そういう方向に話を持っていくと、「運命のボタン」みたいになっちゃう(笑)

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