映画評「プッチーニの愛人」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2008年イタリア映画 監督パオロ・ベンヴェヌーティ
ネタバレあり

「トスカ」などの歌劇で知られるイタリアの作曲家ジャコモ・プッチーニの小間使いドーリア・マンフレーディが服毒自殺した事件(1909年)をテーマにした異色伝記映画だが、僕はお話そのものより前に4:3の画面、台詞の代わりに手紙を多用する手法に拘ったことに多大な興味を覚えた。即ち、

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彼女が死んだ1909年は初期サイレント映画時代であり、フィルムは4:3、音声は字幕によりフォローされていた。そこから僕には、本作をその時代に思いを馳せ100年前の気分の再現の為にサイレント映画を思わせる作り方をしてみようかという発想が生れたのではないか、と思えてならないのである。

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プッチーニ(リッカルド・ジョシュア・モレッティ)の小間使いドーリア(タニア・スクイッラーリォ)は、彼の嫉妬深い妻エルヴィーラ(ジョヴァンナ・ドッディ)に愛人関係にあると疑われて追い出され自宅に監禁された挙句、教会にも見放されて、服毒自殺する。

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プッチーニが多情であり秘密の愛人がいたこと、エルヴィーラが嫉妬深い事実に加えて、ミステリー的伏線としてエルヴィーラの娘フォスカ(デボラ・マッティエロ)の台本作家との情事をドーリアが観てしまったということがある。これらが素朴で純情な田舎娘を自殺に追い込んだ悲劇の原因である。
 映画は事実と恐らく創案とを巧みに織り交ぜて、手紙という音のない雄弁な台詞により鮮やかにドラマを構成していく。

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ミステリー趣味を交えたその見せ方の面白さもさることながら、僕が目を見張ったのは、イタリアの湖水地帯トッレ・デル・ラーゴを捉えた撮影の言葉に尽くし難い美しさ、そして、完璧に計算された画面設計である。概ねフルショット、ミディアムショット、ロングショットで構成されているが、全てがそのカットにふさわしいサイズ及びアングルで撮影され、息をのむ思いで画面を観続けていた。
 映画学校の講師をしていると聞くパオロ・ベンヴェヌーティは端倪すべからざる画面感覚の持ち主と言うべし。彼に教わったらきっと良い絵が撮れるだろう。

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音楽の使い方も秀逸だが、具体的に述べるほどクラシックの知識が僕にはない。

創作の影に女あり。昨日の「スープ・オペラ」もそうだったでしょ?

この記事へのコメント

2012年03月20日 05:55
マーラの次はプッチーニですな。
絵画のような、ルネッサンス期の油絵のような重厚な美しい画像でした。

先日のマーラのCMはサントリーロイヤルでした。ガウディーの建築とクラウンの組み合わせで、80年代の金のかかったCMです。
YouTubeで観れます。

『愛と誠』完成披露しているニュースをやってましたが、まるでギャグですな。
監督が三池崇史さんで、ふざけているような不思議な予告をやってましたよ。
オカピー
2012年03月20日 16:50
ねこのひげさん、こんにちは。

>マーラの次はプッチーニ
間に「スープ・オペラ」を置いたのは意図的なものです^^
題名を「あいうえお」順に並べるとか、記事UPの順番にも色々工夫を凝らしているのですが、解ってくれる人が少ないのが残念^^;

>油絵
僕もそう感じましたが、4:3の画面にしたのにはそういう意図もあるかもしれませんね。
一番下の画像なんか宗教画を思い出させます。
風景では19世紀後半のロシアン・リアリズムを思い出させますし、一番上の画像なんかはレンブラントみたい。

>サントリー・ロイヤル
十何年か前かと思いましたが、二十年前以上でしたか。
光陰矢のごとしですなあ。

>『愛と誠』
三池崇史監督は色々なジャンルをこなす才人ですけど、ふざけすぎた作品が多いのも間違いない事実でしょう。
シュエット
2012年04月03日 10:39
最近のイタリア映画も不作で、がっくりくるのも多くって、本作なども劇場鑑賞スルーした作品。三大映画祭受賞作品なんかも、素晴らしい作品もあるのだけれど、……ってのもあったりで、最近はどうも観る前に疑心暗鬼の穿った視線で作品をセレクトしてしまったりしてますネェ。
オカピーさんの8点に刺激され、11日に放映されるようなので観てみます。
面白かったらTBもってまたまたお邪魔するかも、です。ヨロシク。
オカピー
2012年04月03日 20:29
シュエットさん、こんにちは。

これは後でコメントしたほうが良いのかなあ。
僕は気に入りました。本年の撮影賞はこれで決まりなんです。
シュエット
2012年04月18日 10:22
TB持ってまいりました。
かなり作家性の強い作品で、こういう作品って、どうかすると観るものに緊張を強いるものも多いけど、本作は、宗教画のような静謐で美しい映像と音楽、そしてサイレントに、すっかり魅入ってしまいました。
作中で重要な役割となるストールを上手に使っている辺りは女性ならではのセンス。かなり確固たる美意識と映像理論をお持ちの監督ご夫婦でしょうね。
最近は画家や音楽家、はたまたオペラを題材にした映画が多く、これモ同じくかとノーチェックでした。これからもオカピーさんの得点を参考にさせていただきますね。
末筆ですが、この方からご紹介頂いたという形でオカピーさんのブログにリンクさせていただいてます。事後承諾スミマセン。
オカピー
2012年04月18日 20:03
シュエットさん、TB&コメント有難うございました。

決して神経質な映画ではなく、美しい映像を積み重ねた、洒落た感覚のある作品だったでしょ?

最近は劇映画のネタがないので、リメイク、シリーズと実話の映画化が目立ちますね。良い脚本家が減ったんでしょうねえ。

>事後承諾
僕にとって何のマイナスにもならないので、寧ろ感謝でございます。
面映ゆいですが、有難うございました<(_ _)>

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