映画評「完全なる報復」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2009年アメリカ映画 監督F・ゲイリー・グレイ
ネタバレあり

F・ゲイリー・グレイはきちんとした脚本に当れば5番バッターくらいの働きが出来る監督だが、エンディング・クレジットで脚本がカート・ウィマーと知って良い意味で驚いた。
 「リベリオン」や「ウルトラヴァイオレット」といった作品で、先人が作ったSFなどをいじくり回して表面上の派手さとは対照的につまらない本にしてしまった失敗を、今回は繰り返していない。SFではなくミステリアスなサスペンスにしたのが幸いしたのかもしれないが、いずれにしても退屈させないお話になっている。

妻と幼い娘を目の前で二人の男に殺されたジェラード・バトラーの懸命の訴えにも拘らず、検事ジェイミー・フォックスは司法取引をして従犯の男を死刑にする為主犯を3年の禁固刑で済ませてしまう。物的証拠がない為やむを得ない判断と言われても、犯人二人の顔を見ているバトラーは気が済まない。
 10年後、従犯者は薬物が何者かに取り換えられ苦悶して死ぬ。さらにのんびりと生を満喫していた主犯もバトラーに捕えられてバラバラにされて殺される。
 犯行を否定しないバトラーは、かくして逮捕されるが、彼が独房に入っているにも拘らず司法取引に関与した弁護士、裁判官、そしてフォックスお気に入りの美人助手レスリー・ビブを含む6人の検察官が様々な手口で殺され、届けられたバラバラ事件のビデオを見た妻子からの電話がフォックスを怯えさせる。

テーマはともかく構成上は単純なお話で、犯人がバトラーと解りながら関係者を脅かす事件が起きるサスペンスとその謎をフォックスが最終的に解き明かす、というだけにすぎない。しかるに、僕の持論通り、単純なお話は上手く作ると面白くなるのである。

反面、上でウィマー氏をちょっと誉めたものの、実は本作は発想的に「ソウ」のネガ的翻案で、やはり他人の褌で相撲を取る癖は抜けていない模様。「ソウ」は人生を大事にしていない人物を閉じ込めた犯人が神を気取ってその生死を支配するお話だが、本作は閉じ込められた人間が妻子の復讐を兼ねて法律の陥穽を埋めようと、やはり一種の神を気取って法律の解釈とその執行に携わる人物を懲らしめる(抹殺する)のである。
 しかし、新味と共にそこに本作の陥穽もあり、単純に復讐や自警、お仕置きの為に昔のチャールズ・ブロンスン(事件の発端は「狼よさらば」と殆ど同じ)やアラン・ドロン(「復讐のビッグ・ガン」)のように法の裁けない悪党たちを懲らしめるお話に比べると、ぐっと嫌な後味が残る。レスリーなど直接関係のない人物たちが殺される段になるとバトラーは彼の嫌った悪人とどこが違うかということになる。

亡くなったレスリーの残した書類がバトラーが犯行を起せる理由の解明に繋がる辺りミステリー的に面白いが、法律の限界だけでなく、有罪率を上げようとした個人的な理由もあるフォックスが何の反省もなくお終わるように見えるのもウィマー氏の限界である。それを解決して見せないなら最初からそんな要素を置かずにフォックスを純然たる善人にしたほうが変な疑問が生じずに純サスペンスとしてもっと素直に楽しめ、★も増やせたはずである。

このキツネ(フォックス)、タヌキの執事(バトラー)には手が出ないようで。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年03月13日 05:44
まさに、その通りでありますね。
後味が悪というか、食後に口直しが欲しくなる作品でありました。
『狼よさらば』で口直ししますか?
『リベリオン』も『ウルトラヴァイオレット』も見た目ほどの中身のない映画でありましたですな。
オカピー
2012年03月13日 21:36
ねこのひげさん、こんにちは。

「狼よさらば」は地上波には出ましたが、衛星放送には出ていない気がしますね。今なら高画質でブルーレイに保存できますから便利。
買ってまで観るつもりはないですけどね(笑)。

そのうち良いのも作るかもしれませんが、カート・ウィマーのSFはつまらんです。本作はそれより良いものの、普通の人を殺してはいかんでしょ。

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