映画評「君を想って海をゆく」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2009年フランス映画 監督フィリップ・リオレ
ネタバレあり

昨年12月から三ヶ月の間にクルド人が主役の映画を三本も観ることになったが、本作が断然優れている。「灯台守の恋」など実績のあるフィリップ・リオレだからというより、主張したいことをストレートに語り観客を惑わせない姿勢が良いのである。

17歳のクルド人少年フィラ・エヴェルディはイラクから4000km歩いてフランス北部の港町カレに辿り着くが、そこからトラックに乗って英国へ渡ろうとして失敗、難民故にとりあえず強制送還は免れる。

映画が断然興味深くなるのはここからで、少年は何故かプール教室に通い始める。コーチのヴァンサン・ランドンはドーヴァー海峡を渡ろうとしていることに気付き、最初は無理と反対したものの、難民支援のボランティアをしている別居中の妻オドレイ・ダナの気持ちを留めるという目論みも働いて指導するうちに恋人デリヤ・エヴェルディに会いたいという彼の計画を本気で実現させてやりたくなってくる。一度頓挫した計画は、彼女が強制的に結婚させられると知って、再度実行に移されることになるが、彼は英国本土を目前にして力尽きる。

我が国は先進国の中で最も(?)難民に冷たく、娘だけ残して父親と息子を刑務所に送られる可能性が高いトルコに返してしまったケースは今でも忘れられない。どこの国とて密入出国を取り締まるのは当たり前だが、我が国の役人はどうも柔軟性に著しく欠ける。その一方で堂々と犯罪を犯す出稼ぎ中国人を取り締まり切れない。
 移民人口が膨れて仕事を失うなどの理由でヨーロッパの白人たちが有色人種たちに不寛容になってきたのは紛れもない事実で、人口が減り続ける日本と違ってフランスが移民を厳しく取り締まる理由は政治経済論的には理解できる。

悪質な違法行為をしない限りフランスは不法とは言え難民を送還することはないだろうが、悲しいかな、少年の夢を最終的に頓挫させるのは英国の沿岸警備隊なのである。彼らはもっと優しい言葉をかけてやれなかったのだろうか? 

いずれにしても、人間は自分が可愛く欲という皮を破れず、新たにやって来る人々には冷酷なのが常である。本作はフランスの移民政策の現実を良く伝えているが、真の問題はフランスでなく、利益を得、守る為に境を作らないではいられない人間である。

恋人に会う為に4000km歩きさらに海峡を渡ろうとする強い思いを持つ少年と、すぐ近くにいるのに気持ちが離れてしまった夫婦を絡めたアイデアが秀逸、少年が半ば無気力になったランドンの妻に対する思いを奮い立たせ、それが絡み合って少年の計画が実現に向って進んでいく、という作劇は鮮やか。このドラマ部分があるからこそ移民政策の問題提議が散文的にならず、我々の心に訴えかけるわけである。恋愛の絡め方がまずく焦点が曖昧になってしまった「クルドの花」とはそこが違う。 

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年02月29日 07:05
映画としては、ナイスでしたね。
人間の中にある差別意識にはため息が出ますが・・・・
トルコに送り返された家族はどうなっているんでしょうかね。
情報がはいて来ませんが・・・・・
日本国内に住んでいる我々日本人は感じてませんが、日本は海外では、高評価のようで、日本語が話せれば日本に住みたいという人が欧米だけでなく、アラブ諸国やインドあたりでも増えているようですね。
オカピー
2012年02月29日 19:04
ねこのひげさん、こんにちは。

「きみ」「ぼく」ブームに乗って付けられたタイトルは戴けませんが、それも元をただせば大衆の流行好きのせいでもあり、一概に配給会社を責められないです、僕としては(笑)。

>トルコに送り返された家族
新聞の片隅か何かで、やはり「刑務所に送られた」と読んだ記憶がありますが、別の家族だったかな?

>日本
厳密に言えば日本人が良いんでしょう。政治家と高級役人は碌なもんじゃないですが、一般庶民は真面目だし、親切だし、それが住みやすい国という印象を生んでいますよね。
昔の日本人は寅さんのおばちゃん(三崎千恵子さん)みたいにもっと素敵でしたが、まだまだ捨てたものではないというのは、昨年の地震でよく解りましたね。

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