映画評「白いリボン」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2009年ドイツ=オーストリア=イタリア=フランス映画 監督ミヒャエル・ハネケ
ネタバレあり

僕にとって後味の悪い映画No.1と言っても良い「ファニーゲームU.S.A.」を作ったミヒャエル・ハネケの作品だから覚悟して見ないといけないが、僕は今回監督の名前も知らずに観たので、こんな厳しい北欧的なモノクロ映像を観るのは久しぶりだなあと内容そっちのけで興奮していたら、最後に監督ミヒャエル・ハネケと出た。やはり曲者。

かつて教師をしていたある老人が自分が経験した半世紀ほど前を回想する形で進行するが、この時点では舞台が今世紀初めのドイツ荘園地帯の或る村ということくらいしか解らない。色々とぼかすハネケ流である。

まず村の医師(ライナー・ボック)が自転車に乗っている時仕掛けられた鉄線に引っ掛かって転倒、大怪我をする。続いて小作農の妻が墜落死する。その息子が怒ってキャベツ畑を荒らすが、一家は沈黙を守る。さらに男爵(ウルリッヒ・トゥクール)家の納屋が燃え、厳格なプロテスタント牧師(ブルクハルト・クラウスナー)が躾と称して子供たちを鞭打つ。
 牧師の愛鳥は恨みを抱いた娘により殺され、医師は手伝っていた助産婦との肉体関係を切るが、彼女の子供が誰かに重傷を負わされた後何故か二人とも別々に姿を消してしまう。その直後サラエボ事件が勃発、第一次大戦が始まる。

まだ30くらいだった語り手の教師(クリスチャン・フリーデル)が不穏な空気の漂う村の中で村人を客観的に冷静な立場で観ている狂言回しとして行動するのだが、時代が1913年と判明することで主題が明確化する。
 領主が小作農から搾取し、牧師が子供たちを躾の名の下に子供たちを抑圧し、医師が女性を辱める。一見厳格でまともに見える人物たちが実は暴力性や欺瞞に溢れているのに、弱い大人の村民たちはそれに対して大きな反応を見せず、子供たちはキャベツを荒らしたり小鳥を殺したりする悪意を見せるようになる。この大人の沈黙と抑圧された子供たちの静かな反抗にファシズムの胚胎を感じさせる、という仕組みである。

タイトルになっている白いリボンは牧師によれば無垢の象徴で、ひどい場合はバンドで縛り付けるわけだが、子供(弱者)たちは大人(強者)たちからの抑圧から解放される手法として悪意の実行を覚えて、かくして一つのものが対象化される時にファシズムが生れるというのである。この村の一見静かな不気味さはファシズム(ナチズム)胚胎時の静けさというのである。

教師が仕立屋になり、恋人の名前がエヴァということで教師をヒトラーのアレゴリーという風に捉えることもできるが、ヒトラーの出生にも謎が多いので、医師と助産婦との間に生れたと噂のある障害児なども考え合わせると、この村全体がヒトラーのアレゴリーなのではないかという気もしてくる。

この厳粛な静かさにはぞっとさせられるが、それを醸成したモノクロ映像の美しさにもっと圧倒させられる。比較的最近の作家でこんなに構図が美しいのはテオ・アンゲロプロスくらいしかいない。

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この記事へのコメント

2011年12月18日 20:10
 こんばんは!
この作品には圧倒されました。
新作映画で久々のモノクロ映像だったので、嬉しくなりました。

個人的には燃え盛る炎と身体を切るような冷たさが分かる吹雪の映像が印象的でした。子どもにとんでもないことをした犯人は誰だったんでしょうね?

あのへんの感覚はハネケらしいですね。『ファニーゲーム』も見ましたが、あれもキツかった(笑)

ではまた!
オカピー
2011年12月18日 21:45
用心棒さん、こんばんは。

この映画のモノクロ映像の厳しさは凄かったでしょう。内容よりそちらのほうが印象に残ったなあ。
モノクロ時代のベルイマンとか、そんな感じで大いに興奮しました。

>『ファニーゲーム』
リメイクの方を観ましたが、あれは確かにしんどかった。映画としては力量を示したと思いますが、だからと言って二回見る作品ではないですね。
2011年12月18日 21:55
>ベルイマン
やっぱりそう感じられましたか(笑)

ぼくも見ていて内容よりも映像の荘厳な美しさに惹かれた作品でした。

ハネケには特異なセンスがあるのは理解しますので、一般受けする作品も三本に一本くらいは撮って欲しいと思っています。

>二回

無理ですね(笑)記事に書くとしたらもう1回見なきゃいけませんが、もっと楽しく時間を過ごしたい(笑)

ではまた!
オカピー
2011年12月19日 21:08
用心棒さん、こんばんは。

僕がモノクロの凄さを最初に強烈に感じさせたのはベルイマンです。その時に感じたモノクロの美しさを彷彿とするのは並大抵のことではありませんよ。
感激したなあ。
本作は内容的には一般にも受け入れられる範囲でしょうね。
シュエット
2011年12月21日 14:13
この間、レビュー書きながら5点前後続きで半分腐りかけていたオカピーさんもこんな曲者のモノクロ映画で、若干気持ち持ち直したのでは?(笑)
この抑圧はトリアー監督の「ドッグヴィル」にも通じるなって見ながら思ったのが記憶に残っています。
>この厳粛な静かさにはぞっとさせられるが、それを醸成したモノクロ映像の美しさにもっと圧倒させられる。
ぞっとするような空気をもった静かさは他の作品でも感じられる空気。こういう描き方はハネケ監督上手いですネェ。
私はWOWOWのトラウマ映画館4本で、やっぱり60年~70年代っていい映画とってたナァって改めて思い、トラウマ度が徐々にアップしていったWOWOW特集で気分よくなっているこの頃です。
オカピーさんも今年のお疲れでお風邪など召しませんようにご自愛くださいね。
オカピー
2011年12月21日 17:57
シュエットさん、こんにちは。

新作では本当に良い作品に遭遇できなくてくさっていますが、新作を観続けるのももうカウントダウンという感じです。
どの国の映画もTV視聴者に標準を合せすぎて、程度が低すぎます。そうでない場合は作者の独りよがりが目立つ、という二極化が進んで、お話になりませんね。僕は数年前に10年もしたら映画は終るだろうとある人に言いましたが、残念ながら“映画”は終りかけています。

>トラウマ映画館
ソウル・バス作品以外は観たことがあるのですが、「不意打ち」と「裸のジャングル」はまた観ました。「アポカリプト」は「裸のジャングル」だと指摘したのは町山氏だけではありませんぞ(笑)。
「質屋」は勿論必見の傑作。年内に見なくちゃ。

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