映画評「抵抗(レジスタンス)」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1956年フランス映画 監督ロベール・ブレッソン
ネタバレあり

僕の記憶するところでは、ロベール・ブレッソンが日本に初めて紹介された脱獄サスペンスの傑作(長編第4作)。

allcinemaで“サスペンス・アクション”と紹介されているが、サスペンスではあるがアクションではない。最近は止めたらしいallcinemaとしての評価も低いことから想像されるように本作に対して冷淡な編者が適当に記したものでしょう。鑑賞するのは30年ぶりくらい。

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実話を基にしたお話で、舞台は1943年ナチス・ドイツ占領下のリヨン。そこにある脱出不可能とされる刑務所に収容され、最終的に死刑を宣告されたレジスタンスのフォンテーヌ(フランソワ・ルテリエ)が何とか脱獄しようと、まず安全ピンを手に入れて手錠を外し、スプーンを時間をかけて研磨してナイフの代わりにして羽目板を外す作業に取り掛かる。枕や衣料を解いて綱を作り、やがて新たに同室となった敵かもしれない少年と共に夜陰に乗じてプラン実行に移す。

敢えてジャンルを細かく言えば心理サスペンスだが、寧ろ囚人のきめ細かい作業と心理をつぶさにかつ頗る簡潔に見つめたドラマというのが本当であろう。アップが多い為に生れる緊張感は 他になかなか類を見ず、観客たる我々がそこに身を置いているような錯覚を覚える。

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ナチスの監視する刑務所という特殊な事情故に極めて台詞が少ないこと、大半が事実上の独房にいることにより人と人とのリアクションが皆無に近いことにより心理を語る為にナレーション(ヴォイスオーヴァー)が必然的に多かれ少なかれ必要となるわけであるが、この作品がここまで簡潔になったのは大量のナレーションのおかげではない。ナレーションを使っていないブレッソンの他の作品も映画史上稀に観る簡潔さにより構成されて我々を感銘させていることからもそれは明らか。

本作が内心の声という形でナレーションを多用したのは、手記の映画化という事情にもよるが、映画芸術的には、刑務所の外で聞える銃声その他の音との対照(コントラスト)として置かれているにほかならない。内なる声があって初めて銃声が本質的な恐怖を生み、外に走る列車の音が希望を生むのである。

僕も最近のアメリカ映画のナレーションには嫌になることが多いが、本作のそれを不快に感じるとしたら恐らくナレーションを使うこと自体に偏見を抱いているに違いない。

題名を「ていこう」と読むか「レジスタンス」に読むか、それが問題。とりあえず「レジスタンス」にしました。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2011年10月01日 07:15
俳優が自分の感情を何でもかんでもしゃべるようなテレビドラマがありますが、それにくらべれば、はるかな高みにある作品でありましょう。

ところであのビスコンティの『ベニスに死す』が現在、銀座テアトルシネマで上映されてますよ。
DVDも1000円以下でAmazonで売ってますけど、購入されましたか?
ねこのひげは、3枚まとめて3000円というので買いましたです♪
オカピー
2011年10月01日 16:58
ねこのひげさん、こんにちは。

本文でも書きましたが、説明の為に主人公が喋っているわけではないんです。外の銃声、列車の音との対比の為に映画文法的に必要なんですね。
実際には、手記を映像化するという立場から必要だったんでしょうが。

>『ベニスに死す』
自作DVDは持っていますが(笑)。
そのうち自作ブルーレイを作ろうと待機しているのです。NHKもWOWOWも映画は全部ハイビジョンになったので(万歳!)。

今は物を持たない年間に入っていまして、大量のビデオもDVDやブルーレイとダブるものは尽く捨てることにしています。お客が来て寝られるスペースができるまで新規に買うのはお預けだなあ^^;
2011年10月14日 00:58
オカピーさん、こんばんは。
わたしは、この作品を25年ほど前に映画館で観ました。
>囚人のきめ細かい作業と心理をつぶさにかつ頗る簡潔に見つめたドラマというのが本当であろう。
おっしゃる印象はわたしも同じでした。そして、更にこのようなドラマツルギーの表現として、わたしが素晴らしいと思ったのは、モーツァルトの「荘厳ミサ曲」をこのような作品で挿入曲としていることです。
余分な贅肉をこれほどそぎ落としたリアリズム作品で、このようなドラマチックなインサート効果を上げていることも驚きに値すると思います。

また、あまりに強烈で記憶にはっきりと刻みつけられたシーンは、少年を殺るか否かの極限の選択に迷う主人公のボイスオーバーでした。
大戦の被害の甚大であったフランス人の限界状況の経験をこのようなところに表現したブレッソンは、映画作家として徹底したリアリストだったのだと思います。
ボイスオーバーに関わってのオカピー評として、
>本作が内心の声という形でナレーションを多用したのは、手記の映画化という事情にもよるが、映画芸術的には、刑務所の外で聞える銃声その他の音との対照(コントラスト)として置かれているにほかならない。内なる声があって初めて銃声が本質的な恐怖を生み、外に走る列車の音が希望を生むのである・・・

は、素晴らしい作品評だと思います。

では、また。

P.S.
用心棒さんも以前にアップされていますね。
  ↓
http://yojimbonoyoieiga.at.webry.info/201003/article_6.html
オカピー
2011年10月14日 16:43
トムさん、こんにちは。

>「荘厳ミサ曲」
たしか「少女ムシェット」でも終了後暫く真っ暗な画面に音楽だけが流れたような記憶があります。

>ボイスオーバー・・・オカピー評
恐縮です。
allcinemaの三番目の読者評がナレーションについて余りに無理解だったので、擁護する為に書いたようなものですが、そういう時はなかなか良いものが欠けることがあります。
不調な中、ここは一生懸命考えて書きました。

>用心棒さん
僕もこちらから積極的に遊びに行ける状態ではないので、遊びに来てほしいな。
余裕ができたらコメントを残してきましょう^^
シュエット
2011年11月15日 10:08
おはようございます。
映画サイトでは、どうしてもジャンル分けの分類って必要なんでしょうけれどネェ。サスペンスもねぇ。たしかに観てる間はハラハラドキドキさせられるんだけど、それ以上にブレッソン作品は観るものに緊張を強いる。本作などもSuspenseの緊張というよりもやっぱりResistanceの緊張そのもの。
本作はスクリーンでも2回ほど。CSでも観てるけど、何度観てもピンと張り詰めた映像の緊張感が最後まで緩まないってのも凄い。
最近知った映画評論家の町山智浩さんが著書の中で、映画は作品から芸術へ、そして今は製品になってしまったって書かれていた。
やはりブレッソン作品は映画芸術ですね。
ブログにアップしてないけど、とりわけ最近は70年代以前の作品を見ることが多い。小さな作品でも映画を楽しめる。最近のは娯楽でもあまりに刹那的過ぎる。
手書きで卒論書いてたアナログ世代から、PCで卒論つくるデジタル時代になってしまった、これも時代の潮流でしょうかしらね(笑)
オカピー
2011年11月15日 21:17
シュエットさん、こんにちは。

>ジャンル分け
紹介するのに一番早い手だから使いますが、本作などは所謂世間で言うサスペンスではなく、緊張感を強いられる強烈な心理ドラマというのが一番近いかな。
それにしても、“サスペンス・アクション”はひどい紹介ですよね。

>町山智浩さん
彼も有名になってきましたね。
彼も双葉さんの影響を受けた人で、大衆映画愛好なのですが、先日「ある愛の詩」を誉めていたのは意外でした。この人はもっとマニアック作品好みかと思っていたので。

>今は製品に
なかなか良いことを仰る^^

>アナログ世代
僕も映画評を書き始めた時は手書きで、それから7年くらいしてワープロ、それから15年くらいしてパソコンになりました。
手描きと違って綺麗な★☆が書けるのが嬉しかった(笑)
手書きで良かったのは、一時代のパソコンみたいに書いたのが全部パーになることがなかったことですね。下手でも何でも一応は残る(笑)
2011年11月15日 22:26
 こんばんは!

 おひさしぶりです。みなさん来ていらっしゃいますね。

 この映画は去年の春先に『海の沈黙』と同時期に梅田で上映されていたので、観て来ました。

 あの緊迫感は他では味わえませんし、脱獄の準備をやり続けることが生きている証になるわけですから、集中力も凄まじい。

 ラスト・シーンは霧に包まれていますが、当時は戦局がどうなるか分からない状態での脱獄ですし、まさに五里霧中だったでしょうかね。

 ぼくらは歴史がその後にどうなるか知っているので、あの霧は脱獄するのにちょうどいいなあくらいに思ってしまいましたが、予断を許さない、見えない未来への不安を視覚化したものなのかなあと感じながら、エンディングの暗転が続くスクリーンを眺めていました。

>町田智浩
 ここ数年、彼の書籍や番組を楽しみにしています。来月、彼が著書で採り上げていた映画のうち、『質屋』『裸のジャングル』『不意打ち』『戦慄!昆虫パニック』の4本がWOWOWで放送されますね。

 年末も迫ってまいりましたし、御身体をご自愛ください。

 ではまた!
オカピー
2011年11月16日 17:14
用心棒さん、お久しぶりです。

ブレッソンは映画の映像にほれ込んだ人には無視できない監督ですから、皆さんに来て貰えました^^

>「海の沈黙」
も凄い映画でしたねえ。
メルヴィルですけど、ブレッソンに通ずるタッチでしたねえ。

>未来への不安を視覚化
そういうメタファーが込められているのかもしれませんね。

>『質屋』『裸のジャングル』『不意打ち』『戦慄!昆虫パニック』
あはは、面白い組合せ!
しかし、渋いなあ。映画としては「質屋」が断トツでしょうが、「裸のジャングル」「不意打ち」はそれほど有名ではないけど映画マニアなら一度は観ておかないといけない作品ですから嬉しいですね。僕は皆観ていますが、最初の三本は是非保存しておきましょう。
十瑠
2014年01月21日 13:56
所謂“カメラ=万年筆”的な作家と思っていたら、音の使い方も巧いじゃないかとビックリした映画でした。私は単純に主人公の境遇を観客にも感じさせる効果があったと書いていますが、この記事で仰られるように「内なる声があって初めて銃声が本質的な恐怖を生み・・・」なのですなぁ。
改めて、脱帽!

「バルタザール」のDVDを市立図書館で見つけたのに、観るのはいつのことやら・・・。
オカピー
2014年01月21日 19:33
十瑠さん、こんにちは。

>音の使い方
そうなんですね。
僕もこの部分は強く印象に残り、思わず「内なる声があって・・・」と書きたくなりましたね。自分の表現としても気に入っております^^

>「バルタザール」
何だかよく解らないけど、感動させられました。
WOWOWで放映された時ハイビジョン録画してブルーレイに保存してあります。なかなか再見できませんが、また観たい作品。

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