映画評「クレイジー・ハート」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2009年アメリカ映画 監督スコット・クーパー
ネタバレあり

映画に限らず文化・芸術で大事なのは新味であるが、本当に新味のある映画など年に2本あるかどうか。幾つか要素を併せて再構築したり、アングルに工夫を凝らすというのがそれを回避する手段であるが、それにも限界があり、かくして僕らは毎日似たような作品に付き合わされることになる。
 しかし、新味がなくては観るに値しないかと言われれば必ずしもそんなことはなく、特に総合芸術と言われる映画には楽しむ要素は色々ある。お話が定石的でも見せ方や俳優たちの魅力で金を払う価値が出て来る。本作は正にそんな作品である。

かつての人気カントリー歌手ジェフ・ブリッジスはどさ回りに零落して酒に溺れるが、ある日インタビューしに訪れた女性記者マギー・ギレンホールと懇ろになる。
 営業先から遥々彼女の家に向かう途中で単独事故を起こして彼女の家に暫く寄寓することにし、四歳になる彼女の息子とも親しくなるが、バーに幼児を連れて行った時に行方不明になる事件を起こし、彼女の逆鱗に触れる。これを契機に酒を断つ決意をし、今や立場が逆転した弟子に相当する歌手コリン・ファレルに嫌がらずに曲を提供、徐々に再起していく。
 結局マギーは彼を受け入れないが、数年後に再会した時彼は一種晴々した気分を覚える。

お話は破滅型の芸能人を描いてありきたり、特別な着想はない。30年近く前に見捨てた息子に再会を拒否されるのもありがちで、このエピソードの処理についてはやや舌足らずの印象が残る。

トーマス・コッブの小説を脚色をして自らメガフォンを取ったスコット・クーパーは元俳優で本作がデビュー作ということだが、タッチが穏やかで後味はすがすがしい。このところ「フローズン・リバー」のコートニー・ハント、「闇の列車、光の旅」のケイリー・ジョージ・フクナガなど一般ドラマ系に有望な新人監督が次々と現われ、映画の未来に多少明るさを感じさせるのは有難い限り。

本作の一番の貢献者は世評通り主演のジェフ・ブリッジスで、全ての面でだらしないが歌業に関してはプライドのある初老の男を好演。
 風貌は今や役者としての活躍の方が目立つクリス・クリストファースンに似せた印象で、内面的にはウェイロン・ジェニングスを参考にしたところがあるようだ。ジェニングスはまともに聴いたことがなく恐縮だが、日本でもおなじみウィリー・ネルスンとの共作アルバムを幾つか作っている大物で、2002年64歳で逝去している。

ブリッジスもファレルも歌がお上手ですね。

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この記事へのコメント

2011年08月08日 12:03
こんにちは。
うまい役者さんですね。
どんな役をやってもさまになっちゃうから不思議です。
歌も味がありますし。
2011年08月08日 14:11
恥ずかしながらウェイロン・ジェニングス
YouTubeで拝見しました。似てますね、とても。
(ジェニングスのほうがずっとハンサムですけど)
(^ ^)

夢を見、自分はこんなだけれど
人生のうちには、もしかしたら
「変われるかも」って思う瞬間というか
時期が必ずあるのね~
特に男性はその傾向が強いみたい。
でもそう簡単には人間変われない。
使い古されてきた「それみたことか」話
ですけど本作のラストはおっしゃられる通り
晴々した印象がいい感じで救いでしたね。

ところで、どうやら、
ただしゃべり倒していただけのような
気がしていますがわがブログ7年目に入りました。
いつのまにかやめて行っちゃう人の多い中、
今は続けられるだけ続けようと思っています。
プロフェッサーもそうでしょ?
これからもそれこそ変わりませず
よろしくお願いいたします。(ぺこり)
オカピー
2011年08月08日 19:38
kimion20002000さん、こんばんは。

ジェフ・ブリッジスは「ラスト・ショー」で初めて記憶したのですが、あの頃は共演したティモシー・ボトムズの方がお気に入りでした。
ボトムズも今でも地味に出演作が続いていますが、脇役なのですよ。

技術的に上手いというよ以上に、歌の心がある感じです。
オカピー
2011年08月08日 20:42
vivajijiさん、こんばんは。

ジェニングスはロック・ファンにも割合人気のある人ですが、歌自体はそれほど聴いたことがありません。

>変われるかも
僕は初恋のクラスメートに好かれようと中学二年の時に意識的に自己改革をしましたね。
恋の威力は凄いと思いました^^;
ある程度は成功しましたが、年を取ると共に臆病な自分に戻ってしまったようですTT

映画の方は、ありふれたお話ですが、無理に背伸びをした感じがしない作風がなかなか。

四月には精神的に参り、五月にはまた別の悩みが加わりましたが、ブログだけは続けようと思いましたよ。
お会いしたことはなくても、ブログの友達も友達。残念ながら消えてしまった人も数多知れず・・・。いつか復活されるといいなあと思います。
僕も来月で7年目です。
こちらこそヨロシクお願いします。
ねこのひげ
2011年08月09日 04:22
ジェフ・ブリッジスは映画初出演の『ラストーショー』以来のお気に入りの俳優の一人ですがこの『クレイジー・ハート』でアカデミー賞をとるまで、ハリウッドでもっとも過小評価されている俳優というレッテルを貼られていたんですよね。
出る映画出る映画、なぜかあまり評判よろしくなくて・・・・『八白万の死にざま』なんて好きでしたがね。
歌手や画家、写真家としても活躍しているそうで、多才多芸すぎるのかな?
ねこのひげ
2011年08月09日 06:33
ちょっと続きなどを・・・・(^^ゞ
公開した当時『レスラー』と同じではないかという批判もありましたけどね。
粗製乱造ではないいい映画であればよいと思うのですけどね。
同じテーマで作られた映画なんて百も二百もありますよね。
小惑星探査衛星『はやぶさ』なんて3本も映画化されますしね。3本とも違う視点からだそうで比べてみるのも一向です。
今朝、『父親たちの星条旗』を日本テレビでやってました。
『硫黄島からの手紙』と続けて放映したほうが面白いと思いました。
そこにテレビの価値があるように思えましたけどね。
オカピー
2011年08月09日 21:49
ねこのひげさん、こんばんは。

>アカデミー賞
本作での演技が特別に良かったというより、功労賞に近いものがあるかもしれません。長いアカデミー賞の歴史の中にはたまにそういうケースがありますね。

>『レスラー』
お話の構図は似たようなものですが、ドラマでは相似するのは当たり前。要はどう作るかどう見せるかです。
それより奇をてらったものに似た作品のほうを必要に応じて厳しく批判すべきと思います。「パルプ・フィクション」のもじり、「シックス・センス」のもじりなど数多く作られましたものねえ。

>『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』
確かに、同じ素材を違う角度から作るという珍しいペア作品ですから、続けてやって欲しかったですね。
1980年代フジテレビは“ミッドナイト・シアター”だったか、映画放映において実に画期的なことをやりましたが、あの当時の気概はどこへ行ってしまったか。
日本テレビが深夜枠では字幕放映を始めたのがその頃ですね。フジの様なCM中断なしとまでは行かなかったものの、なかなかやるなと思ったものです。

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