映画評「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2009年フランス=香港映画 監督ジョニー・トー
ネタバレあり

ジョニー・トーの「エグザイル/絆」は割合評判が良いが、僕は後半のフレンチ・ノワールとマカロニ・ウェスタンを合わせたようなところはゴキゲンだったものの、焦点をぼかしすぎた前半が気に入らず、評価を水準に留めた。
 本作は、前半やはりフレンチ・ノワール風のムードでまだるっこい感がないでもないが、本論に早く入ってくれるのは有難い。

マカオで中国人の夫と子供たちを三人組に殺され本人も重傷を負ったフランス女性シルヴィ・テスチューの父親ジョニー・アリデーが、復讐の為に遥々フランスからマカオを訪れ、アンソニー・ウォンら殺し屋三人を雇う、というのがその本論。

トーさんはどうもマカロニ・ウェスタンが好きらしく、この作品でも彼と殺し屋三人が親密度を深めていくシークエンスにおいて拳銃から放った銃弾で自転車を倒さずに走らせるなどして大いに遊んでいる。

彼の仇(かたき)を突き止めて襲撃を始めたのは良いが、ここで異変その一が発覚。即ち、犯人を目前にして呆然としてしまうアリデーは脳に残った銃弾の影響で記憶を失う症状が進行中だったのである。異変その2は、襲撃に失敗した彼の本当の仇つまり暗殺依頼者サイモン・ヤムが暗殺屋たちの依頼主でもあったということ。

しかし、義理と人情は日本人だけにあらず、彼らも一度引き受けた仕事は最後まで引き受けると確約し、アリデーが復讐を忘れた後も約束を守って敵と銃撃戦を展開、壮絶な最期を遂げる。残された彼らの家族らから倒れた彼らが自分の“親友”と教えられたアリデーは、家族と協力し合ってヤムを倒すべく向かっていく。

だだっ広いゴミ捨て場でゴミを固めて作った巨大な正四角柱を銃弾避けに使って転がしながら進んでいく場面などマカロニ・ウェスタンに強烈な香港調味料を加えたような感じになって馬鹿らしいと言えばこれくらい馬鹿らしい場面もない一方、ニヤニヤしながら観られるので何だか捨てがたい感じもする。
 子供たちが旗を売るふりをしてヤムのジャケットにシールをぺたぺたと貼り付けてそれをアリデーが目標にするというアイデアはともかく、ヤムもしたたかでそれを子分に着せるなどしてなかなか倒れず、アリデーがジャケットに空いた穴と倒れた男の傷を照合する、という終盤も失笑が洩れかねない。

といった具合に、余りしかつめらしく観てしまうと「何じゃこれ」という印象を残しかねない後半になっているが、僕は割り切って楽しんだ。

また、こういうタッチの作品に、そこまで義理堅くするほどの両者の関係性を印象付けられたか・・・などとケチを付けても始まらないような気がする。

アリデーがシルヴィ・ヴァルタンと夫婦であったことを知る人も今や少ない。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2011年07月03日 04:57
ジョニー・アリディーとはお懐かしい!
『冒険また冒険』を思い出しますね。
まだ生きていた・・・と言っては失礼か(^^ゞ
『RED/レッド』でもなつかしい名優ボーグナインが出てきて驚かされましたが・・・
1943年生まれの68歳だから、まだだいじょうぶですね。
『クリムゾンリバー2』にも出ていたんですが、記憶に残りませんでした。(~_~;)
2011年07月03日 13:04
こんにちは。
このタイトルの略称が「冷弾」というのは笑っちゃいますが、こういう監督さんは香港を守って欲しいなあ、と。中国資本のエンタメ大作ばかりになると、それはそれで寂しいものがありますから。
オカピー
2011年07月03日 20:28
ねこのひげさん、こんばんは。

おおっ、ご存知でしたか。
アリデーはビートルズと同じ頃フレンチ・ロックで大人気だったんですよね。ジョージ・ハリスンと同じ年の生まれかな?

僕なんかは若い時の長髪のイメージがあるので、「列車に乗った男」で久しぶりに観た時はその風貌にビックリしましたねえ。
オカピー
2011年07月03日 20:33
kimion20002000さん、こんばんは。

血がつながっていないのにトーさんとはこれいかに、という感じですが(笑)、この人、マカロニ・ウェスタンの影響が大なので、香港に残ってくれると思いますよ。中国映画は近年華美になりすぎた感がありますね。
2011年07月04日 23:50
あ、名盤CD7月号が更新されていますね。チェックしないと!

が、しかし、その前に。
この監督作品は大好物ですので、先にこちらにコメントを!

相変わらずの「フレンチ・ノワール×マカロニ・ウェスタン」に香港風味の香辛料をたっぷりとまぶしたような仕上がりで、楽しめました。
映画の出来はジョニー・トーの場合は「ザ・ミッション 非情の掟」の8点レベルを除けば、毎度、6点くらいのB級な仕上がりですが、個人的には、いい意味での馬鹿馬鹿しさも含めて”映画らしい”映画という印象で、好きです。

あと、「男とは基本的にどこまでも愚かしくロマンチストである」といった信条が垣間見られる点にも★1つ、プラスで献上したくなりますね!

余談ですが、監督は当初、アラン・ドロンにアリデーの役を演じてもらいと想定していたとか?そんな噂もあります。
ドロンが本当に出演していたら7点献上でした 笑
オカピー
2011年07月05日 16:24
RAYさん、こんにちは。

トーさんに限らずマカロニ・ウェスタンやフレンチ・ノワールで育った香港映画人は多いのではないかと思います。
昔のカンフー映画はマカロニそのものという作品も随分ありました。余り程度が低くてご挨拶に困ってしまうのも少なくないのですけどね^^;

後半だけなら評判の良い「エグザイル/絆」のほうが良いと思いますけど、全体的にはこちらのほうが楽しめました。

>「男とは基本的にどこまでも愚かしくロマンチストである」
そういうところがフレンチ・ノワール的でありますか。「冒険者たち」なんかは典型ですね。

>ドロン
やはりフレンチ・ノワールと言えば、ドロンが第一人者ですから、実現していたら楽しかっただろうなあ^^
アリデーはここ数年映画界での活躍が目立ちますけど、寧ろ60~70年代のアイドル歌手ですからね。
シュエット
2011年11月15日 10:17
本作、映画館で見たんだけどブログに感想かいてませんね。
ラストシーンなんて、こんな役アリデーにさせるなよってちょっと憤慨(笑)
そこへ行くとルコントの「列車に乗った男」は良かったなぁ。
>アリデーがシルヴィ・ヴァルタンと夫婦であったことを知る人も今や少ない。
「悲しみの兵士」のナレーションの声って彼なんですよね。少女時代の私はこの声にしびれてこの歌も好きだったなぁ。
最後のこの一行に反応してコメント入れさせていただきました。
最近のフランス映画も香港映画もノワール作品と冠されていても駄目ですネェ。
オカピー
2011年11月15日 21:32
シュエットさん、こんにちは。

この映画の馬鹿らしい部分は監督ジョニー・トーのマカロニ・ウェスタンの影響、友情はフレンチ・ノワールの影響なんでしょうね。

>アリデー
僕は70年代初めの長髪のイメージが強いので、「列車に乗った男」で久しぶりに再会した時にはびっくりしましたなあ。

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